明日の午前1時からいよいよ、なでしこのオリンピックが始まります。ここのところBS1がなでしこのオリンピック予選の再放送をしているため、すでに勝手に盛り上がっております。U23の男子のオリンピックチームも前哨戦で見事なボレーシュートを決めており、ほのかな期待も芽生えて参りました。イチロウ選手のニューヨークヤンキースへの電撃移籍は是非とも成功していただきたい。古巣の心地よい環境を離れて選手人生最後の挑戦に向かう姿は相変わらず、本当に格好が良い。

 さて、個の医療です。

 ある意味で究極の個の医療である、自家培養細胞の商品化第2号となるジャパン・ティッシュ・エンジニアリングが開発した自家培養軟骨細胞「ジャック」の発売に向けた動きが始まりました。すでに2012年6月22日に薬事・食品衛生審議会の医療機器・体外診断薬部会で製造販売が承認され、正式認可を待つばかりの状態です。自家培養細胞の商品化第一号の自家培養表皮「ジェイス」は重傷火傷といういう極めて限定した患者を対象とし、なおかつ発売当初は30枚という厳しい使用制限があったため、必ずしも同社の収益には貢献するものではありませんでした。勿論、同社は必死のコスト削減を行っていますが、ジェイスだけでは同社の成長は確保できない苦しい台所です。

 ジャックも外傷性軟骨欠損症、離断性骨軟骨炎(変形性膝関節症を除く)の臨床症状の緩和、しかも他に治療法がなく、軟骨欠損免責が4平方cm以上の軟骨欠損部位に限定されました。が、老齢化が進む我が国の市場では間違いなく、ジャックによって症状が緩和される患者数は大きな市場を形成します。承認条件として、専門性のある医師や施設の選択と市販後の全例調査が義務づけられました。こうした制約も症例が蓄積が解決すると考えています。同社も2012年の最大の経営目標としてジャックの承認・発売を上げています。2013年3月期では1億1000万円の売り上げを期待しています。ジェイスは5億3000万円を見込んでいます。但し、2014年3月期には全体の売り上げを約14億円弱、15年3月期は21億円超を計画しており、この大きな売り上げ増のエンジンはジャックであることは言うまでもありません。但し、15年3月期でも営業利益は3億円の赤字を計上する計画であり、再生医療というイノベーションに挑戦するベンチャーのリスクがいかに大きいか、実感することができます。

 同社の目論見が成就するかどうかは、承認から3ヶ月後に決まる保険償還価格次第であります。どれだけ再生医療という技術革新を評価できるのか?国家戦略として医療イノベーションの推進に大きく踏み出し、再生医療実用化の加速を打ち出した我が国の本気度を測る尺度にもなるのです。と、こう考えるのが一般の常識的な国民であります。これから中央社会保健医療協議会に場所を移して償還価格が議論されます。しかしどうやら取材を進めると、「薬事法が改正されていない(今年度改正予定、最悪の場合、来年度)以上、今まで通りの特定医療材料(これにジャックが相当)の償還価格の算定方式に従わざるを得ない」という意見がほとんどであるのです。現場はまったくの石頭、政府が旗振る医療イノベーションなど馬耳東風であります。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/hoken/iryokiki/dl/01a.pdf

 ジャックは医療機器(機械器具07 内臓機能代替器)として製造販売承認を得ました。膨大な研究開発投資の回収を前提に保険薬価が算定される新薬とは、保険償還価格の算定方式が異なります。例えば、原価積み上げ方式をとる場合でも、現在までに保険償還が認められている特定医療機器の全製品の平均値を、利益や一般管理費として算定するのが慣例です。利幅や一般管理費や研究開発投資の少ない医療機器や医療材料を全部平均する、このやり方では企業が自家培養細胞製品で収益を得ることは本当に困難です。ジェイスはこの保険償還価格の罠にはまったのです。しかし、一方で新薬なみの製造設備への投資と臨床試験を要求される再生医療で、製品の価格をほとんどリスキーな研究開発投資を要求されず、一部改良で新製品を続々と発売できる医療機器と同じやり方で良いのか? 深刻な疑問です。ジェイスの時も一部では問題視した議論もありましたが、我が国初の再生医療実用化の報道の陰で、この問題の本質的な議論が忘れさられていました。08年12月にジェイスの償還価格が決まった時からの宿題を私たちはまだ解いていないのです。

 私は我が国の高齢化社会の問題の一部を解く切り札となる再生医療の実用化に関して、保険償還価格としてインセンティブをつけるべきであると考えています。少なくとも製品価格には医薬品と同様に、研究開発に再投資でき、製造物責任に耐えられる収益を確保できる合理的な保険償還価格の決定が必要だと考えます。内閣官房の医療イノベーション推進室だけでなく、現場である厚労省と中医協の真摯な対応を求めたいと思います。

 さもなくば、国家が再生医療の笛を吹いても、誰も踊らない。まさに来たるべき総選挙に向けたリップサービスに終わります。私たちは未来に対して責任を果たさなくてはなりません。財源は収益を回収し終えた長期収載品の薬価引き下げが適当だと思います。イノベーション無きところ、国民の幸福もありません。

  皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満