皆さん、お元気ですか。
 
 これから文部科学省で東北メディカル・メガゲノムの会議を取材、関西国際空港を経由して、和歌山県立大学に向かいます。がんペプチドワクチンのガイドラインの取材です。永い免疫学の歴史から今までは懐疑的にみられていたがんペプチドワクチンが本当に医薬品になりうるのか?これを評価するにも、まずはその製剤の規格と臨床試験プロトコールの整備が不可欠。学会レベルですがそうしたプロトコールが公表されました。じっくりお話を伺いたいと思っています。私の意見では、今こそ冷静で明確な科学研究が必要であるということです。NHKのニュースで報道するにはちと早すぎる。患者さんに過剰な期待を与えることはまだ罪なことです。手術、放射線療法、化学・標的療法に次ぐ第四の柱にがん免疫療法がなることは間違いありません。大切に育てなくてはなりません。
 
 さて、RNAiです。

 RNAiが本当に効くのか?RNAiの結合対象となるmRNAが細胞の中で発現しているのか?動物に投与したsiRNAの薬物動態はどうなるのか?最近では乳がんの悪性度にmiRNAが関連することも判明、組織中のmiRNAのプロファイルも重要な手掛かりとなることが判明しました。まだまだRNAiを医薬品や診断薬として開発するためのツール研究は重要です。しかも、時間的、コスト的に余裕のない臨床現場でRNAの動態を掴むためにはまだまだ製品の開発が必要なのです。

 2012年3月、米国Asuragen社は米国食品医薬品局から乳がんの生検サンプルのRNAを保存する前処理液「RNARtain」の臨床使用の認可を獲得しました。既に欧州ではCEマークを獲得、医療器具として臨床に活用されていましたが、米国の認可を受け、世界的なスタンダードとなる可能性が広がりました。組織を常温で3日以上保存しても組織中のRNAの分解を抑止して、検査対象とすることが可能です。既に、DNAチップをつかって70遺伝子の発現プロファイルを解析し、乳がんの転移の可能性を推定する診断薬「MammaPrint」の前処理には実用化していましたが、FDAは診断薬によらず、乳がんのRNAを診断のために前処理する医療器具として認めたのです。
http://www.asuragen.com/Corporate/about_us.aspx

 RNARetainの中身の詳細をAsuragen社は開示していないため、良くは分かりませんが、組織浸透性の高い液体で、組織中のRNAがRNA分解酵素などによって分解されることを迅速に抑止することが可能であると主張しています。実際、同社のホームページでは学会でのポスター発表を見ることができますので、データをごらん願います。わが国の夏では3日、それ以外の季節では7日程度、手術後にすぐにRNARetain液に漬け込めば、組織中のRNAを維持することができます。

 DNA発現プロファイルからmiRNAプロファイルなどへ診断薬開発がDNAからRNAへシフトすればするほど、診断する際のRNAの変性が実際上の問題として浮き上がって来るでしょう。miRNAなど短い2本鎖のRNAは確かに丈夫な分子ですが、変性や切断されたmRNAのノイズも臨床現場では考慮する必要が出てくるだろうと思います。

 RNARetainが本当にベストなのか?私はまだまだ改良の余地ありと考えています。わが国の企業や研究者に是非ともこうした基礎研究を臨床現場に還元するボトルネックとなっている技術突破にも挑戦していただきたいと願っております。

 今月もどうぞお元気で。

      日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満