こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。

 9月7日に2013年度予算における概算要求が公表されました。編集部では概算要求の中で、バイオテクノロジーに関連する施策の情報を集めるべく、全力を挙げて各省庁を取材しています。既に何本か関連記事を掲載しています。さらに9月24日発売号では、特集でこの話題を取り上げます。

総合科学技術会議、2013年度予算の重要施策アクションプランの対象を決定
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120913/163225/

農水省の予算要求、農林漁業6次産業化で86億円、ファンドも本格始動
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120912/163201/

農水省のバイオマス新規予算要求、バイオマス産業都市づくり34億円と食品産業環境対策17億円
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120912/163200/

経産省、個別化医療で81億円を要求、天然化合物ライブリーやバイオ医薬製造施設を整備
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120912/163180/

厚労省、2013年度の厚労科研費の研究に概算要求前の事前評価を実施、一部に新規事業も
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120820/162822/

 さて、今回の概算要求では、環境省が「福島におけるゲノム解析による放射性遺伝影響調査(福島ゲノム調査)」に11億9100万円を要求しています。この施策では、福島に居住している親子(子供は特に原発事故後に生まれた人)のホールゲノムを高速シーケンサーで解析し、原発事故による放射線被曝の影響が生殖細胞を通じて世代間で受け継がれているかどうかを検証します。

 この施策については構想が明らかになった直後に、「やっても意味がない」との批判が巻き起こりました。放射線によるDNAへのダメージはゲノム上でランダムに起こること、あるいはシーケンサーのエラー率を考慮すると、こうした意見が出てくるのは当たり前でしょう。

 福島県の関係者に聞いてみると、彼らはこうした意見を十分承知しています。そもそも事故後の被爆量を勘案すれば、ゲノムに傷害が起こりそれが子供に伝わっているなどあり得ないということもよく分かっています。では何のためにやるかといえば、何も起こっていないことを福島の住民に納得させるためです。研究者であればこれまでに蓄積されたデータや論文で納得するのかもしれませんが、普通の人に対してはそれでは不十分ということなのでしょう。科学的に新たな発見は期待できないので、アカデミアの人間からすれば「研究費の無駄」に見えるのは仕方のないところかもしれません。

 ところで、原発事故を収束させるための政府の施策については、科学的に正しい判断に基づいているのか疑問に思うことばかりです。たとえば除染が典型的な例でしょう。政府は徐染による目標を年間1mSv以下に置いています。徐染は何のためにするのかと言えば、放射線による健康への影響を排除するためです。では1mSv以上は危ないのでしょうか。汚染地域全てを1mSv以下にするには何兆円もの金がかかります。放射線の専門家は、この金の使い方が合理的がどうか分かっているはずです。

 何が何でも放射能を除去することが正しいという風潮が蔓延しており、マスコミもそれに乗っかった報道を繰り返していますが、こういう時こそ科学的見知に基づいた提言がアカデミアからなされるべきではないでしょうか。