オリンピックの水泳選手の選考会は一発勝負という問題はありますが、それだけに明快で、公正で、勝者も敗者も爽やかでありました。しかし、北島選手のオリンピック直前に自分のコンディショニングを合わせてくる技は素晴らしいものがあります。女子バタフライ100mの加藤ゆかもメダルを期待できる選手です。なでしこ以外にも金メダルを待望できる若手選手が続々と名乗りを上げつつあるのが、なんとも頼もしい。

 さて、個の医療です。

 今回は個の医療ではありませんが、近い将来の個の医療の標的となるがんの予防の進展をお伝えいたします。米国 American Cancer Societyの研究者による低用量のアスピリン(75mg-100mg/日)の6つの無作為比較試験のメタ解析の結果、あらゆる種類のがんの発生率(投薬後2-5年間)を20%低下させ、その後5年間の追跡調査でがんの発生率を30%低下させることが明らかとなたのです。しかも、34の臨床試験を加えたメタ解析では、がんの死亡率も有意に低下させることも明らかとなりました。

 従来、アスピリンは大腸がんと大腸ポリープの発生を抑止することは知られていたが、これだけの恩恵ではアスピリンの副作用に引き合わないので、がんの予防法としては普及しなかったのですが、その壁を今回のメタ解析結果は打ち破るかも知れません。しかも、今回のデータは先行しているアスピリンの予防効果を前向きに証明する大規模臨床試験、Women's Health Study (WHS)は解析対象としています。WHSは100mg/日のアスピリンの投与によって、全てのがんの発生率も、がん死亡率も低下させることを証明しました。その意味では今回のメタ解析の結果は、WHSの追試に相当します。ご存知の通り、メタ解析は一番臨床試験結果をエビデンスとして評価する場合、最も確かであると看做されるものです。

 米国American Cancer Societyの名誉副会長Michael J. Thun氏は「米国食品医薬品局や欧州医薬庁のガイドラインにがんの化学予防が収載される時も近いのではないか」と指摘しています。

 ここで個の医療の読者なら是非とも注目していただきたいのは、何故、がんの発生率が20-30%しか低下できなかったのか、という点です。当然ながら、我々の集団の中には、がんの予防でアスピリンの恩恵に与れる人々とそうではない人々に分かれる可能性を示唆していると、思います。治療だけでなく、予防も個別化は不可欠であると考えます。 詳細は下記の論文をご参照下さい。
The role of aspirin in cancer prevention. Thun MJ, Jacobs EJ, Patrono C.,
Nat Rev Clin Oncol. 2012 Apr 3. doi: 10.1038/nrclinonc.2011.199

  皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満