さて、個の医療です。

 慢性腎不全が先進国で増えています。我が国でも重症化した末期腎不全の治療に不可欠な血液透析にかかる患者が2010年度で29万8000人(日本透析医学会調査)に迫り、2011年度はまだデータが公表されておりませんが、30万人を突破することは確実です。透析に投入される医療費は1兆円を超えています。これは国民医療費の実に30分の1であります。末期腎不全の患者さんのご苦労に加え、国民負担の点からも、慢性腎不全の撲滅は重要です。厚生労働省も新たな国民病と認識、慢性腎不全の悪化防止のために厚生労働科学研究費で研究プログラムを展開しています。現在のところは、早期発見と患者の生活指導などによって腎不全の悪化を防ぐことに主眼が置かれています。また、糖尿病の進行に伴い、腎不全が発症する場合も多く、糖尿病の患者の血糖管理も重要な腎不全の抑止策となります。

 現在のところ、何故、慢性腎不全が発症するのか定かには分かっていません。感染症、化学物質、アレルギーなどの免疫反応、高血圧、微小血管病変など多数の犯人がリストアップされておりますが、まだどれが主犯なのか、あるいは共謀関係はどうなって慢性腎不全が起こるのか?などはまだ詳らかにされていないのです。従って、扁桃腺の切除や塩分やたんぱく質の摂取を抑止するなど、現在の治療法は科学的にまだ因果関係が明確とは言い切れないものばかりです。

 腎不全の定義が、腎臓で尿をろ過する糸球体機能が正常の60%を割り込んだ状態、末期腎不全は10%以下となった状態です。機能的な定義に止まり、腎不全は症候群に他なりません。今後、腎不全の分子メカニズムが明確になれば、複数の原因別に分類され、その分類ごとに治療薬や予防薬の選択が行われる個の医療化が進むと考えています。

 米国Michigan大学のグループが腎不全の病因のひとつの尻尾を掴みました。Nature Genetics誌2012年7月8日号で発表した成果によると、慢性腎不全患者の全エクソンをシーケンスして健常者と比べた結果、巨細胞間質性腎炎の患者にFanconi anemia-associated nuclease 1 (FAN1)というDNA切断が起こった時に修復部位に動員され、DNA修復を促進するたんぱく質に突然変異が起こっていたことを突き止めました。FAN1はFanconi貧血との関連から命名された遺伝子ですが、今年5月に貧血の決定的な原因ではないと否定されたばかり、名前とは異なり腎不全の原因の有力候補として浮上しました。実際、ゼブラフィッシュでFAN1遺伝子をノックアウトすると、DNAの傷害が引き金となるシグナル伝達が盛となり、腎臓で細胞死が誘導され、腎嚢胞が出現しました。これは腎炎にそっくりな症状です。(以下のリンクは一つのテキストにしてから、クリックしてください。長いので折り曲げました)
http://umhsheadlines.org/10/u-m-researchers-identify-new-genetic-cause-for-
chronic-kidney-disease/?utm_source=HSH&utm_medium=email&utm_campaign=
u-m-researchers-identify-new-genetic-cause-for-chronic-kidney-disease

 DNA傷害の修復不全が起こると、腎不全が引き起こされる可能性が示されたのです。問題は一体、どんな化学物質あるいは放射線など物理的な力が腎臓細胞のDNAに障害を起こし、腎不全へと病態を進めるのか?これを突き止めれば、DNA傷害が原因である腎不全を治療したり、抑止したりすることが可能となるはずです。

 慢性腎不全の治療にも、ゲノム解析が光を与えたのです。

  皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満