◆◆◆薬用植物研究開発の最前線◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 日本における薬用植物の栽培普及とその課題
   医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター北海道研究部
                      菱田敦之研究サブリーダー

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はじめに
 漢方薬の国内生産額は2015年には2000億円に達し、2007年に比べて倍増すると予測されている(参考文献1)。日本で使用される漢方エキス製剤原料は2008年度の調査では、2万273tであった。原料生薬の使用量に対する生産国の割合は、日本が12.3%、中国が83.0%と中国の占める割合が非常に高い。

 近年、中国の経済成長に伴い価格は上昇し、安価で良質な生薬の入手が難しくなっている(参考文献2)。新たな生薬生産地を第三国に求める気運もあり、日本の国内栽培の再開に期待されている。本稿では、日本における生薬、薬用植物の生産地の普及とその課題を考察する。

国内の生産地の減少とその課題

 古くから日本で栽培されているシャクヤクは、その根を生薬「芍薬」として利用する。芍薬は、甘草に次いで国内第2位の使用量1123t(2008年度)の重要生薬の一つである。

 国内のシャクヤク栽培は、1970年代後半から増加して95年に585.4t、2000年頃から生産量が減少し、2010年の生産量は43.9tに激減した。シャクヤクの国内生産量の減少は、漢方薬の需要増に伴い、安価で品質の良い生薬を中国の生産地に求めた結果と思われる。日本に自生する植物をトウキ(当帰)およびミシマサイコ(柴胡)等も、同様に主産地が中国に移転して国内の栽培地は衰退した。

 国内栽培地の衰退は、栽培技術が失われたばかりではなく、その土地に適した種苗を失うこととなり、現在、国内栽培の再開の障壁となっている。

日本における薬用植物栽培の課題

 漢方エキス製剤とその原料生薬は日本薬局方に基づく品質基準があり、健康保険が適用される漢方エキス製剤は「薬価」が定められている。このような背景から、原料生薬は、高い品質基準を満たし、一方、近年の薬価引き下げに応じた価格で生産する必要がある。

 従って日本で生薬、薬用植物の自給率を向上させて持続的な生産を目指すためには、以下の課題を克服して品質の向上とともに生産コストを下げることが急務である(参考文献3)。

●機械化、省力化栽培技術の確立
 播種および収穫作業は特に労力を必要とし、これらの機械化、省力化技術の研究開発が必要である。伝統的な栽培方法を見直して既存の農作業機器が使えるように改良する必要である。

●薬用品種の育成
 医薬品原料に適した成分含量や品質を持つ形質、農業的に有利な形質を備えた品種の育成が必要である。弊所では薬用を目的としたシャク品種「北宰相」およびハトムギ品種「北のはと」を育成した。さらにシャクヤク品種「べにしずか(登録申請中)」、カンゾウ等の新品種育成を行っている。

●在来種苗の収集と保存
 生産地の減少とともにその土地で栽培さていた在来種が失われている。他所で保存されていた薬用植物は、栽培地の気候、風土などに適応するまでに数世代の更新を要する場合があるので、在来種は積極的に保存、維持する必要がある。

●登録農薬の整備
 省力化を図るためには、農薬を利用した病虫害の防除や除草作業が効果的である。野菜や穀物の栽培で安全性が示され実績がある農薬を薬用植物の栽培に応用して登録農薬を整備する必要がある。

●地域の指導者、技術者の育成
 知識や経験を持つ指導者や技術者の不足から新規栽培地では目標の収量に達していない。指導者、技術者の養成は、生薬、薬用植物の栽培において最も重要な課題である。

まとめ

 現在、日本における医薬原料用の生薬、薬用植物の生産は、必ずしも高い収益性がある作物とは言えず、外国産生薬と比べるとまだまだ「魅力的な価格」ではない。漢方薬の需要増が予測されていることから、現状の自給率12%を維持するためには相対的に国内の生産量を増加する必要がある。薬用植物栽培の普及と振興を進めるためには薬用植物栽培の機械化、省力化技術の開発、登録農薬の整備、薬用品種の育成など栽培環境を整備してコストダウンを図り、さらに地域の農業と一体となり、地域の技術者、指導者を育成することが最も重要な課題である。

参考文献
1)森田哲明:国際的な拡大の可能性を秘めた漢方 -漢方産業の概況と今後の発展に向けた課題-、NRI Knowledge Insight、vol.9,p。7-8 (2010)
2)日本漢方生薬製剤協会:原料生薬使用量等調査報告書-平成23年度の使用量-、日本漢方生薬製剤協会、平成23年7月15日
3)HISHIDA, A.: Agriculture and Human Nutrition Linkages: Old lesson and New Paradigms, The sixth Global Conference of Global Consortium of Higher Education and Research for Agriculture, 25 November 2009, Nairobi-Kenya Abstract Paper: p.28 (2009)