皆さん、お元気ですか。
 
 まだ、EURO2012のB組予選最終戦が続いています。4チームの内、上位2チームが決勝トーナメントにいずれも進出する可能性が残っております。試合は後5分で終了、同時開催の2試合ではポルトガル:オランダ、ドイツ:デンマークとも2:1で、ほぼポルトガルとオランダが決勝トーナメント進出を手中に収めようとしています。しかし、下馬評では圧倒的に評価が高かったオランダが、クリスチャン・ロナウドの2発に沈みました。試合終了の長い笛です。ドイツ、オランダが進出を決めました。

今、ギリシャの総選挙で財政緊縮派が過半数を獲得というメールも来ました。ギリシャのユーロ残留も決定的となりました。よかった。これで暫くは世界は崩壊を免れました。EURO2012ではギリシャが決勝トーナメント進出をすでに決定、ユーロ残留の先触れとなりました。ローマ帝国のサーカスとパンではありませんが、EURO2012を見ると、貨幣以外にもヨーロッパの紐帯を築く仕組みが、縦横に作られている一端を感得できます。第一次世界大戦の流血から生まれた欧州統合は、我が国のマスメディアが騒いでいるような柔なものでは。決してないと思います。

 さて、RNAiです。

 2012年5月30日に、米Alnylam社が発表した「ALN-RSV01のフェーズ2B臨床試験失敗」のニュースは我が国のsiRNA医薬開発関係者に深刻な影響を与えました。一言でいえは、元気がなくなった。RSVウイルスに対する天然型siRNAを経肺投与した今回の臨床試験では、まず間違いなく有効性が証明できると期待していたためです。我が国では協和醗酵キリンが、同社が武田薬品とsiRNAの戦略的提携を結ぶ前に、ALN-RSV01の我が国でライセンスを確保していました。

 ALN-RSV01が成功するのではないかと推測していた理由は以下の2つです。第一は経肺投与という局所投与であり、有効性が大いに期待できる。第二は対象のRSVウイルス感染症で、ヒトのゲノム配列との相同性の無い効果の強い標的配列を選択可能であるため、オフターゲット効果による副作用も少ないはず。しかも天然型のsiRNAであるため、オリゴ核酸誘導体による副作用もないだろう、というものでした。今回の臨床試験でも重篤な副作用はなく安全性は慢性的な問題を除き、ほぼ証明できたと思われます。

 問題は、有効性がプラセボと比べて、統計的に有為な効果を示せなかった点です。P値は0.052と統計的有為と見なされる0.05にわずかに不足しました。Alnylam社の歯ぎしりが聞こえるようです。投与後180日後までの気管支炎の再発率がプライマリーエンドポイントでした。臨床試験は肺移植後に気管支炎を発症した患者でを対象に、二重盲検試験を行いました。Alnylam社にとって不幸だったのは、まず登録した87人の患者の内、中央ラボでPCR試験したところ、10人がRSVに感染したおらず、しかもその内9人までがプラセボを投与されていたことです。しかも、気管支炎を再発した患者が180日後に4人確定しましたが、2人の脱落者が存在したのです。この2名を気管支炎再発と考えるか、そうではないと考えるかで、ALN-RSV01の効果の統計的有為さが決まります。もし2人とも再発していると考え、母数をRSV感染の有無にかかわらず87人とすると、統計的な有為さを示すP値は0.052、最後の診断時に気管支炎を発症していた患者だけを180日目も再発していたと考え、母数をRSV感染者77人に限定するとP値は0.028と統計的に有為になります。

 最初の条件ではプラセボとALN-RSV01投薬群のの気管支炎再発は、それぞれ28.6%と13.3%、後者の条件では30.3%と11.4%となります。肺移植後にRSV感染症に罹患した場合、死亡率は50%であり、この治療効果を、どう米国食品医薬品局と欧州医薬庁が考え、フェーズ3の臨床試験開始を認めるのか?きわめて微妙な状況です。RSVに非感染の患者が5:5にプラセボと実薬に割り当てられていたら、などと悔やんでもしょうがありません。日本では症例が少ない肺移植患者を対象にした試験でも明快に有効性を示せなかったことは、協和醗酵キリンの今後の開発プログラムにも影響する可能性はあるでしょう。Alnylam社の臨床試験に対する未熟さがなんとも悔やまれる結果となりました。同社は今年9月に臨床試験結果の詳細を発表します。どうぞ、冷静に分析し、軽々にsiRNA医薬の未来を論じること無きことを期待します。まさに、産みの苦しみです。

 今月もどうぞお元気で。

      日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満