◆◆◆薬用植物研究開発の最前線◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 薬用植物の栽培研究と種子交換について
   医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部
                      栽培研究室 熊谷健夫主任研究員

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 薬用植物資源研究センター筑波研究部栽培研究室で行っている薬用植物の栽培研究と資源保存について、さらに私が薬用植物資源研究センターで行ってきた栽培研究と当センターで行っている種子交換について紹介します。

1.薬用植物の栽培研究と資源保存
 筑波研究部の栽培研究室では、主に漢方薬や医薬品原料に用いられる温帯性薬用植物の栽培と品質に関する研究を行っています。生薬の供給は一部の種類を除き、その多くは野生品の採取により供給されてきましたが、野生植物資源の減少に伴い、薬用植物の栽培化が進められてきました。しかし、その歴史はまだ浅く、多くの薬用植物で栽培法が確立されていないために、国内で栽培可能な植物について栽培と品質評価法を確立するための試験を行い、栽培指針を作成しています。

 日本の薬用植物の優良種苗の確保および栽培技術の指導を目的とした「薬用植物栽培と品質評価」は薬用植物資源研究センター(旧薬用植物栽培試験場)、国立医薬品食品衛生研究所生薬部、薬系大学、薬業界の各専門家並びに都道府県の薬用植物担当官などが作成に当たり、Part1からPart12まで刊行され、合計63品目の指針が作成されています。「薬用植物栽培と品質評価」では各植物について栽培種の特性、栽培法、生薬の品質評価、栽培暦、特性分類表など10項目について詳しく記述されています。筑波研究部ではミシマサイコ、トウキ、ハトムギ、ベニバナ、ムラサキ、キバナオウギ、トウスケボウフウ、カワラヨモギ、マオウ、ヒナタイノコズチ、クソニンジンなどの指針作成を担当しました。

 私はケイガイ、サフランの栽培指針作成を伊豆薬用植物栽培試験場在勤時に、ハナトリカブト、ヨロイグサの栽培指針作成を北海道研究部在勤時に担当しました。

 ケイガイ(Schizonepeta tenuifolia)はシソ科の植物で中国北部原産で、中国の大部分に分布しており、花穂の部分を荊芥穂といい、薬用として用います。繁殖は種子を用い、伊豆では4月上旬から下旬に播種すると、8月になると花穂の下から開花し始め、順次上へ開花していきます。この花穂の開花が半分以上過ぎたころ、地際部から刈り取ります。8月下旬から9月中旬が収穫の適期です。

 サフラン(Crocus sativus)はアヤメ科の植物で地中海沿岸からインドに至る地域に原産する多年生草本です。柱頭を採集し、乾燥したものが生薬のサフランで、大分県竹田市で室内栽培が古くから行われています。サフランは球茎重が重いほど開花球茎割合が高くなり、15g以上の球茎では80%以上が開花し、採花栽培に用いる球茎はなるべく大球を用いるようにします。

 ハナトリカブト(Aconitum carmichaeli)はキンポウゲ科の中国原産の植物で、切り花用として多く栽培が行われてきました。薬用に母根(烏頭)と母根のまわりに着生する子根(附子)を用います。附子と鳥頭は神農本草経の下品に収載されており、漢方の要薬の1つです。植え付けの時期は、排水良好な畑を選定し9月上旬から10月中旬に植え付けます。10a当たりの乾根収量は1年栽培の子根(附子)が100?から300 kg、2年栽培の子根が300?から480 kgです。

 ヨロイグサ(Angelica dahurica)はセリ科の植物で、生薬名を白シ(ビャクシ)といい、中国東北部、朝鮮半島、日本に分布する多年生草本です。栽培方法は 2年生栽培と1年生栽培があります。2年生栽培では苗床で1年間育苗後に本圃に定植します。1年生栽培ではセルトレイに播種して育苗し(北海道では4月上旬から中旬に播種、ビニールハウス内で育苗)、6月上旬から中旬までに圃場に定植します。収穫物の根は低温環境で自然乾燥を行うことにより、ショ糖を生成し、希エタノールエキス含量が増加することが明らかになっています。

 重要な薬用植物資源としては、ケシ栽培の研究を行っています。現在、Papaver somniferum、Papaver setigerumの外国系統約50系統の保存とアヘン採取を目的とした栽培を行っており、Papaver somniferumの一貫種という栽培種がアヘン採取系統として栽培されています。また、漢方に用いられる主要生薬の麻黄(Ephedra)は、生育環境と資源の保護を目的に、中国政府が輸出を制限していますが、将来に向け国内でも栽培ができるように麻黄の栽培研究も行っています。カノコソウValeriana faurieiの栽培研究も行われ、栽培法の確立に関する研究に取り組んでおり、一般農家の人への栽培普及も行っています。

 薬用植物の資源保存は現在、筑波研究部では圃場、標本園、温室などにおいて約1050種の植物の保存を行っており、マオウ、カンゾウ、ウコン、ミシマサイコ、トウキ、カノコソウ、ジオウ、シャクヤク、ボタン、コガネバナ、オタネニンジンなど日本薬局方に収載されている重要生薬の植物の保存を重点的に行っています。

2.植物の種子交換
 薬用植物資源研究センターでは北海道、筑波、種子島の各研究部で採取した種子に基づき、毎年種子交換目録(Index seminum)の作成を行っています。

 種子交換は世界各国の植物園・大学・研究所との間で、分譲できる種子の目録
(Index seminum)を送付しあい、希望する種子をお互いに交換する国際学術協力です。2010種子交換目録では合計 973 点(野生種:441 点、栽培種:510 点、温室種:22点)の種子を掲載し、2011種子交換目録では、合計 869 点(野生種:327 点、栽培種:517 点、温室種25点)の種子を掲載しました。

 2010年は397機関(62カ国)に種子交換目録を送付し、種子交換の請求に対して、1147点(81機関)の種子を送付し、2011年は397機関(62カ国)に種子交換目録を送付し、種子交換の請求に対して、1351点(90機関)の種子を送付しました。2011年の送付点数が多かった国はドイツ、ロシア、ポーランド、ウクライナ、ベルギー、ハンガリーなどでした。種子導入も積極的に行っており、外国の研究機関との種子交換などにより毎年重要な植物の種子導入を行っています。

 薬用植物の資源保存、栽培研究は今後も重要な業務であり、研究に励んでまいりたいと思っています。