こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。

 ちょっと前の話になりますが、日本DDS学会の特別講演にUniversity of Chicagoの中村祐輔教授が登場しました。学会の特別講演などというものは内外の有名な研究者が招待され、「●●●●の現状と展望」というタイトルで1時間ほど話し、偉い先生の言っていることだからみんな何となく勉強した気になるというのが相場です。新しい知見が含まれていることはめったにないので、聴講しても記事にすることはほとんどありません。

 今回、中村教授の講演のタイトルも「ゲノム創薬の現状と展望」だったので、あまり期待しないで聞き始めたのですが、開始後数分から必死にメモを取らなければならなくなりました。内容が滅法面白かったからです。面白いだけでなく、ライフサイエンスにおける今の日本の政策が抱える問題点を突いており、根本的な解決を図ろうとしない政府・行政の姿勢を痛烈に批判しました。講演のタイトルは「ゲノム創薬の現状と展望」というよりも、「ここがだめだよ、医療イノベーション5か年戦略」の方が適切だったでしょう。会場にいた人だけでなくより多くの人に発言内容を知らせるべきだと考え、急遽、メモを取り始めたわけです。

 私が編集するよりも中村教授が話したことを忠実に再現した方がいいと思い、談話形式にして掲載したのがこの記事です。

University of Chicagoの中村祐輔教授が創薬支援ネットワークに苦言、「財務省に対する言い訳にすぎない」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120717/162160/

 ちなみに、創薬支援ネットワークの設立が公表されたときの記事はこれです。医療イノベーション推進室、創薬支援で新組織設立を断念
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120424/160725/

 中村教授の講演を聞くと、政治家がいかに官僚の都合のいい主張に踊らされているかも分かります。

「医療イノベーション5か年戦略の目玉は創薬支援ネットワーク」と、鈴木寛・元文科副大臣
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120618/161651/

 読者のみなさんもよくご存じのように、中村教授は医療イノベーション会議の創設に深く関わり、自ら初代の医療イノベーション推進室長に就任。しかし、約1年で突然辞任し、University of Chicagoに転出しました。

 医療イノベーションで中村教授が当初から主張していたのは、米国のNIHのような政策立案機能と独自予算を持つ組織の創設。省庁縦割りの構造の打破を目指していました。その象徴が創薬支援機構だったわけですが、それが創薬支援ネットワークに変わってしまったことは、中村教授にとって受け入れがたいものだったのでしょう。記事から伝わっているかどうか自信はないのですが、講演中の中村教授からは一連の経緯に対する絶望と怒りが感じられました。強い感情に突き動かされて出てくる言葉には力があります。