こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 先週金曜日、都内で開催された日本熱傷学会総会・学術集会のモーニングセミナーで、日本初の再生医療製品であるジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)の自家培養表皮「ジェイス」の使用成績調査の中間報告が行われたので取材してきました。モーニングセミナーは朝8時の開始にも関わらず、会場は6、7割程度埋まり、関心の高さを伺わせました。

自家培養表皮ジェイス、移植後4週目の表皮形成率は55%、熱傷学会で使用成績調査を中間報告
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120604/161373/

 詳細は日経バイオテクONLINEの記事で紹介したのでそちらでお読みいただきたいのですが、ジェイスの使用方法について、実臨床での使用経験を重ねつつある医師らが活発に議論していました。実はジェイスが承認申請された際に、治験として実施された症例数はわずか2例しかありませんでした。このため、承認時には再審査期間である7年間に渡って、全例の使用成績調査を実施することが承認条件として定められました。熱傷学会での中間報告は、その使用成績調査が始まって4年を経過したことから、J-TECの依頼で熊谷憲夫・聖マリアンナ医科大学名誉教授を委員長とする使用成績調査調整委員会が設立され、これまでの症例を検討した結果を発表したものです。

 ジェイスの承認審査の経緯については、以下の過去記事を参考にしてください。

厚労省の俵木医療機器審査管理室長、J-TECの承認に関して「再生医療は2例で承認されると思われては困る」
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/6581/

続報、J-TECの培養表皮が部会を通過、7年間の全例調査と新たな臨床試験実施が条件
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/6504/

 モーニングセミナーでは、ジェイスの適正な使用方法について幾つかの論点で議論が行われました。中間報告では「効果が明らかとは言えない」として、今後、より多くの症例の調査が必要とされたものの、出席していた多くの臨床医が賛同の意を表明していたのが、「ジェイスを単独で移植するのに比べて、メッシュ状にした自家皮膚の移植を併用した方が成績がいい」という点です。中間報告を発表した医師も、「今回の中間報告では、移植後の観察期間52週未満の症例は除外した。自家皮膚と併用した症例は除外した中に多く含まれている可能性がある」とし、今回の中間報告では明確な答がなかったものの、より症例を蓄積すれば、効果が明確になる可能性に含みを持たせました。

 なぜ、ジェイスと自家皮膚の移植を併用すれば成績がいいのか、自家皮膚をそのまま併用するのと、メッシュ状にして併用するのとどちらが成績がいいのかなど、今後の研究を待たなければならない点は多くあります。ただ、いずれにしても、臨床現場にいる数多くの医師が新しい医療技術をただ定められた通りに使うのではなく、治療成績を少しでも良くするためにその使い方を工夫し、そこで得た知見を学会などで共有化しているという姿を目の当たりにして思ったのは、新しい医療技術は臨床現場で広く使われてこそ初めてその“真価”が分かるということです。もちろん、その“真価”が明らかになるまでじっくりと治験を行うという考え方もあるのかもしれませんが、背景を揃えて行われる限られた症例数の治験の中で、予期せぬリスクも含めて“真価”を測るのは簡単なことではありません。一定の安全性については治験段階で確認する必要があるでしょうが、他のさまざまな治療法を併用した場合の有効性やリスクなどは、承認後に臨床での使用経験を重ねる中で明らかにされていくべきことのように思います。

 医療イノベーション会議でも、とりわけ再生医療製品については治験を簡素化し、承認後の監視を強化する方向で議論されていると聞きます。新しい医療技術の“真価”を確認し、医療現場で適切な使用方法を普及させていくために必要なのは、まず何よりもその医療技術をいち早く臨床現場で使えるようにすることです。それと同時に、臨床現場でさまざまな使われ方をする中で、より適正な使い方に収れんしていくように、市販後の使用成績に関する情報が適切に集積され、分析され、その情報が伝達されていく仕組みを作ることが重要です。そして規制当局が行うべきは、新しい技術が臨床現場で使われていく際に、何が確認されていて、何が確認されていないのかに関する正しい情報を提供することであり、臨床現場での使用を妨げる(あるいは遅滞させる)ようなことがあってはならないと再認識しました。これから薬事法改正が予定されていますが、医療イノベーションが国民の生活に寄与するようにするには、薬事法の在り方も変化していかなければならないと考える次第です。

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