まずは速報を。

 武田薬品(Takeda America社)が2012年5月18日に、抗体医薬開発拠点であった米国South San Franciscoの研究所を閉鎖し、San Diegoの元Syrrx社の研究拠点に集約することを発表しました。Syrrx社はX線結晶解析に基づく創薬ベンチャーで、2005年2月に武田が完全買収、その後、Takeda America社に統合されていました。武田薬品は抗体医薬のベンチャー企業、Xoma社の買収に失敗、自前でSouth San Franciscoに抗体研究所(Takeda San Francisco社)を2007年11月に設立しました。今回のリストラは、合理的ではありますが、同時に武田の抗体医薬開発自前戦略が崩壊したことも示したのです。現地の新聞は100人以上の研究者がレイオフされるのでは、と報道しています。今後、San Diegoでは、X線結晶解析によるCADDと抗体薬剤複合体の開発に、研究の焦点を絞る見込みです。

 武田は米国ではこの事実を発表しましたが、日本では発表していません。
 
 研究能力でも、わが国で群を抜くという武田のプライドを大きく揺るがす事件である紛れもない証拠です。研究開発のグローバル化に伴い、武田薬品は日本の価値を改めて検証する必要が出たと考えます。

 まさか、UFEAチャンピョンズリーグで英国チェルシーの優勝の立役者であるドログバ選手が、あっさりチーム離脱を発表するとは。「新しい挑戦の時だ」と宣言した同選手が上海に向かうとも報道されております。お金も、技術も、才能も猛烈な勢いで中国が世界から吸引しています。しかし、実は中国の経済成長にも、人口の伸びにも既に陰りが出ているのです。ドログバの決断が正しくなされることを、心から望んでいます。一方、全仏オープンに錦織選手が腹筋の故障のために欠場することが決まりました。まったく残念、トップ8定着のチャンスだったのですが。是非とも体幹を鍛えてウィンブルドンには復帰して欲しい。

 さて、個の医療にも、大きな変化が起こりました。

 米国の科学計測機器メーカーであるAgilent Technologies社が22億ドルで、デンマークの診断薬・病理診断企業であるDako社の買収を、2012年5月17日に発表しました。Agilent社の歴史上最大の買収を行った理由は、紛れもなく個の医療に離陸による、診断薬市場の拡大でありました。

 Dako社は組織染色など、病理分野では世界市場をリードする企業です。何よりも、個の医療の先駆けである抗HER2抗体「ハーセプチン」の適用患者を鑑別する免疫診断薬を開発した企業なのです。ハーセプチンを開発した米Genentech社と肩を並べ、診断薬の開発で個の医療を牽引した企業です。

 一方、Agilent社はDNAチップと計測装置、質慮分析器、メタボローム分析器などライフサイエンスの計測機器で成長してきました。世界初のDNA発現プロファイルに診断薬となった「MammaPrint」(乳がんの予後判定)をOEM生産しているのも、Agilent社でした。今回の買収は、同社が研究支援から、診断薬に事業拡大することを戦略的に決断することを意味します。スイスRoche社が次世代シーケンサーの開発企業米Illumina社に今年初め買収を仕掛けた(まだ、成功していません)のも、今後拡大する個の医療市場への布石でした。

 近い将来、個の医療に関係する診断薬企業の買収合戦が、製薬企業、そして研究支援企業によって繰り広げられる可能性が濃厚です。但し、買収金額では豊富な資金量を誇る、製薬企業が絶対優位に立っています。「Roche社の買収提案は、計測機器メーカーが想定していたIllumina社の買収額と桁違いだった」という声も聞こえてまいります。独立を維持しようという診断薬企業や診断企業へと成長を目指すバイオ機器企業が、いつまで独立を保てるのか?垂直統合に意気込む製薬企業の戦略次第です。

 しかし、良く考えてみると、果たして限られたパイプラインしかない製薬企業の傘下に入って、診断薬部門として黒字を確保できるのか?疑問です。案外、Agilent社のDako社の買収のように、販路や開発力と選択技術の融合による、個の医療の診断薬開発加速戦略の方が賢いようにも思えてきました。

 皆さん、今週もどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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