◆◆◆薬用植物研究開発の最前線◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 生薬の品質評価研究と植物の生物活性成分探索について
  医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部栽培研究室 渕野裕之室長

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 医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター筑波研究部は当センターの中心的拠点
ですが,圃場面積は小さいながらも本格的な成分研究を行える設備を有しています。
栽培研究室という名前は栽培試験場時代の名残で,当時は生薬基原植物の栽培研究
を中心に行っていましたが,基盤研となった現在は植物成分の生物活性評価や品質
評価も行っており、業務を反映した研究室名になっていないのが現状です。今回は
筑波研究部栽培研究室の業務の中から,生薬の品質評価に関する研究と植物成分の
生物活性評価に関する内容を紹介します。

生薬の品質評価に関する研究

 当センターには実験圃場があることから,圃場に直結した生薬の品質評価の研究
が行える環境が整っています。この点は実験圃場と分析体制が密接に連携している
当センター独自の強みです。今までに幾つかの生薬において,加工調製段階で最も
重要な工程といえる乾燥段階で起きる成分変化に関する研究を行ってきました。生
薬ゴシツはヒナタイノコズチAchyranthes faurieiまたはA. bidentataの根です。
収穫後のゴシツを数段階の温度条件で乾燥を行ったところ,明確な成分の違いが観
察されました。このような構造変化を起こしている成分を明らかにすることにより
生薬の調製法に対して有用なデータを提供することを目的として分析を行いました
が、一部のAchyranthoside類と呼ばれる成分が不安定かつ通常のHPLC検出に用いる
紫外線吸収を示さないため、最終的に最新鋭800MHz LC-NMR/MSを用いた分析を行う
ことにより乾燥温度による構造の変化を明らかにしました。最近はヤクモソウに含
まれるジテルペンの乾燥段階における構造変化ついても検討し、既に学会等で報告
しています。

 また生薬の品質評価において最も重要な指標となるのは日本薬局方の各試験法で
すが、それら試験法の検討も当研究室で一部担当しています。最近ではソヨウの定
量法について検討しました。ソヨウには精油成分であるペリルアルデヒドが含まれ
ますが,近年このシソ特有の香気を有さない粗悪なソヨウが見られることから、そ
のような生薬を市場から締め出すためにもペリルアルデヒドの定量法の設定は急務
でした。当初設定した定量試験法を元に市場品のぺリルアルデヒドの定量を行った
ところ,一部の中国産生薬で、ぺリルアルデヒド臭の全くしないものに高い定量値
を与えるという矛盾が生じ,HPLCのちょうど同じ保持時間に全く異なるものが重な
っていることが判明し,その化合物を特定したところα-アサロンであることが判明
しました。α-アサロンは変異原性のあるβ体の異性体であり、あまり好ましくない
成分ですが,本研究を通じて初めて生薬ソヨウより同化合物の単離を報告しました。
本定量法は第16改正日本薬局方に収載されています。

薬用植物の生物活性成分の探索について

 外国産植物に関して熱帯感染症であるリーシュマニア症に対して有効な薬用植物
の探索を長年行なってきました。リーシュマニア症は熱帯地方に広く分布する寄生
虫病の1つであり,原虫の種類により皮膚型,粘膜皮膚型,内蔵型の3種類に分類さ
れ,全世界に1200万人の患者がいるとされています。分布域の1つであるペルーの研
究者との共同研究で,多くのペルー産植物エキスに関して抗リーシュマニア活性ス
クリーニングを行ってきました。今までに数多くの植物から活性化合物を見出し報
告してきましたが,近年は現地名チリサナンゴ (Brunfelsia grandiflora)の葉よ
り,新規フロスタン型サポニンを活性成分として見出しました。また,日本の漢方
処方に用いられる生薬についても同様に検討した結果,シコン(紫根)に強い活性
があることを見出し,shikonin類がいずれも活性化合物であることをつきとめまし
た。そこでシコンを構成生薬とする外用剤「紫雲膏」が皮膚型リーシュマニア症に
奏功するのではないかという推測の下,ペルーの研究者により臨床研究が行われ,
非常に良好な結果を得ました。エチオピアでの臨床試験も計画されるなど、さらな
る展開が期待されています。この紫雲膏の成果は特許を既に取得済みです。

 最近は脂肪細胞を用いた生物活性評価も行っており,近年大きな関心になってい
るメタボリックシンドローム予防に効果のある外国産薬用植物の探索も行っていま
す。また、NO産生抑制活性評価も行っており,抗炎症活性化合物の同定を行ってい
ます。

今後の展望
 漢方薬はその構成生薬の品質により薬効が大きく影響を受けることから、品質評
価は重要なフィールドになります。そういうことからも生薬の品質評価に関する研
究に関しては、今後もセンターとしてさらに進めていくことになります。また2010
年度から厚生労働科学研究事業「漢方薬に使用される薬用植物の総合情報データベ
ース構築のための基盤整備に関する研究」が当センターを中心に開始されましたが、
本データベースの成分分野は当研究室が中心となって進めており,生薬の市場流通
品のLCMSデータ、生物活性データ等を収集し順次アップロードを行っています。こ
のデータベースは特に生薬を扱う業界のみならず新たなシーズを探している企業や
研究者にも有益な情報を提供するものと思います。独立行政法人化されてからは中
期計画ごとに研究内容が見直され、新たな方向を模索していますが、最近はいろい
ろな方面の研究者との共同研究を進め、「他では行えないこと」を目指しています。