こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。連日暑い日が続いていますが
皆様いかがお過ごしでしょうか。編集部は今週月曜日から昨日までが夏休みでしたの
で、通常、水曜日にお届けしている「SOLUTIONS」のメールマガジンを本日お届けし
ます。

 先週、先々週のメールマガジンでも紹介しましたが、7月28日から8月6日にかけて、
出張でアフリカのケニア共和国に行ってきました。取材の目的は、長崎大学の熱帯医
学研究所(熱研)のケニア拠点の活動について取材することです。

 ケニアは49年前に英国の植民地から独立した人口約4000万人の共和制の多民族国家
です。2007年末には大統領選挙に端を発する民族間の対立から各地で暴動が起こり、
多数の死者が出ましたが、その後発足した連立政権の下、現在は2030年を目標とする
ビジョンを掲げ、中所得国入りを目指した政策が進められています。その結果、首都
ナイロビでは高層ビルが立ち並び、経済成長ぶりが見て取れるものの、仕事のない地
方から人が押し寄せてKiberaという巨大なスラム街を形成。貧富の差が大きな社会問
題となっています。

 ケニアと日本との関係は古く、独立した1963年には国際協力機構(JICA)の前身の
海外技術協力事業団がケニア人研修員を受け入れて技術協力がスタート。その後、農
業や保健医療、インフラ整備を中心に援助が行われ、これまでに日本政府が投じた政
府開発援助(ODA)の累計額は、サハラ砂漠以南のアフリカの国では最も多いそうです。

 保健医療の分野では、1979年にケニア国立の医学・保健医療研究拠点としてケニア
中央医学研究所(KEMRI)が設立されてから2006年まで、JICAは無償資金協力、専門
家の派遣、研修員の受入れなどさまざまな形でその運営に協力してきました。実際、
KEMRIのほとんどの建物は、日本の資金によって建てられたものだといいます。この
JICAのKEMRIプロジェクトが発足した当初から、その実働部隊の中心となって活躍し
てきたのが長崎大学の熱研です。

 長崎大学は、1960年代からケニアのRift Valley州総合病院に医師、看護師、検査
技師などを派遣して臨床面での医療協力を開始し、その後JICAのKEMRIプロジェクト
に参画して30年近く、感染症対策に関わる調査研究や技術協力などを行ってきまし
た。そして05年には、研究者や職員が常駐する研究拠点として、ケニア拠点が設置さ
れます。ちょうど05年度から文部科学省の新興・再興感染症研究拠点形成プログラム
が始まり、国内の幾つかの大学が海外研究拠点を開設しました(長崎大学もこのプロ
グラムにより、ベトナムに拠点を設置しています)が、ケニア拠点はこのプログラム
とは別に設けられたものです。

 熱研のケニア拠点は、首都ナイロビ市内のKEMRI構内の他、マラリアの流行地域で
あるビクトリア湖岸のSuba地区(Mbita)、インド洋沿岸のKwale地区にも設けられ、
ウイルス、細菌、寄生虫による熱帯病の実態把握を中心とする調査研究が行われてい
ます。

 その主要な活動の1つが、DSS(人口静態・動態調査システム)と名付けられた調査
事業です。これは、MbitaとKwaleという共に人口5万人程度の2つの地域で現地スタッ
フが民家を1軒1軒回って、出生や死亡、その他公衆衛生に関するインタビューすると
いうものです。Mbitaの研究拠点を訪問した際には、Carolyneさんという女性のイン
タビューに同行しましたが、彼女は約700世帯の調査を担当しており、2カ月程度かけ
て担当する全世帯を訪問するという作業を年に4クール繰り返すそうです。調査する
内容は、出生や死亡などの毎回決まった基本情報に加えて、「トイレがあるか」「水
をどこに汲みに行くか」や、家族の疾病に関すること、経済状態に関することなど、
そのクールごとに決められた質問を行い、その場でPDA(携帯情報端末)に入力して
いきます。PDAにはGPS(全地球測位システム)が組み込まれていて、調査対象の家を
訪問しなければ入力できず、“ずる”ができないようになっています。ケニアでは戸
籍が存在しないため、米疾病予防管理センター(CDC)や、英国のWellcome Trustな
どがそれぞれエリアを分担して同様の調査を行っています。公衆衛生的な介入研究の
効果を図るためにも、その基礎データの作製から取り組まなければならないわけです。

 これ以外にも、疾患を媒介する蚊の採取とその種の同定、どういう動物から吸血し
たかなどを同定する研究や、MbitaとKiambuの公立病院で小児の下痢症患者の病原体
を同定する研究、さらには黄熱病やリフトバレー熱に対する診断技術の開発プロジェ
クトなども進められています。日経バイオテクONLINEに記事をまとめたので、ぜひと
もお読みください。

長崎大学、黄熱病とリフトバレー熱の迅速診断と早期警戒システムの構築を目指す
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120816/162716/

 当初、熱研の海外研究拠点として設けられたケニア拠点ですが、2010年からは同時
に長崎大学のアフリカ拠点という位置付けも得て、歯学部や工学部、水産学部などに
よるケニアでの調査研究や技術協力のプロジェクトも本格的に始まろうとしています。
ケニア拠点に常駐している日本人研究者は拠点長の一瀬休生教授、前拠点長の嶋田雅
暁教授、井上真吾助教の3人ですが、現地採用のケニア人スタッフは約85人に上り、
日本人事務職員や、出張ベースで訪れる研究者を併せると、110人近いスタッフが活
動しているということです。人数でいうと、日本の熱研をケニア拠点が既に上回って
いることになります。

 当地で例えばコレラなどのアウトブレークが起きた際には、ケニア政府・公衆衛生
省の要請を受けて、CDCや国境なき医師団(MSF)、赤十字などと共同で対策に当たっ
ているといいます。現在ケニアで「Nagasaki」というと、被爆地としてその名が知ら
れていますが、いずれは「ケニアで活躍している日本の大学」として有名になるかも
しれません。長崎大学は、国立大学改革の荒波にさらされようとする日本の一地方大
学ですが、ケニアではグローバルな組織・機関の一員として活躍する場を得ようとし
ているわけです。特定の領域でグローバルなネットワークを築き、グローバルから頼
られる存在になるというのは、地方大学の目指すべき1つの方向であるようにも思い
ました。

 3回に渡ってお届けしたケニアリポートは、これで最終回としたいと思います。最
後までお読みいただきどうもありがとうございました。なお、前回のメールマガジン
でMbitaでの宿泊先を、「Insect Physiology and Ecology(ICIPE)という国際的な
昆虫の研究機関の敷地内の施設」と紹介しましたが、「International Centre of
Insect Physiology and Ecology(ICIPE)」の誤りでした。

 また、このところこのメールマガジンではケニアの話題ばかり紹介してきましたが、
もちろん日経バイオテクONLINEではこの他にも国内外の主要トピックを多数報道して
います。最近の記事では、コンサルティングファームであるコーポレートディレクシ
ョン(CDI)の米倉淳一郎さんに寄稿いただいた製薬産業の創薬生産性低下に関するリ
ポートが注目されます。戦略なき「後発医薬品事業への参入」に警鐘を鳴らしている
点は、耳を傾ける必要が大いにあります。

CDIバイオ業界レポート(1)、創薬生産性の低下への対応―2000年代を経て
二分化する製薬企業
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120808/162645/

 本日は少々長くなってしまいましたが、このあたりで失礼します。

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能性食品に関する話題のみを提供するサービスを開始しました。食品関係の方はぜひ
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                    日経バイオテク編集長 橋本宗明