こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 先週のメールマガジンでも紹介しましたが、6月18日から21日にかけて米ボストンで開催された2012BIO International Convention(2012BIO国際会議)を取材してきました。07年からBIO国際会議を取材していますが、年々大きな変化を感じます。今年強く感じたのは、恐らく世界的な厳しい経済情勢が背景にあるのだと思いますが、特にアーリーステージに対して資金が回らなくなっているということです。このため米国においても、公的資金を呼び込んだり、アカデミアや患者団体とのネットワークを構築するといった取り組みがしきりに提案されていました。資金調達が難しくなる中で、前臨床、臨床試験のフェーズI、フェーズII、フェーズIIIと、マイルストーンを設定して資金を調達をしながら開発を進めていくというバイオ産業のビジネスモデルも、曲がり角を迎えていると強く感じました。「What’s Next」というテーマで行われた議論で技術的な話題がほとんど出ず、ビジネスモデルの話に終始していたのが非常に印象的でした。BIO国際会議の各セミナーなどでの議論については日経バイオテク7月30日号の特集記事として掲載する準備を進めていますので、ぜひお読みいただければと思います。

 ところで、ボストンではHarvard Medical School,Brigham and Women’s Hospitalの水野秀一さんという方にお会いし、大学や病院を案内していただきました。水野さんは同病院の整形外科で細胞培養などに関する研究をされていて、軟骨細胞に圧力をかけながら培養するという方法を考案し、給湯器などのメーカーであるパーパス(富士市、高木産業から社名変更)と共同で加圧型の細胞培養装置を開発されました。現在、この装置を使って製造した自家培養軟骨「NeoCart」に関して、米Histogenics社がフェーズIIIを行っていて、2015年には臨床試験を終了する予定だということです。

米Histogenics社の自家培養軟骨NeoCart、米国でのフェーズIIを終え、09年夏にフェーズIIIを開始へ
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/3689/

高木産業、再生医療用細胞培養装置を研究用で国内発売、米国でフェーズII実施した再生軟骨の国内展開も視野に
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6922/

 ちょうど水野さんにお会いした日に、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリングの自家培養軟骨「ジャック」が厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の医療機器・体外診断薬部会で承認を了承されました。培養軟骨の再生医療製品の実用化では、日本は米国に大きく後れを取っていましたが、ようやく実用化のめどがついた格好です。

J-TECの「ジャック」が部会を通過、国内初の自家培養軟骨
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120624/161741/

 自家培養軟骨の次世代製品を開発している立場の水野さんも、このニュースを歓迎しておられました。NeoCartを簡単に紹介すると、コラーゲンスポンジの中に自家の軟骨細胞を播種して圧力をかけながら培養した後、軟骨欠損部の形状に合わせてコラーゲンスポンジを切り取って、手術用のりで欠損部に張り付けるというものです。骨膜を縫合する必要がなく、手術が簡単というのが大きな特徴です。また、圧力をかけながら軟骨細胞を培養するため、活性の高い細胞を効率的に増殖でき、培養軟骨の作製コストを抑えられるのも利点だといえます。そうした利点をアピールするためにも、また、市場性を判断するためにも、先行品が市場に出ていた方が事業はやりやすいでしょう。NeoCartの日本での開発権はパーパスが持っているということですが、ジャックが承認されたことで、日本での開発を本格化する意思決定をしやすくなったと思われます。

 また、培養軟骨はNeoCart以外にも、実は国内だけでも5つ以上の研究グループがそれぞれ独自の技術に基づく製品の開発を進めています。例えば、6月半ばにも大阪大学などの研究グループが考案した培養軟骨製品に関して下のような話題がありました。

中外製薬がツーセルに出資、軟骨再生医療製品で優先交渉権を取得
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120614/161559/

 こうした後に続く研究グループにとっても、先行品であるジャックの承認取得はグッドニュースだったに違いありません。再生医療製品は医療機器などと同様に不断の技術改良が必要になるだけに、製品を市場に出して、現場で評価して新たな技術改良を加えるという流れを作っていくことが重要です。今後の薬事法改正では、こうした技術改良の流れをどのように作っていくかが1つの大きなポイントになるでしょう。ジャックの承認取得は、そうした技術革新の連鎖を生み出す第一歩に位置付けられるものです。ここから日本の再生医療が発展に向けて進んでいくことを期待したいと思います。

 本日はこのあたりで失礼します。

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