こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 かねてご案内していました「核酸創薬イノベーション」のセミナーを今週月曜日に開催しました。講師の方々にお引き受けいただいた時点で、面白いセミナーになると確信していたのですが、ディスカッションも含めて非常にエキサイティングな内容になりました。siRNAの医薬品としての実用化が視野に入ってくる一方で、サイエンスはまだまだ急速に進展しているようです。

 何よりも興味深かったのは、国立がん研究センター研究所の落谷先生のエクソソームの話です。最初にエクソソームの話を聞いたときは、マイクロRNAなどの運搬体だとしか思っていなかったのですが、エクソソームががんの転移に深く関わっているとか、「良いエクソソームと悪いエクソソームがある」といった話には驚きました。昨年、エクソソームのソサエティーが設立され、既に海外にはエクソソームを利用した診断、治療の研究開発に乗り出すベンチャー企業も複数登場しているとのことでした。まだ、日本では研究者は少ないということですが、これから花開いていく研究分野として大いに注目できそうです。

 また、協和発酵キリンの山田さんには、製薬企業の創薬研究者の立場で、核酸医薬に対する期待を語っていただくとともに、協和発酵キリンでの取り組みを少し紹介いただきました。まだあまり表面に出てきていませんが、日本の製薬企業が核酸医薬の研究開発に力を入れているのは間違いなさそうです。実際、PMDAの荒戸さんも、薬事戦略相談で核酸に関するものが3月までに3件あったと紹介されていました。件数は多くはありませんが、核酸医薬の臨床応用がかなり具体的に動き出しているのは確かでしょう。機会があれば第2弾の核酸創薬セミナーも企画していきたいと考えています。

 ところで先日、臨床研究に関する倫理審査の話を、研究者や弁護士の方からお聞きする機会がありました。臨床研究は「臨床研究に関する倫理指針」に則って行われますが、その中に、臨床研究の実施や継続の適否を判断するために「倫理審査委員会」を設置し、その審査を経なければならないことが定められています。また、そのメンバーについては、、「医学・医療の専門家等自然科学の有識者、法律学の専門家等人文・社会科学の有識者及び一般の立場を代表する者から構成され、かつ、外部委員を構成員として含まなければならない。また、その構成員は男女両性で構成されなければならない」と規定されています。

 この「一般の立場を代表する者」ですが、病院などによっては事務部門の職員が就いていることが少なからずあるそうです。また、「法律学の専門家等人文・社会科学の有識者」というのも、同じ大学内の別の学部の教官が就任していたりするケースが多く、弁護士の方は「公正かつ中立な審査が行えるのか」と首をひねっていました。

 では病院や大学と全く関係ない立場の人が委員であればいいのかというと、そうとも限りません。想像に難くはありませんが、専門外の立場で臨床研究計画に意見を言うのはそうたやすいことではなく、結果として「こんな専門的な記述で理解できたのだろうか」というような臨床研究計画がそのまま認められていることも少なくないようです。「倫理審査委員に対して十分な教育、研修も行われておらず、どういう視点で審査委員に参加したらいいのかが分かっていない委員もいるのではないか」とある研究者も話していました。

 医療イノベーションの推進が政策的にも重視され、臨床研究中核病院などの整備が進められ、大学の研究シーズを基に日本発の医薬品、医療機器を創出するための基盤が築かれつつあります。しかし、いくら体制整備が進んでも、倫理審査がお手盛りで実施されているようでは、被験者は安心して臨床研究に参加することができません。あるいは、ずさんな倫理審査が明るみに出れば、せっかくの医療イノベーションの機運に水を差すことにもなりかねません。厚労省は全国5カ所の臨床研究中核病院を採択し、1カ所に毎年5億円の整備費を補助することを決めましたが、倫理審査などのソフト面の体制についてもきちんと点検、整備をしていくべきでしょう。少し前に、慶応大学病院で倫理指針違反があった時に同じようなことを書きましたが、研究者や弁護士の方から伺った話が気になったので、あえて指摘させていただいた次第です。

 最後に、厚労省の課長補佐さんが参加した米国の抗がん剤開発のワークショップが面白かったというので、インタビューしてきました。開発と審査のノウハウをここまでオープンに議論しているのは日本では少し考えられないことかもしれませんが、オープンイノベーションの実現にはこうした取り組みも必要かもしれません。面白いインタビューですので、ぜひお読みください。

 インタビュー、米国で開催された抗がん剤開発と審査のワークショップについて、厚労省審査管理課の宮田課長補佐に聞く
 https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120529/161293/

 本日はちょっとまとまりのない話になってしまいましたが、この辺で失礼します。ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。

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                    日経バイオテク編集長 橋本宗明