Wmの憂鬱、米国政府がバイオテクノロジーの振興を狙った戦略を発表【日経バイオテクONLINE Vol.1727】

(2012.05.01 19:00)

 晴天に恵まれたゴールデンウィークを皆さん、きっと堪能なすったと推察しております。私はテニスと庭仕事で、普段使っていない筋肉が悲鳴を上げております。これから新緑の季節は植物の生育も旺盛となり、まさに緑との戦いの日々が続きそうです。しかし、枝を梳かないと、また足長蜂が巣を造り、家に入るのもおっかなびっくりと成りかねません。

 さて、イングランドのプレミアリーグでは、マンチェスターシティがマンチェスターユナイテッドを辛うじて下し、首位を確保しました。欧州のサッカー・シーズンはまったくぎりぎりの終盤に差し掛かっており、目が離せません。香川選手の所属するドルトムントもぶっちぎりで、ドイツのブンデスリーグで優勝しました。この優勝とマンチェスターユナイテッドの敗戦によって、香川選手がプレミア・リーグに移籍する可能性が濃厚になって参りました。是非ともルーニー選手との連携を見て見たいと、皆さんも思っているのではないでしょうか?もっとも、その前に、オリンピックでロンドンでビューすべきだと私は願っております。

 さて、バイオです。ゴールデンウィークもゆっくり羽を伸ばしてはいられません。4月26日に米国政府がバイオテクノロジーの振興を狙った戦略、「Bioeconomy Blueprint」を発表したためです。米国は本気でバイオ産業の育成に打って出ました。同じ日米首脳会談に臨んでも、とうとう30%を割った野田首相とは対照的に、しぶとく支持率を上げているObama大統領が再選を果たすためにも重要な役割を示すものです。日本でも各省ばらばらのバイオ戦略はもはや時間の無駄、是非とも国家レベルでの戦略策定が必要だと思います。ただし、医療イノベーション室のような予算の裏づけが乏しい戦略は不可。社会保障と税の一体改革のように、是非とも財務省が参加する会議によって、策定されることを期待しています。
http://www.whitehouse.gov/blog/2012/04/26/national-bioeconomy-blueprint-released

 さて簡単ですが、Bioeconomy Blueprintの骨子を以下に紹介します。

 今後、バイオ分野を牽引する技術を、遺伝子操作、ゲノム解析技術、そしてハイスループットスクリーニングなどのロボット技術の3つを取り上げているのが印象的でした。私だったらこれに大量情報のバイオ情報技術/ペタコンピューティングと細胞工学技術も現段階では取り入れるべきであると思っています。報告書を詳しく読むと、バイオインフォ、iPS細胞、合成生物学にも重点が置かれています。

 一番驚いたのが、今回の戦略で取り組む重点分野として最初に例示したのが、iPS細胞であった点です。我が国も山中先生が2014年には予算が無くなるなど気をもむようなことがないように、全省庁一そして企業も一丸となって、米国がもっとも悔しがっているメイド・イン・ジャパンの技術突破を大切にしなくてはなりません。

<<Bioeconomy Blueprintの戦略骨子>>
A)研究開発投資強化
 企業が研究費を提供できない初期の研究開発に投資、市場の失敗を補う。  
 協調性の取れた戦略的プログラムと以下の分野に絞り込んだ投資が必要。
  合成生物学、バイオインフォマティックス、プロテオミックス、その他
 統合的学際的投資
  物理、化学、工学、計算機科学、数学とバイオの境界での投資促進。
 新しい投資メカニズム
 プレコンペティティブ・シェアリング:情報とリソースの共有を促進。
  ゲノム情報、臨床試験デザイン、バイオマーカーなど
B)トランスレーショナル・リサーチと規制科学強化
 発見、イノベーションそして商業化を支援するエコシステムを創る。
 SBIRプログラムの刷新と強化。
 大学におけるアントレプレナーシップの高揚。
 連邦政府調達を活用し、バイオ製品開発を加速。
C)規制の迅速化と透明化
 バイオ技術の安全性担保を損なうことなく、迅速に評価。
 コストと時間の負担を軽減。
 各省庁をまたがる同時審査。
 関係者との連携構築。
D)人材育成
 雇用のミスマッチを埋める。
 雇用者と教育機関の連携。
 人材育成方法の見直し、そのための連邦政府の投資。
E)公と民のパートナーシップ
 政府は初期のシーズに投資。
 健康、エネルギー、農業、製造業での連携を勧奨するための投資。

●Bioeconomy戦略的プロジェクトの一例
1)iPS細胞などによる新しい精神疾患治療に結びつく発見
 パーキンソン病、ハンチングトン病、ALSの3つのコンソーシアム(NIH)
 2011年、Center for Reenerative Medicine(NIH,2011、iPS細胞治療)。
2)ワクチンと医薬品の毒性と有効性評価法
 NIHとDARPA、FDA 140M$を投入してヒトの生理学的反応を再現するチップ開発。
3)祖国防衛
 DHSと米国立バイオテクノロジー情報センターが、病原菌ゲノムの包括的な
データベース開発
4)FDAが蓄積している臨床試験と前臨床試験データを活用し、新薬開発のドライバーにする。
5)バイオ燃料、バイオリファイナリーの普及
 2025年に米国石油輸入を3分の1カットするため、USDAとDOEは2011年4月から3000万ドル、4年間の研究資金を投入、昨年9月にはUSDAは1億3600万ドルの産学官連携による地域のバイオ燃料生産・供給システムの開発する資金を提供。
6)バイオ燃料生産の多様化
 化学合成独立栄養生物を使った新バイオ燃料製造法開発プログラムElectrofuel
(2010年から、4500万ドル、13機関、米Advanced Research Projects Agency-Energy)
7)二酸化炭素から液体燃料へ変換
 植物工学による代替燃料製造プロジェクト(PETRO、3000万ドル、ARPA-E)。
光合成の改善などを目指す。
8)エネルギー植物の改良
 USDA-DOE Plant Feedstock Genomics for Bioenergy計画(1220万ドル、11年8月、
1220万ドル)。ゲノム解析情報に基づき、エネルギー植物の生産性を改良する。
9)農業分野の雇用増大を目指す新農業研究プログラム
 エネルギー生産のための農業研究を振興、地域の雇用増進を図る。
10)有機農法技術の改善
 USDAは09年9月から1900万ドルを投入中。
11)製造技術のバイオによる革新
 Living Foundries Program(DARPA)、軍事用途に生物学を応用した革新的な製造
プロセス開発に着手。現在デザイン可能な100バイオ以上も複雑なシステムを製造可能に。
12)バイオ製造技術の開発
 新しいバイオ膜によるエネルギー生産や細胞を再生医療のために基質に印刷するなどの革新的な製造方法をエネルギーと医療分野で開発、雇用を創出する。

                                    以上

 この戦略は我が国のバイオにとっても重要な羅針盤となるものだと判断しました。是非とも残りの連休でじっくり吟味願います。中でも、米国食品医薬品局(FDA)の今まで新薬の臨床試験や前臨床試験の許認可で蓄積したデータを解析し、企業のプライオリティを保護しながら公開、活用して新薬開発の基盤とすべきだという指摘は、各省庁が企業の知財や個人情報保護などを体の良い言い訳にして、情報共有を阻んでいる我が国とはえらい違いです。今後の行政ではデータの共有と公開が、政府の効率性を向上、国民からの信頼確保にも繋がることにそろそろ気づかなくてはなりません。いろいろ考えさせられる米国政府の戦略でした。

 どうぞ今週もお元気で。

         日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

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