◆◆◆薬用植物研究開発の最前線◆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   薬用植物資源研究センターの活動について
       医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター 川原信夫センター長

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1.はじめに

 独立行政法人医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター(以下、センター)は、2005年4月に国立医薬品食品衛生研究所薬用植物栽培試験場から組織変更され、独立行政法人医薬基盤研究所の生物資源部門として新しいスタートを切りました。センターは北海道研究部(名寄市)、筑波研究部(つくば市)および種子島研究部(中種子町)の3研究部から構成されており、11名の研究員(特任研究員を含む)と圃場の管理を行う8名の専門員が事務関係職員、技術補助職員等の方々のサポートを受けて各種薬用植物の研究、維持管理業務を遂行しております。当センターは日本で唯一の薬用植物等の総合研究センターであり、薬用植物リファレンスセンターとしての機能を果たすことを目的とし、主として以下に示すような試験研究業務を行っております。

1)研究者ならびに行政に提供する薬用植物等に関する情報整備

2)生薬、医薬品原料等として利用されている薬用植物等を植物体として維持し、研究・開発資源としての薬用植物等を収集・保存して、研究者等に提供する体制整備

3)有用性の高い新品種の育成ならびに薬用植物栽培の機械化による栽培の低コスト化の実現

4)薬用植物等に含まれる生理活性物質の探索ならびに薬用植物有効成分の生合成に関与する遺伝子の解明とその遺伝子操作等による成分の改変等への応用

 続いてセンターの薬用植物資源業務並びに研究について簡単に紹介させていただきます。

2.薬用植物資源の収集、保存、情報整備及び行政的要請への対応

1)薬用植物資源の収集・維持管理について
 センターでは約4000系統の植物を栽培・維持すると共に、種子交換・保存用種子の採取、収集を行い、現在約1万3000点の種子を各種温度において保存し、適宜発芽試験等も実施しています。

2)ソロモン諸島有用植物調査について
 08年度より、高知県立牧野植物園が中心となって開始した文部科学研究事業の分担研究機関として、ソロモン諸島の植物調査を行い、現在までにさく葉標本7084点、化学分析用サンプル507点、生植物標本230点および種子標本53点を収集し、維持・管理しています。

3)薬用植物資源の提供および行政支援対応について
 種子交換目録(Index Seminum 2005-2011)を年度ごとに作成し、2011年度は397機関(62カ国)に送付し、その請求に対し1351点(90機関)の種子を送付しました。また、種子交換以外での薬用植物資源提供実績として、大学および公的研究機関等に対して、06年度から2010年度の5年間に種子480点、植物体497点、標本139点および分析用サンプル1398点を供給しています。

4)薬用植物栽培・品質評価指針の作成
 イカリソウ、エンゴサク、カキドウシ、クソニンジンおよびトウガンの5品目について「薬用植物 栽培と品質評価」Part 12の原稿を作成し、刊行しました。

5)薬用植物データベースの構築
 センター保有の重要薬用植物等100種について、その特性、成分等の情報をデータベース化し、当センターホームページにおいて2010年3月31日よりインターネット公開(http://wwwts9.nibio.go.jp/mpdb.html)しています。

3.薬用植物等の保存、増殖、栽培、育種に必要な技術ならびに化学的、生物学的評価に関する研究開発

1)薬用植物資源の新品種育成に関する研究
 有用性の高い新品種の育成を目的として薬用植物の育種に取り組みハトムギ新品種「北のはと」「はとろまん」およびシャクヤク新品種「べにしずか」の育成に成功しました。

2)薬用植物資源の系統選抜および大規模機械化栽培による薬用植物の低コスト栽培法の確立に関する研究
 薬用植物等の種々の増殖法に関する検討、および、野生あるいは国外産薬用植物の国内栽培化を目的として、カンゾウの高グリチルリチン酸含有系統の育成を行い、日本薬局方規格値を超える系統9種の選抜に成功しました。さらに大規模機械化栽培による薬用植物等の低コスト栽培法の確立に関しては、野菜類の収穫、選別および洗浄等に用いる既存の農業機器を薬用植物等の栽培および調製に応用し、一部の機器において充分適用可能であることが確認されています。

3)薬用植物資源培養物等の長期保存条件の検討に関する研究
 植物組織培養物の超低温保存に関する研究では、継代維持中の薬用植物カルスを材料にガラス化法による超低温保存条件を検討し、数種の薬用植物において高頻度の再生に成功しました。

4)薬用植物資源の養液栽培ならびに遺伝子導入技術に関する研究
 カンゾウの養液栽培において、約400日間の栽培期間で日本薬局方規定値を満たす系統の作出に成功しました。またセリバオウレンおよびベラドンナの形質改変を行い、単位容積あたりのアルカロイドの生産効率の向上に成功しています。

5)薬用植物資源の各種活性スクリーニングに関する研究
 薬用植物エキスの抗リーシュマニアスクリーニングを継続的に行い、特にペルー産薬用植物からは数種の新規化合物を含む種々の活性化合物を単離、構造決定しています。

4.今後の展望

 センターでは第2期中期目標を策定し、2010年4月から新たな5カ年計画による研究業務が開始されています。今期は新たに薬用植物ファクトリーおよび薬用植物ESTライブラリーに関する応用研究を行っています。さらに2010年度からセンターが主体となり開始した厚生労働科学研究事業「漢方薬に使用される薬用植物の総合情報データベース構築のための基盤整備に関する研究」は、2012年3月の2年目終了時点において、薬用植物総合データベースフレームの構築が完了し、今後は集積した生薬に関する各種情報のアップロードを順次進めていく予定です。

5.おわりに

 センターでは、薬用植物の資源保護・系統保存、栽培・育種研究等、民間企業では実施できない研究事業を展開しています。特に現在までにセンターに導入された生きた資源植物は、遺伝資源としていわば何物にも代えがたい宝です。これら貴重な植物資源を大切に栽培、系統保存することがセンターに与えられた重要な責務であると強く認識し、今後も職員一丸となって一層の努力を注いでまいります。