ギリシャの総選挙で新民主主義党が勝利を上げ、世界はほっとため息を付いているのではないでしょうか?ギリシャ国民の8割がユーロ残留を望んでいることが、この苦しい選択を実現しました。日本と異なり僅差の勝利でも与党になれば、50議席のボーナスが与えられる賢い選挙制度で、しかも日本の泥沼の二院制と異なる一院制であるため、最終的に勝利が確定すれば、暫くは政権運営が安定いたします。官僚制度の倫理観はいただけませんが、この選挙制度はさすがにデモクラシー発祥の国だと思いました。EURO2012でもギリシャは決勝トーナメントに進出、6月前半はギリシャが世界の関心の中心となりました。サッカーの欧州国別選手権であるEURO2012の盛り上がりを見ると、欧州統合の絆形成は幾層にも、いろいろ仕掛けられていることを感じます。経済だけで統合は進まないのです。欧州でThe Great Warと呼ばれる第一世界大戦で流した血で始まった欧州統合は、我が国で報道されているような上っ面の動きではないと感じています。

 さて、東日本大震災津波の被災地の復興もやっと動き始めました。被災地はまだ瓦礫だらけですが、確かな復興の芽は育ちつつある。そんな温かい気持ちになったセミナーが、2012年6月15日に仙台で開催されました。復旧ではなく、復興のために若い力、中でも起業家の蠢動が我が国にも生まれつつあります。

 破壊の後の再生が始まったのです。被災地のこの動きを抑止しないことこそが、被災地から遠くはなれ記憶も薄れつつある政府や国民が一番重視しなくてはならない倫理的な態度であると心に刻みました。今回のセミナーは、米国大使館、東北大学、一般社団法人MAKOTO、一般社団法人復興起業家支援協議会の共催で、東北大学片平さくらホールで開催されました。会場はほぼ満員です。

 実は米国を襲った超大型ハリケーン、カトリーナによって地域社会が破壊されたニューオーリンズ市は今や驚いたことに、全米No.1の起業家の町として再生に成功しつつあります。カトリーナの被災後、企業率は全米平均よりも4割も上回っているのです。アイデアとやる気に溢れた才能を吸引、その結果、創造的な環境を求め投資家や大企業まで立地する好循環が始まっています。死者1800人、被災者150万人、避難者80万人を記録した大災害の後、見事に復旧に止まらず、新しい創造的な都市としてニューオーリンズを再生することに成功したのです。

 その成功の立役者であるNPO法人The Idea Village共同創始者で経営最高責任者のTim Williamson氏が、仙台で講演するということを聞き、駆けつけました。同氏の講演で心を打ったのは、起業家はたんに新製品や利益を生むだけでなく、社会を変えるエンジンであることを明確にしたことです。クレージーなアイデアを持った起業家を支援するネットワークの形成が都市の再生に重要であること。しかも、起業家を支援する才能や資金、スキルなどは地域に存在しており、それをまず相互にネットワーク化することが不可欠であることでした。まずローカルから、ネットワークを地域の企業家が自ら動き形成しなくてはならないというのです。
http://ideavillage.org/

 これは今までも申し上げてきた、我が国の社会の病気である縦割り構造が、いかに復興を妨げてきたのか。また被災地の中には、中央からの支援を待つ人も多いでしょうが、災害から1年3ヶ月経ち、待ちの姿勢から、自ら復興に動く必要がより高まっていることと一致します。

 カトリーナ以前からネットワーク形成を努力していたTimさんが、ニューオーリンズの商工会議所会頭に協力を求めた時に「起業家を支援して何になるのか」とむべなく断られたのですが、Timさんは彼こそが起業家の敵であることを強く認識したのです。既得権を得て、もう満足し、変化を望まない人たちこそが、ニューオーリンズの低迷の原因であると喝破したのです。Timさんは一人ひとり訪問して、変えなくてはならないと考えていた各分野のネットワークのハブとなる個人とコネクションを形成、今ではネットワークがネットワークを呼び、The Idea Villageのネットワークにより、全米でどこよりも早く起業することができる環境を整えることに成功したのです。起業のために必要な知識、会計士や弁護士などの専門人材、優秀な社員・研究者、そして投資家を瞬時に、クレージーなアイデアを持つ起業家に提供できるのが、ニューオーリンズの成長の原因となっています。まさに、知識資本主義のインフラを整えたのです。道路でも、天然資源でもありません。

 さて、カトリーナの大災害がいったいThe Idea Villageのネットワーク形成にどんな効果があったのか?「巨大なハリケーンによって起業家を阻害する既存のネットワークが破壊され、新しいネットワーク形成が加速された」とTimさんは指摘しました。実際、自治体が機能を停止したため、住民が自ら災害復興や災害支援に立ち上がりました。こうした自助の精神こそが、起業家の精神のバックボーンなのです。東日本大震災津波でも、既得権から離れた特区構想が当初検討されました。今こそ、中央政府の息苦しい既得権の押し付けを排除して、地域の起業家を支援、国内外からさらなる起業家を吸引する特区を推進すべきであると確信しております。

 一般社団法人MAKOTOは被災地のベンチャー、中小企業支援の団体です。東北大学生命科学研究科博士課程卒業した竹井さんが、起業家支援のためこつこつ立ち上げた団体です。今では多数の若手が参画、6月には仙台市内に起業家やクリエータなどが協業するためのレンタルオフィスや会議室などの共有システム「シェアオフィス」cocolin開設いたします。この他、起業に必要なコンサルや総ての支援も行う志の高い団体です。坂本竜馬になぞらえるなどやや肩に力が入りすぎの面もありますが、それもまた変化のためには必要です。是非頑張っていただきたい。皆さんも是非ご注目願います。
http://mkto.org/

 起業家は社会を変える。守りに入った企業家は社会の発展を抑止する。まさに真言であると思いました。

 どうぞ今週もお元気で。

         日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/