こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 現在、アジア最大の医療機器展示会であるCMEFを取材するために、中国の深センに来ています。CMEFは年2回、中国国内で30年にわたって開催されてきた展示会で、とにかくその規模の大きさは聞かされてきましたが、実際に参加して驚きました。展示会場は12万平方メートルで2600社が出展と、数字だけを羅列してももう1つピンと来ないかもしれませんが、とにかく日本の展示会とは雰囲気が違って、展示ブースと展示ブースの間は狭く、そこに非常にたくさんの人が詰めかけて、音楽も大音響が響き渡り、“ドン・キホーテのような”というと怒られるかもしれませんが、活気とパワーに満ち満ちています。医療機器というと、大型の画像診断装置から、体外診断薬、注射器、綿棒までバラエティに富み、それらが一応はエリアを区別しながら展示されているわけですが、何やら雑貨店のような感じさえします。CMEFについては、追って日経バイオテクONLINEで記事として紹介させていただきますので、お楽しみに。

 ところで先週、このメールでも何度か取り上げてきたBaNZaIという勉強会で、メディネットの木村佳司社長の講演を聞く機会がありました。メディネットはご存じの通り免疫細胞療法を事業化する最大手企業で東証マザーズに上場しています。講演の細部についてはオフレコの部分もあるので割愛しますが、がん患者の自己細胞を治療に用いる免疫細胞療法は、米Dendreon社のProvengeように薬事承認を得て、医薬品として供給されている事例がある一方で、日本での多くの免疫細胞療法が医師法の下、医療行為として実施され、その矛盾が指摘されてきました。

 Dendreon社の事例があるのだから、全て細胞性医薬品として薬事承認していけばいいのではという声もありますが、Provengeの臨床試験期間が10年以上の長期に渡り、開発には12億ドルの資金を要し、それを回収するために1回3万ドルという高額な価格設定とされている現実を見ると、技術の普及という観点でこのやり方が適切なのか疑問が生じます。

 では、医師の裁量の下で、医療行為として実施していればいいのかというとこれも疑問です。何よりも、どういう細胞の加工処理を行っているのか、どういう状態の細胞をどの程度の量用いることで治療効果を得ているのかといった詳細がノウハウ化され、成績を比較できるようなデータも公開されないまま、各施設が独自の治療を行っている状況だからです。これでは産業として発展するには限界があります。そこでメディネットなどの企業が、標準化した手法で細胞加工などを行うことで市場の拡大に努めているのですが、それを医師法の枠の中で行うのはグレーと見なされます。

 そこでメディネットの木村社長は、自家細胞医療を発展させるためには、先進医療制度を弾力的に運用して医療法に細胞加工受託業を創設するか、もしくは薬事法における条件付き製造販売承認制度の創設が必要であると提言しています。ともに、施設基準と品質管理については細胞医療に最適な新たなガイドライン(regenerative GMPだそうです)を設け、安全性については少数の臨床研究を行ってきちんと確認する。その上で、医療法の場合は先進医療制度によって保険外併用療法で、薬事法の場合は条件付き承認を与えてやはり保険外併用治療で有効性を評価するためのある程度の規模の試験を実施するというものです。条件付き承認は、要するに安全性を確認した段階で薬事承認を与え、有効性の確認については保険外併用で患者に費用負担を求めることで開発コストを抑えながらきちんとした試験で評価していくというものです。これにより開発コストを抑えられる他、安全性を確認できた段階で、患者はその治療法にアクセスできるようになるわけですから、科学の進歩を迅速に実用化につなげる利点もあります。この提案を是とするか非とするかは考え方次第ですが、現状の医薬品の開発方法にも限界が見えつつあるわけで、大いに議論していけばいいのではないかと考えています。免疫細胞療法だけでなく、再生医療やがんワクチン、その他、開発過程において技術的改良が生じうるイノベーティブな医薬品・医療機器には、この考え方を導入するのも1つの方法かと思います。皆様のご意見もお聞かせください。

 最後にセミナーのご案内です。日経バイオテクでは5月に2つのセミナーを開催します。

 1つは「核酸創薬イノベーション」。日経バイオテク3月26日号の特集にも掲載しましたが、核酸医薬の世界が大きく進展を遂げつつあります。核酸の合成技術の発展や、薬物送達システム(DDS)技術の進展により、核酸医薬の花が大きく開花する可能性が出てきました。そんな状況をとらえて用意したのが、この核酸創薬のセミナーです。核酸医薬の分野で著名な東京医科大学の黒田教授、国立がん研究センター研究所の落谷分野長、元日本新薬の大木・ボナック取締役に加え、日本眼科学会理事長の石橋・九州大学教授、さらにはPMDAの荒戸課長、協和発酵キリンの山田主任研究員に登壇いただき、最先端の研究の状況を紹介いただくとともに、実際に臨床で利用していくためにはどのような課題、改良点、技術革新の余地があるのかを議論していきます。核酸医薬は抗体医薬の次の大きな潮流を作り出すことができるのか。その動向をウォッチするためにも、関係者必見のセミナーです。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/120528/

 もう1つは「製薬企業向け中国進出セミナー」。既に世界第3位に成長し、近く日本を抜いて2位になることが確実視されている中国医薬品市場。日進月歩で変わりゆく、医薬品関連の諸制度の動向をお伝えするとともに、特に臨床開発と薬事申請にスポットを当て、そのノウハウをお伝えするためのセミナーを用意しました。製薬企業の開発、薬事担当者で、これから新しく中国関連を担当するという方や、まさにこれから中国展開を考えているベンチャー企業の担当者にも理解できるように、基本的事項からの解説を心がけます。また、質疑応答にたっぷり時間を取るようにしますので、中身の濃いセミナーにできると考えています。中国市場にご興味がある方はぜひご参加ください。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/120517/

 どちらも自信を持ってお勧めできるセミナーです。是非とも皆様のご参加をお待ちしています。

 本日はこの辺で失礼します。ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。

 https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

                    日経バイオテク編集長 橋本宗明