皆さん、お元気ですか。
 
 現在、品川駅の新幹線のプラットフォームで書いております。これから花の京都に向かい。乳がんの国際カンファレンスに参加いたします。今月は少し遅れてメールを差し上げます。

 さて、RNAiです。

 順調に行けば世界で二番目に商品化されるアンチDNA医薬「KYNAMRO」 (mipomersen sodium)を、米国Genzyme社が米国で販売承認申請(NDA)を2012年3月29日、米国食品医薬品局に提出しました。欧州医薬庁には昨年販売申請しております。いよいよ今年の秋にも画期的な核酸医薬の商業化が始まります。商品化第一号はKYNAMROも開発したベンチャー企業、米ISIS Pharmaceuticals社の眼のCMV感染症治療薬でした。KYNAMROが画期的であるのは、第一にアンチセンスDNA医薬としては初めて静脈注射製剤であることです。これによってDDSに問題があり、眼球注射など局所投与に限定されていたアンチセンスDNAの限界が突破できました。2’Oメチル化とホスホロチオエートをDNAの骨格に導入した誘導体の開発に成功したことが今回の成功の鍵でした。同社は既にLNAに限りなく近い、第3世代のアンチセンスDNAを開発しており、今後、今回の第2世代と合わせて、静脈注射製剤によるアンチセンスDNA医薬の用途開発が進む見込みです。
http://www.businesswire.com/news/genzyme/20120329005973/en

 KYNAMUROの適応症も家族性高コレステロール血症、但し中でもLDL受容体遺伝子に変異をホモで持っている重症患者に限定して販売申請されています。この変異は常染色体優性変異であり、片方の親からだけ遺伝しても血中のコレステロールは高値を示します。両親から遺伝した場合、血中のコレステロールは正常人の5倍近く上昇し、動脈硬化や心血管障害を起こすリスクが高まります。日本では100万人に1人がホモで遺伝し、片方だけ遺伝した(ヘテロ)人はなんと500人に一人存在しています。米国では希少病薬の認定を受けておりますが、既にGenzyme社はヘテロで重症な患者を対象にもKYNAMUROのフェーズ3の臨床試験で統計学的な有意な結果を得ており、ヘテロの重症例にも近いうちに適応拡大する戦略です。ホモの患者には、KYNAMURO200mgを週一回皮下注射します。

 ご存知の通り、高コレステロール血症にはわが国の第一三共が創成したスタチン系の医薬品が使用されています。今では物質特許が切れ、ジェネリックに市場が蚕食されています。なんで今さら、成熟した市場にアンチセンスDNAを投入するのかと疑問に思う読者も多いでしょうが、実は最大限スタチンを投与しても家族性高コレステロール血症の患者さんの動脈硬化の進展を阻止することは難しい。今回の臨床試験でも最大限スタチンを使用した患者さんにKYNAMUROは上乗せ効果を示しました。KYNAMUROの標的はアポBというリポたんぱく質のmRNAです。KYNAMUROはたんぱく質の翻訳を阻害し、アポBの生産を抑制します。その結果、悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールも血中から消滅します。アポBはLDLの構成要素であるため、コレステロールを抹消に運搬するLDLを形作ることができなくなるのです。LDL受容体に突然変異を持つ、家族性コレステロール血症の患者は、肝臓などにLDLが取り込まれなくなるために、血中のコレステロール濃度が上昇しています。KINAMUROはLDLの合成そのものをブロックしてしまうため、相乗効果が期待できます。ここまで、ダイナミックにコレステロールの代謝を変えるために、副作用が懸念されましたが、注射部位の炎症と一部の患者の肝脂肪の増大と肝臓からの酵素ALT流出(つまり肝臓障害)が認められた程度で、重篤な副作用は今のところ報告されていません。

 しかし、ISIS社のアンチセンスDNA誘導体開発の20年の労苦がやっと、今年報われることを考えると、誠に感慨深いものがあります。少なくともアンチセンスDNAは皮下投与や静脈投与によって全身性の疾患に使えるようになりました。標的遺伝子の発見がすなわち、創薬となるアンチセンスDNAは、全ゲノム解析が急速に進む今、新薬開発の基盤技術としてもはや無視できなくなりました。是非、我が国の企業も再考すべき時が来たと思います。

 今月もどうぞお元気で。

      日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満