こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 厚生労働省において、医療技術評価を巡る議論が本格化しています。今年4月に中央社会保険医療協議会に費用対効果評価専門部会が設置され、5月以降、ほぼ月に1回のペースで専門部会が開催されています。厚労省では専門部会での検討結果を踏まえ、2014年の診療報酬、薬価改定で試行的な評価の導入を行う方針を示しています。

 ところが、このHTAに対して、製薬業界からは「薬剤費の抑制だけに使われるのではないか」と警戒する声が聞こえてきます。HTAを選考的に導入した国において、患者の新薬へのアクセスが阻害される事態が生じているためです。実際、英国では、高価な抗がん剤などを中心にHTAを担当するNICE(国立医療技術評価機構)がガイダンスで非推奨を決めたためにアクセスが阻害され、製薬会社・患者らが訴訟を提起するケースも生じています。このため、日本製薬工業協会は、HTAの拙速な導入に反対する声明を発表しています。8月に開催したメディアフォーラムでも、英国の事例を基に、HTAに対する疑問を改めて表明していました。

英NICEのHTA評価で新薬アクセスが悪化、製薬協がデータを紹介
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120904/163054/

PhRMAがHTAに関するセミナーを開催、「日本にとって最適のシステムにするには協調と対話が必要」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120716/162157/

製薬協の手代木会長、「HTAは慎重に論議を」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120522/161159/

製薬協の土屋国際委員長が国際委員会の活動報告、医療技術評価(HTA)には慎重
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120420/160679/

 HTAに反対する意見の中には、日本では薬価を市場の実勢価格に基づいて改定し、当初の予想を大きく超えて販売された医薬品に対しては市場拡大再算定の仕組みが既に存在していることを挙げる声があります。しかし、その仕組みは改定を重ねて複雑化していることに加え、きちんとした疫学的データに基づいて評価する仕組みなのかというと大いに疑問があります。HTAの導入により、かえってコストがかかるようになるのではと懸念する声もあります。もちろん、事務コストなどが不必要に膨らむ事態となっては本末転倒ですが、疫学や医療費などのデータをきちんと収集し、費用対効果を科学的に評価できる体制は整備する必要があるでしょう。

 いずれにしても、人口に占める高齢者の比率が今後も拡大し、医療費負担の増加が避けられない以上、限りある医療費をより効率的に活用するためには、医薬品、医療機器、医療技術の費用対効果を改めて検証し、資源配分の在り方を見直すべきでしょう。従来、主に疾患の部位や症状に基づいて治療が行われてきましたが、コンパニオン診断の登場によって、例えばEGFR遺伝子に変異を有するがんにはこの治療薬が有効といった具合に、原因に応じた治療が行われるようになりつつあります。つまり、疾患の概念が変わりつつある中で、診断、治療、予防などに対する医療費の配分の在り方が従来のままでいいのかも検証し直すべき時期に来ているといっていいでしょう。

 もちろん、HTAの手法が十分確立できているかどうかは議論の分かれるところでしょうが、医療の費用対効果を評価・検証すること自体は不可欠なのではないかと思います。関係者には是非とも、前向きな議論を期待するところです。ちなみに、来週月曜発行の日経バイオテク9月24日号には、HTAを巡る議論を取り上げたリポートを掲載しましたので、どうぞお楽しみに。

 さて、本日日経バイオテクONLINEに、国内製薬企業6社からなるコンソーシアムである日本PGxデータサイエンスコンソーシアム(JPDSC)が構築した日本人の健常人3000人分の一塩基多型(SNP)データを集めたデータベースに関する記事を掲載しました。

JPDSC、GWAS解析のための健常人コントロールデータベースを公開
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120918/163278/

 JPDSCコントロールデータベースの特徴は、医薬品開発の際に利用することを前提に設計されている点にあります。3000人のサンプルは男女比や地域差を反映したものとなっています。このデータベースをコントロールに用いることで、まれな副作用であっても、関係性の強いリスク因子を突き止めることができます。

 JPDSCと本誌では、今年11月12日に共催のセミナー「個別化医療におけるゲノムデータベースの活用-ゲノムデータベースは創薬と医療に役立つか-」を東京・秋葉原で開催します。セミナーでは、日本各地で整備が進められているゲノム関連のデータベースが、実際に医療や創薬の中で有効に活用されるのか、あるいは医療や創薬の観点ではゲノムデータベースはどうあるべきか、といったことをテーマに、製薬企業や規制当局も交えて議論する予定です。皆様のご参加をお待ちしています。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/121112/

 さて、10月に入ると10日から12日まで、横浜でバイオジャパン2012が開催されます。開催初日の10月10日午前中の基調講演は、製薬協の手代木会長、FDAの元局長のvon Eschenbach氏、三菱ケミカルホールディングスの小林社長が登壇するということです。この基調講演の裏番組で、バイオベンチャー関係者による勉強会であるBaNZaIが「ベンチャー白熱教室」と題したセミナー&ディスカッションを開催します。起業家予備軍に起業のノウハウなどを提供するとともに、バイオベンチャーに興味がある人たちに実情を理解してもらうための講演とディスカッションを行うということで、バイオベンチャー関係者には魅力的な内容となりそうです。

http://www.banzaiweb.org/biojapan2012/

 本日はこのあたりで失礼します。

 なお、何度か紹介していますが、日経バイオテクONLINEに掲載した記事のうち、機能性食品に関する話題のみを提供するサービス、環境・農業に関する話題のみを提供するサービスを開始しました。食品関係者、環境バイオ、農業バイオの関係者は、こちらのご利用をぜひともご検討ください。

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https://bio.nikkeibp.co.jp/ffood/

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http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/env/

 また、日経バイオテクONLINEでは、皆様からの「人材募集」「セミナー・学会」「技術シーズ」などの告知の掲載コーナーも設けています。「人材募集」は大学、公的研究機関の研究者個人による募集告知のみ無料としていますが、「セミナー・学会」「技術シーズ」の告知については、大学などの事務局の方による告知等も受け付けています。ただし、企業による告知はいずれも有料とさせていただいています。

 特に人材募集のコーナーは利用者も多く、投稿いただいた方からご好評をいただいています。一度登録すれば何度でもご利用いただけるので、どしどしご利用ください。

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                    日経バイオテク編集長 橋本宗明