ウインブルドンはセレナとフェデラーの復活で幕を閉じました。セレナは怪我、フェデラーはナダルやジョコビッチの台頭により、ランキング1位から滑り落ち、ここ1-2年はグランドスラムの優勝からも遠ざかっていました。両者とも不屈の精神と、自分を信じて鍛錬を重ねた結果、今年の勝利を呼び込んだと思います。しかし、天才と卓越した身体能力を持つこの二人が努力まですると、少なくとも球が千変万化する芝のコートでは無敵です。きっと肉体より、テニスへの興味が薄くなった時に、彼らの引退が決まるのではないでしょうか。共に30歳。年齢という物理的な限界を、彼らは今回の勝利で破壊したともいえるのではないでしょうか?

 皆さんも、悔いなき人生を送るために、頑張らなくてはなりません。

 さてバイオです。

 先週金曜日に弘前市で開催されたPG(プロテオグリカンフォーラム)2012は、会場を300人以上の聴衆が埋め尽くすほどの、異常な熱気でした。文科省の支援を受け「津軽ヘルス&ビューティクラスター」形成を目指す当地は元々テンションの高い地域ですが、すでに地元企業とナショナルブランドの企業100社を巻き込み、90製品以上もの化粧品や機能性食品を上市した実績が、地元の期待を膨らませます。背景には営々としてPGの基礎研究を展開してきた弘前大学と、鮭の中骨から工業的な生産技術を確立した地元の角弘の多角化に踏み込んだ小田桐社長の決意がありました。加えて、青森県の三村知事、弘前市の葛西市長と弘前大学佐藤学長が”PGボーイズ”(BeachBoysの捻り)を形成、特に知事が率先垂範して売り込みを掛ける行政の熱意も、地元の熱気の原因でした。ヒアルロン酸やコラーゲンに代わる第三の素材としていよいよ地方からナショナルブランド、海外展開へのPG事業の第2期の創業期に突入しました。ここは弘前地域としては、大いに頑張らなくてはなりません。

 今回のフォーラムで、サントリーウェルネスの新免取締役商品企画部長の発言が、非常におもしろかったので、ここでご紹介いたします。「セサミン」の商業化に成功した有名人です。

 セサミンの成功の最大の理由は、成功するまで止めなかったこと。成功するまでは失敗の山でした。最初は薬局で二日酔などを改善する健康食品として販売したのですが、これが売れない。年始年末のお酒を飲む期間だけ、売れるが残りの時期はほとんど低迷し、薬局に納めた消費品の9割が返品される始末。この苦境を乗り切ったのが、通信販売だった。無料サンプルを配りまくり、1ヶ月ただで飲んでもらって、効果を実感してもらう戦略に転換、大成功をもたらしました。これはサントリーのように、赤字続きのビール事業を立ち上げた経験と資金力がなければ成立しないと考えます。

 セサミンは個人向けの実感商品であるため、従来のサントリーのイメージ宣伝戦略をも変更せざるを得ませんでした。消費者に納得してもらうためには、文章をじっくりよんでもらう必要があると新免部長は判断したのです。2001年から通販を開始、同時に三浦雄一郎さんをキャラクターに起用、「老いは怖くない、目標を失うのが怖い」というコピーの新聞広告を展開しました。この広告を見て、当時のサントリーの宣伝部長が激怒。「文字が多すぎて汚い。当社の広告ではない」というのです。酒や飲料などで成功したイメージ重視の広告宣伝から、文字情報重視のうんちく広告への転換には社内の摩擦も大きかったのです。

 現在では、300人の通信販売のオペレーターを揃え、消費者一人一人にカウンセリングして販売する体制を整えました。BSを中心に展開している通販コマーシャルの受け皿です。セサミンは決してイメージだけでは、これだけ大きな商品には成長できませんでした。宣伝の基本も、あくまでもパブリシティ。セサミンの健康機能に関する研究を、大学や研究機関に進めてもらい、その成果を消費者に伝えることに集中しています。ある意味では、宣伝とコンサル営業の見事なバランスを追求しているのです。PGが弘前の地域商品から脱皮するためにも、サントリーのセサミンの苦闘は誠に参考になると胸に染みました。

 もう一つ新免部長のアドバイスで光ったのが、セサミンの成功に気をよくした同社の甜茶での失敗でした。原因は特許がなく、大ヒットの後に競争企業の参入を防げず、粗悪商品が市場に投入された結果、甜茶の売り上げが激減したしまった経験でした。セサミンには2009年まで「濃縮セサミンを添加した食品」という特許をサントリーが保持しており、市場の占有と消費者の囲い込みに成功したのです。特許が切れた今はかどやなどごま油企業なども参入してきましたが、独占期間のおかげで、セサミンはサントリーと消費者もすっかりすり込まれてしまいました。

 1995年、サントリーは花粉症によい甜茶を発売、一時大ヒットを記録しました。甜茶の名前で販売されているお茶には多種の植物がありますが、サントリーが花粉症によいと突き止めたGODポリフェノールを含んでいるはバラ科の植物のみだったのです。大ヒットを見て、甜茶と銘打った商品が市場に多数投入されましたが、その中にはバラ科以外の甜茶を含む、つまり花粉症に効かない商品が多数出て、消費者を混乱させました。おまけに参入多数で価格競争が起こり、サントリーは有効成分を濃縮した新製品「甜茶400」を投入したのですが、市場はすっかり荒らされており、消費者の信頼も失い、再浮上できなかったというのです。

 機能性食品でも知財が不可欠。PGにもこれは良き教訓になったと思います。やはり私たちは知的資本主義市場の真っ只中に立たされているのですね。

 今週もどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満
ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/