フレンチオープンが昨日から始まりました。腹筋の故障で辞退した錦織選手のいない大会では少し物足りません。バレーボールも辛うじてオリンピック出場資格を確保、ほっとしました。しかし、競合国の成長著しく、日本は本当に世界ランク3位なのか?不安に思う展開です。レスリングの天才、吉田沙保里選手もロシアの伏兵に阻まれ58連勝で記録が止まりました。ベルギーで開催されていたエリザベート王妃国際音楽コンクールで、成田達輝君(20歳)が惜しくも2位。私は優勝しても不思議ではないパガニーニの演奏でしたが、ロンティボーに続いて2位に甘んじました。週末、日本は蹉跌を味わったといえるでしょう。しかし、考えて見れば、天が与えた試練かも知れない。選手はこの蹉跌を次の成長に生かしてもらいたい。より強くなることしか、天にお返しする術はないのですから。やや居直りですが、これでオリンピックは期待できると、思っております。
http://www.cmireb.be/cgi?usr=ysr9ym9jnk&lg=en&pag=1975&tab=108&rec=1597&frm=0&par=aybabtu&id=5284&flux=56727470

 さて、科学も失敗から学ばなくてはなりません。これを怠り続けて来たのが、わが国の科学の衰退や、わが国の国民の安全を科学が保障できなかった原因ではないか? こんなことを深く考えるきっかけを与える報告書が科学技術振興機構(JST)が2012年4月に発表しました。JST顧問で前総合科学技術会議議員である阿部博之氏が座長となってまとめた「日本社会の安全保障と科学技術」というレポートです。「政治家に言われて、引き下がる科学者は、科学者が悪い」とJSTの記者会見で明言する阿部氏は、総合科学技術会議の議員でも数少ない骨のあるサムライです。そのサムライが、3.11の東日本大震災・津波や福島原発事故に直面した科学者の対応に、嘆息し、たぶん憤り、今後の科学のあり方を、日本社会の安全保障に貢献する科学プログラムの提言として、政府の総合科学技術会議(改組後の科学技術イノベーション戦略本部)と学術会議・科学者のコミュニティーに提出したものです。JSTの性格上、新規プロジェクトの提案という体裁を取っていますが、良く読むとわが国の官製科学にどっぷり使った科学者・技術者に対する辛辣な反省と批判の書となっています。
 http://www.jst.go.jp/pr/pdf/kouchou2011_01.pdf

 3.11と福島の原発事故によって、国民の科学と科学者、専門家に対する信頼は地に墜ちたことを、真摯に反省しなくてはならない。公害問題以来揺らいでいた科学や専門家に対する信頼は、昨年の悲劇によって蒸発してしまったことを認識しなくてはなりません。このメールの読者が職業的科学者や技術者を目指しているのなら、日本に住んでいる以上、この認識と深い反省から、科学や技術に対する社会の理解を一から築き始める、気が遠くなるような努力を重ねる覚悟が必要です。いつ、科学者のコミュニティから「今までの科学技術は国民の信頼に応えることができなかった。その結果、多くの犠牲と余計な混乱、そして今もなお放射能汚染や電力確保などで、国民の意見が分裂している事態を招いた」と告白する報告書が出るか注目していましたが、今回の提言書は、お詫びの言葉は欠くものの、背景に反省と憤激を感じるものでした。

 「意思決定に際しては、専門家の知識や判断を受容する必要があるにもかかわらず、その認識が不十分であった。専門家と、政府や電力会社などとの意思決定者との間で、役割分担について共通の認識が欠落していた」 「専門家の間でも見解の分かれる微妙な事柄に関し、マスコミに登場した専門家が極端な自説を展開して国民を混乱させた」。。と提言の前文では厳しく批判しています。報告書の中にも「科学技術にかかわる個人と科学技術に関わる組織の倫理を向上させる施策を推進する」ことを盛り込みました。福島原発事故で行われた科学的な情報提供の抑制や、気象庁でおこった大気中の放射線量の計測そのものへの圧力など、無責任な専門家の情報乱発に加え、会社や官公庁などの組織に属した科学者の自主規制や機関規制の在り方にも問題を投げかけました。これには私たちメディアも共犯関係にありますが、2012年1月に「マグニチュード7クラスの首都圏直下型地震が4年以内に起こる確率は70%」という発表を例に取り上げ、自分の研究成果が社会的なリスクを検知した場合に直ちに公表すべきか?それとも学会などでオーソライズされてから発表すべきか?こうした具体的なケースに対する対処法を、学術会議が検討することを提言書では希望しています。この問題は、単純にガイドラインで白黒が付けられる問題ではありませんが、自分の発見を盲信する余り、社会に波紋が広がることを考慮せずにただ正しいことを発言すれば良いという科学者の視野狭窄と傲慢を窘めているのです。傲慢は技術突破には不可欠ですが、技術突破の成果は社会が受け入れて初めて価値が出ることもまた事実です。科学者の視野狭窄と傲慢、そして基礎研究で自分の責務は終わったという無責任主義の所産が、今のわが国の科学技術の沈滞の原因です。理系進学が忌避されるのも、結局はこうした科学・技術者の腐敗が原因だと思います。

 処方箋はあるのか?先週のJST理事長の記者会見でも鋭い記者からの突っ込みがありましたが、結局は自由な科学研究がほぼ国家予算によって独占されていることにも、組織が科学者の良心に従った研究成果による警鐘をも抑止したり、研究者個人が安易に政治家に迎合したりする原因があります。企業がもっと自由な研究に資金を提供したり、中立な財団が民間の浄財を集めて、自由な科学研究に分配するような仕組みを、まずわが国でも実現する必要があるのです。JSTのレポートでは、研究の多様性の確保が結局は予想外のリスクに対応する最適な手法だと提言していますが、これを国頼みだけでやるのは、成長が鈍化したわが国では実現困難です。寄付金の減税措置など、科学研究の資金源の多様化をもっと積極的に科学者・技術者集団が努力しなくてはならないと痛感します。今朝も、加茂川を疾走しているiPS細胞の山中所長の姿にこそ、学ぶべきです。マラソン出場とウェブによる寄付勧奨など、自立自尊を目指す努力を、あなたも目指さなくてはならないのです。

 今週も、皆さんもどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満
ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/