◆◆◆薬用植物研究開発の最前線◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

  薬用植物組織培養物コレクションについて
   医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター育種生理研究室 吉松嘉代室長

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 医薬基盤研究所薬用植物研究センター育種生理研究室は、前身の国立衛生試験所筑波薬用植物栽培試験場(後に国立医薬品食品衛生研究所と改称)の発足(1980年2月1日)に伴って新設された研究室で、84年より薬用植物の組織培養に関する研究を開始しました。現在の当研究室では、植物バイオテクノロジーを応用した新しい薬用植物資源の開発と保存(植物組織培養による薬用植物の効率的増殖、薬用植物組織培養物の超低温保存、閉鎖型植物栽培施設における薬用植物の生産、薬用成分の生産と生合成、組換え薬用植物の開発、薬用植物のゲノム研究など)を行っています。今回は、上記の研究に活用するために我々が保有している薬用植物組織培養物コレクションについて紹介します。

植物組織培養

 植物組織培養は、試験管やフラスコなどの容器の中で無菌的に植物を育てる技術です。植物を育てる容器の中には、培地(植物が育つための栄養分や植物の生長を促す化学物質を含む液、またはその液をゼリー状に固化したもの)が入っており、そこに植物組織の一部(芽や根の先端、葉や茎の一部など)をクリーンベンチなどの清浄空間をつくりだす装置の中で無菌的に植え付け、温度、照度、明期/暗期などの生育環境がコントロールできる部屋の中で培養すると、植物体を育てることができます。

 この植物体(培養植物体)は畑で育てた植物体よりもかなり小さいですが、雑菌やカビに汚染されていないため、容器から取り出して土で栽培すると、畑で育ててきた植物体よりも健全で大きな植物体を育成することが出来ます。また、容器内一杯に育った培養植物体の一部を、再び新しい培地に植え付けて同じように培養すると、再び植物体に生育します。これを繰り返すことを継代培養と呼び、継代培養を繰り返すことで何年間も同じ植物体を維持管理することができます。また、生育環境をコントロールした室内で育てるため、気象や季節の影響を受けず、亜寒帯から熱帯に至る幅広い原産地の植物を育てることができます。さらに、継代培養に必要な植物組織は植物体の一部であるため、1本の培養植物体から数本の植え付け材料が得られ、1つの植物組織から元の植物体に復元するまでの培養期間は多くの場合、1カ月から2カ月程度であるため、短期間に多くの植物体を増やすことができます。

薬用植物組織培養物コレクション

 当研究室が現在薬用植物資源として継代培養し、維持管理している薬用植物の組織培養物は、植物体103種(同じ植物種で系統が異なるものは別にカウントしている。また、遺伝子組み換え薬用植物を含む)、培養根(根だけの培養物)9種、毛状根(土壌細菌アグロバクテリウム・リゾゲネスの遺伝子の一部が組込まれた根の培養物)30種、カルス(不定形の植物細胞)1種、不定胚(植物組織の一部から誘導した胚様体)46種(遺伝子組み換え薬用植物を含む)です(ただし、現在試験中あるいは新たに育成中のものの数量は含まない)。

 これらの薬用植物の原産地は、熱帯、温帯、亜寒帯と多様で、それぞれに適した温度および明暗条件で管理しています。また、植物種および系統により、組織培養に適した培地が異なることから、数種類の基本培地成分と固化剤(寒天、ゲルライト)を使い分け、継代培養時に調製する植え付け片の種類も個々の植物により変えています。また、継代培養の間隔も、植物系統により変えています。我々の薬用植物組織培養物コレクションの代表的な例として、例えばウラルカンゾウ、ショウガ、セリバオウレン、センキュウ、トウキなどがあります。

今後の展開

 当センターでは、生物資源に関する業務の一環として、研究・試験のための薬用植物の種子、種いも、苗、苗木、植物体を有償分譲しています。しかし、薬用植物の組織培養物は、維持・管理のための知識、技術および施設が必須であり、また、限られた空間での保存のため、個々の系統の保管数量を制限していることから、通常の有償分譲の対象とはしていません。当研究室との共同研究の目的である場合に限り、無償で分譲しています。

 2010年度より、厚生労働科学研究費補助金(創薬総合推進研究事業)「漢方薬に使用される薬用植物の総合情報データベース構築のための基盤整備に関する研究」(研究代表者:川原信夫薬用植物資源研究センター・センター長)がスタートしました。著者は分担研究「組織培養物及び効率的増殖法に関する研究」を担当しています。

 現在までに維持・管理している薬用植物の組織培養物は、必ずしも漢方薬原料植物ではありません。そこで、漢方薬としての使用頻度が高い植物より順次、新たな材料を入手し、組織培養物の育成と増殖法の検討を行っています。また、増殖・維持法が確立できたものは、植物工場内での生産に関する研究を始めています。本研究にご興味を持っていただき、実験材料を提供して下さる研究者がおられましたら、ご連絡をいただければ幸いです。