現在、Novo NordiskのBiopharmaceuticals Sourcing部のAnand MasheshGaudam部長とインタビューするためにお台場に来ています。御釈迦様と同じGaudamという名前を持つ、Anand部長も勿論、剃髪しており、あたかも僧形のようでありながら、バリバリの免疫学者であるところが面白い。そしてためらいもなく「私の責務はイノベーションを見つけること」とのたまうのですね。

 今朝早々に、米Amgen社の創業者であるG.Rathman氏の死亡のニュースが飛び込んできました。享年84歳、肺炎で死亡したと伝えられています。米Genentech社やスイス/米Biogen社(現、Biogen-Idec社)に続く、第二世代のバイオベンチャーとして颯爽と登場したAmgen社はエリスロポエチンと顆粒球コロニー刺激因子の相次ぐ成功で、一気に成長、その後、糖鎖を増加したエリスロポエチンの誘導体「アラネスプ」を開発、さらには抗体医薬「ベクティビックス」や「ランマーク」に舵を切り、今やわが国最大の武田薬品を売上で凌駕する製薬企業へと成長しました。Rathman氏その腕力とビジョンでAmgen社の成長を常に牽引してきた、バイオ界のグルなのです。Genentech社のSwanson氏についで、バイオの巨星を失いました。月日の流れには逆らえません。安らかにお眠り願います。

 さて、個の医療です。

 5月12日に東京で、我が国で初めて患者鑑別の診断薬と新薬が足並みを揃えて認可された抗CCR4抗体「ポテリジシオ」(Mogamulizumab)の医療関係者向け発表会を、協和発酵キリンが開催することが判明しました。わが国の個の医療の本格的な幕開けです。2012年3月30日に厚生労働省から正式な認可を受けており、薬価収載されれば発売は既に秒読み段階です。ゴールデンウィーク前後にも嬉しいニュースが届きそうです。

 白血球を炎症部位などに遊走させるケモカインの受容体の一種であるCCR4と結合するヒト化抗体、ポテリジオ誕生には何度も薄氷を渡るような経験がありました。協和発酵キリンや関係した研究者の粘りも称賛に値しますが、成功した商品に必ず付随する幸運さにも、ポテリジオは恵まれています。

 ポテリジシオの第一の幸運は、他の企業が世界で2種類以上の抗CCR4抗体が臨床開発を経験していますが、いずれも血小板に関する副作用が問題となり、臨床開発は頓挫しています。その原因は実に単純で、ヒトの血小板にもCCR4が発現しているため、抗体が結合して副作用を生むのです。では何故、ポテリジシオにはこの副作用がなかったのか?実は、協和発酵は東京大学と共同でCCR4などケモカインの抗体を片っ端から作っていました。ポテリジシオはCCR4の部分ペプチドをマウスに免疫して得られたマウスのモノクローン抗体をヒト化した製剤です。競合他社が開発した抗CCR4抗体は、天然型のCCR4分子を免疫したか、細胞に遺伝子導入してCCR4を発現した細胞で免疫した結果得られた抗体でした。この差は結果的に極めて大きく、CCR4の裸のペプチドを認識するポテリジシオと、糖鎖を結合したCCR4を認識する競合他社の抗CCR4抗体の差となったのです。実はヒトの血小板に発現しているCCR4は糖鎖が結合していました。幸運でしたが、ポテリジシオは血小板に発現しているCCR4とはほとんど結合できない抗体でした。意図的に選択した訳ではありませんが、結果的に副作用を抑止することができたのです。協和発酵キリンの幸運から、読者も是非とも多くを学んでいただきたい。同じ標的たんぱく質でもどこを認識するかで、抗体医薬の商業化の成否が決まるのです。決して公開はされませんが、抗体医薬の中には予想外に毒性の強い抗体もあり、臨床開発を断念する例も多いのです。良い標的が見つかった場合でも、複数の抗原免疫法で抗体を開発することはつくづく重要だと思います。

 第二の幸運も訪れました。当初、ポテリジシオは抗アレルギー剤として開発を進めていたのですが、実はCCR4がケモカインと結合することを阻止する活性があっても、実際にアレルギー反応を治療する効果は十分ではなかったのです。シグナル伝達のブロック抗体としては物足りない効果しかなかったのです。ここに協和発酵が独自に開発していた糖鎖修飾(Fc部位のフコース除去)技術、ポテリジェントが間に合いました。同社はブロック抗体ではなく、デプリーション抗体(結合する細胞を除去する抗体)に開発方針を転換したのです。ポテリジェントによって抗体依存細胞傷害作用(ADCC)を100から1000倍高めることができたから、こうした臨床開発の方針転換が可能となったのです。ブロック抗体で行き詰っている皆さんも検討に値すると思います。B細胞を除去する「リツキサン」、抗CD20抗体も大型商品に成長しました。案外、幹細胞さえ攻撃しなければ、特定の細胞を一時的に除去して治療効果を示すという、やや荒っぽい治療法も試す価値はあると考えます。

 第三の幸運は今回適応疾患として商品化が認められた成人性T細胞白血病に巡り合ったことです。臨床開発が難しいアレルギー疾患より、遥かに短期間で効果効能を証明することが出来たのです。オファーンドラッグの認定も受けましたが、CCR4を過剰発現する成人性T細胞白血病細胞を除去することによって、画期的な治療効果を示すことができたため、患者さんの登録も進みました。アレルギー疾患に関しては、Amgen社にライセンスし、米国で臨床開発が進んでいます。

 今後、ポテリジシオはアレルギー疾患の治療薬に展開する他、実は抑制性T細胞の除去によって抗原特異的なT細胞傷害作用によるがん治療の可能性もあります。既に、こうした抑制性T細胞除去治療に関する研究会も2011年に立ち上げており、まだまだこの抗体から目を離すことができません。中外製薬の「アクテムラ」に次ぐ、国産抗体医薬第二号として大きく成長することを期待しています。

 皆さん、今週もどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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