Wmの憂鬱、ヒト型研究ロボットの導入で頭脳労働と肉体労働の分離は進むか【日経バイオテクONLINE Vol.1732】

(2012.05.14 19:00)

 欧州のサッカーリーグは先週末で最終節を迎えたリーグを迎えました。マンチャスターシティは最終戦で辛勝、44年振りの英国プレミアリーグ優勝に沸き立ちました。ライバルのマンチャスターユナイテッコのファーガソン監督が「シティが我々に追いつくには100年かかる」とコメントしましたが、勝ち点で並び得失点差で敗れた監督の遠吠えにしか聞こえません。スペインのリーガエスパニョーラでは、早々と優勝を決めていたレアルマドリードが最終戦にも勝利、何と勝ち点100という空前絶後の成績を収めました。優勝を逃したバルセロナも、得点王争いでメッシが年間50ゴールを記録し、Cロナウドを4ゴール差で退けました。この得点も欧州リーグの記録を塗り替えるもの。いよいよオフになると、ユーロ2012の帰趨に加え、香川選手がプレミアに移籍するか?など、人事の駆け引きが面白くなる季節となります。香川選手には是非とも、プレミアかリーがエスパニョーラに挑戦していただきたいと願っております。

 さてバイオです。

 前々回のメールで、米国政府の新たなバイオ産業振興戦略「BioeconomyBlueprint」を紹介いたしました。米国は注目する3大技術として、遺伝子操作、ゲノム解読技術、そしてハイスループット・スクリーニングを行うロボット技術を取り上げたのですが、私には何故、ロボティックスなのか?少し違和感も残りました。iPS細胞などの細胞工学技術、大量データ処理の情報処理技術などの方が重要だと考えたためです。
○このメールのバックナンバーは
http://biotpost-v.noc.biztech.co.jp/article/news/20120501/160865/

 しかし、先週の火曜日に、九州大学 生体防御医学研究所分子医科学分野中山敬一教授の研究室を訪れて、眼から鱗が落ちました。中山教授の研究室では、既にヒト型ロボットが歯切れ良い機械音を響かせながら、さっさと実験を進めていたのです。ここでは細胞培養を行い、細胞から全蛋白質を抽出操作をロボットに任せるべく、開発が進んでいました。わが国で初めて産業用ロボットを実用化した安川電機が中山教授と共同研究を進めています。同じ九州にあるという地縁が共同研究のきっかけとなりました。

 何故、腕が二本あるヒト化か? 実は通常の産業用ロボットの様に非ヒト型であると、冷蔵庫や培養装置、遠心機など実験に必要な機器もそれに対応した特殊な機械を開発する必要があるためです。ヒト型ロボットなら人間が使う機械や機器をそのまま流用できます。ロボットがインキュベーターの扉を開けて器用に培養皿を取り出すのを、呆けたように眺めておりました。現在のところ、ロボット自体が画像を処理、独自に判断して作業を進めることができないので、厳密な作業プロトコールと、操作する機器の座標を定めなくてはなりませんが、培養細胞をかきとり、全蛋白質を抽出・精製する作業は可能となっています。

 中山教授によれば、人間と比べて細胞を傷つけたり、遠心したペレットをかき乱したりすることが全く無いため、ロボットで採取・抽出したたんぱく質は分解されることなくほぼインタクトだというのです。人間の作業ではどうしても蛋白質分解酵素を活性化することを防げないために、プロテオーム解析では蛋白質だけでなく、その分解産物も解析することを余儀なくされていたのです。中山教授は、ロボティックス、無細胞蛋白質生産系、ヒトの完全長cDNAライブラリーのわが国の十八番の技術を組み合わせ、ヒトの全蛋白質の絶対定量解析を可能にすることに目途を付けています。今後、ヒトプロテオームの量的拡大だけではなく、質的な拡大にもロボット技術は貢献することは間違いないでしょう。

 わが国の大学では研究という頭脳労働と実験という肉体労働の分離がまったく進んでおりません。テクニシャンという人材を欠いているためと、妙な悪平等主義が大学にはびこっているためですが、ヒト型ロボットの導入でこうした悪弊を断つことが出来るかもしれません。勿論、新しい技術や装置を開発するためには手仕事は不可欠ですが、ルーティンとなった実験作業に若い頭脳を奴隷として酷使する必要は認めません。研究ロボットの導入でわが国のポスドクの奴隷解放が進むことを期待します。

 但し、問題は今の大学院教育が人間ロボットを作成することに主眼が置かれていることです。早急に自らテーマを発見、解析法を開発する頭脳の育成に大学院のカリキュラムを変更しないと、かつで産業革命に反対したラッダイトの過ちを高学歴の人材が犯しかねない。こんな悲劇を生まぬよう、大学の経営陣には抜本的な大学院教育の改革に取り組んでいただきたい。創造性、創造性、創造性、の涵養こそが大学院教育の主眼となされねばなりません。私もロボットと競合しないように、努めねばなりません。

 今週も、皆さんもどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満
ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

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