昨夜のU20ヤングなでしこの試合は一見の価値がありました。守備の手堅さと、ドリブルやミドルシュート、泥臭いゴール前のゴールなど個性がきらりと光る次世代のなでしこが大活躍。こうした選手層の厚さが、わが国が女子サッカーのワールドカップで揺るがぬ地位を固める基盤となります。ワールドカップ優勝に慢心せず、すかさずU20をしかも被災地の東北に招致した日本サッカー協会の手腕はお見事です。愚息の応援で利府のスタジアムに行ったことがありますが、東日本大震災によって、今月やっと修復・開場したことは知りませんでした。昨夜のゲームで復興に加速がかかることを期待しています。但しTVで見る限り、昨夜の試合の観客数には不満があります。是非とも東京の国立競技場で開催される予定の決勝リーグ(8月30日から9月8日)では競技場を観客で埋め尽くしたいと願っています。ウェブでまだチケット買えますので、皆さんもいかがでしょうか?
http://jp.fu20wwctickets.fifa.com/

 さて、バイオでも是非、ご参加いただきたいシンポジウムがあります。

 厚生労働科学研究費補助金「抗がん剤効果予測による乳がん患者の再発リスク抑制と毒性軽減 および医療経済負担低減に関する検証的研究」研究班のシンポジウムにご注目です。あまりに長ったらしい名前のため、ひどくつまらなそうに聞こえるのが問題ですが、このシンポジウムにはがん治療の未来が詰まっているのです。下記をご参照の上、是非ともご参加願います。私も末席を汚し、今後の乳がん治療の展開をお話いたします。
http://www.ootr-institute.org/download/doc/78.pdf

 皆さんもご存じの通り、他のがんと比べて乳がんはがんが均一であること、組織的にがん組織を生検し易いこと、遺伝的な研究も進んでいること、そして何よりも欧米の女性のがん患者が多いこと、日本でも最近増加しており新患数は6万人を超えたことなどから、分子標的薬やバイオ医薬開発では他のがんを圧倒的に引き離して、新薬開発が進んでおります。腎臓がん・乳がん→大腸癌→肺がん→肝臓がん→その他のがんといった順に固形がんの技術突破が進んでいるという観さえあります。乳がんの治療技術開発を見れば、それに続くがん治療の動向も透視できるという訳です。実際、抗体医薬「ハーセプチン」→抗体医薬「アバスチン」→分子標的薬「タイケルブ」→抗体医薬ペルツヅマブとハーセプチンとの併用(米国で今年認可)→分子標的薬mTOR阻害剤(米国で今年認可)→抗体抗がん剤複合体TDM-1→  など、多数の先駆的治療概念が新薬とバイオマーカを投入して商品化されています。

 今回のシンポジウムでは、個の医療の鍵を握るバイオマーカーKi67、そして最近話題の医療経済(すでに乳がんの臨床現場では医療経済的な制約、つまり患者の世帯所得減少で治療選択を制約される現状に直面しています)、さらには乳がん患者の治療シミュレーションを議論します。個の医療や医療経済はもはや耳新しくありませんが、この研究班では近未来の乳がん治療を見据えて、治療シミュレーション技術を開発していることが極めて斬新で先見性に富んでいます。

 がんゲノムプロジェクトの進行などで、現在では多数のバイオマーカーや治療標的が毎週のように報告されています。戦後の化学療法の開発以降はほとんど新薬が登場しなかったがんの治療は抗体医薬や分子標的薬の登場やその併用療法の進展で、急速に変貌を遂げつつあります。こうした場合に、最大の問題となるのは情報の共有です。勉強不足の医師ではがん患者に最適な治療を供給できなくなった現状を直視しなくてはなりません。しかも、期待の勤務医は過重な診察とペーパーワークで勉強する時間さえない。

 今の医学教育や卒後教育では、もはやがん技術革新には対応できない。治療シミュレーションの開発の背景にはこの問題意識があります。同様なことは、リウマチなど新たな医療技術突破が起こっている疾病領域が直面する問題でもあります。バイオテクノロジーによる技術突破は、教育訓練、そして情報共有のシステムの全面的な革新を伴わなくては、患者さんを幸福にすることはできないのです。

 すでに航空業界では、フライトシミュレーターが実機による訓練を補完しています。一部、医療でもシミュレータが使われていますが、単なる手技の訓練のためです。今回のシンポジウムで初めて発表される乳がん治療のシミュレーターは、まさに飛行機のシュミレーターに近く、患者の情報を入力して、治療判断をシミュレートする仕組みを目指しています。これによって、最新の情報を実際の臨床現場と酷似した条件で、医師が判断しながら咀嚼・共有することを狙っています。いちいち古くさい情報しか載っていない教科書や情報の真偽も定かで無いウェブで情報を収集個人的な解釈でばらばらな判断をする必要もなくなります。最終的には、システム生物学の一つのゴールとして、治療シミュレーターをイメージしています。最新の情報がウェブから収集され、専門家のネットワークによる情報の重み付けを経て、治療シミュレーターに供給され、常に最新の治療法と診断法を学べるシステムです。このシステムを活用できれば、個の医療を円滑に実現することもできるでしょう。患者さんに対する治療とその効果や副作用もインプットすれば、より個別化したシミュレーターを構築できますね。こうなると電子カルテではなく、ウェブ上で個人毎のシミュレーターを保管しておけば、全世界どこの医療機関でも情報を共有でき、無駄な医療やリスクの高い医療を排除することもできます。医療経済的な分析も盛り込めば、最適の医療を最適のコストで受療することもできそうです。今回のシンポジウムは最先端の医療技術を議論しますが、そこに横串としてシミュレーションを入れれば、ばらばらに起こっている技術突破を、患者さんに還元する最適のルートを示すことができると期待しています。

 勿論、患者か、潜在的な患者である健康者が、自らの病気に対処するセルフメディケーションや健康教育にも資することは間違いありません。風邪でも大病院に殺到する国民皆保険制度の愚かなシステムから、自ら適切に判断して健康に責任を持つ国民が参画する賢い国民皆保険制度を構築するためにも、治療シミュレーションは決定的な役割を果たすと考えております。

 是非とも製薬・診断薬企業のみならず、病院関係者、ICT関係者、新しいウェブや医療サービスに関心のある関係者、そして是非とも厚労省関係者にはご足労いただきたいと願っております。どうぞ、下記のサイトからお早めにお申し込み願います。
http://www.ootr-institute.org/download/doc/78.pdf

 残暑です。皆さん、今週もどうぞご自愛願います。

         日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/