昨夜の春の嵐はいかがでしたか?私も京都に居り、最終の新幹線に乗る算段をしておりましたが、京都駅についてみるとホームの表示ではなんと15:10発の新幹線が次に来ると書いてあるではないですか。西日本の強風で博多発の新幹線が大幅に遅れた結果です。幸い、大阪始発ののぞみ号に飛び乗ることができ、何とか無事に、しかもそんなに遅くならず、東京に生還することができました。タイミングによってはずぶ濡れになった読者もいたのではないかと懸念しています。しかし、大阪も京都も東京も、桜の開花前だったのが不幸中の幸い。花散らしの嵐にならずに、ほっとしております。

 個の医療でも、実はほっとした出来事が起こりました。

 前回のメールで、我が国にも個の医療の春が来たとお伝えしました。唯一の懸念であった遺伝子診断などの商業化の大きな障害となっていた遺伝子検査2000点(2万円)の壁(実際には4月の診療報酬改訂で2100点や一部の遺伝病の遺伝子検査は4000点)を、厚労省が大胆にも自ら突き破ったのです。厚労省に敬意を表しなくてはなりません。今年5月にも発売が見込まれる、我が国発のコンパニオン診断薬と新薬のほぼ同時認可第一号となる協和発酵キリンの抗CCR4抗体「ポテリジオ」(モガムリズマブ)と協和メデックスのCCR4診断薬(免疫組織化学的とフローサイトメトリーの組み合わせ検査)は、検査の診療点数としては空前絶後の1万点(10万円)を与えられました。

 受託検査ラボの中には、検査の請求書を自動発行するシステムの価格欄の上限が9万9999円であるため、この検査を受注すると手書きで請求書を発行しなくてはならないという、ブラックジョークもあるほど、診断薬業界や受託検査ラボ業界は狂喜しております。この診療点数なら間違いなく、費用を回収できるはずです。今まで、診断薬企業や受託ラボのやせ我慢で維持されていた、我が国の個の医療もやっと商業ベースに乗る価格設定となりました。

 一方、ファイザーの「ザーコリ」(非小細胞肺がんの標的薬「XALCORI」のコンパニオン診断薬、アボットの「Vysis ALK Break Apart FISH Probe Kit」(蛍光in situハイブリダイゼーション検査)にも、6250点(6万2500円)の点数が付きました。これで肺がんに関しても、個の医療の持続可能性が担保できたと考えます。従来の渋い態度を、厚労省が改め、コンパニオン診断薬にやっと論理的な値付けを行ったのです。

 しかし、花見ではありませんが、今回の診療点数にただ浮かれていれば良いのか?実は、ポテリジオもザーコリも共にオーファンドラッグの指定を受けていることが、コンパニオン診断薬の高診療点数に結びついたためです。患者数が少ないので、高い値段をつけても、医療費はそんなに膨らまない。しかも、毎回生化学検査のように患者さんに検査を行うことも、コンパニオン診断薬はなく、初回処方前に一回が原則であり、この面からも医療費増にはほとんど影響しない。しかも、薬効が期待できる患者をコンパニオン診断薬によって絞り込めば、薬剤費も節約できる、と財務省に説明できたと推察しています。決して、今回の高診療点数はコンパニオン診断薬だから加算されるといった制度的な改正を伴ってはいません。あいかわらずの裁量行政です。これだけの診療報酬点数をつけてもらっても、果たしてコンパニオン診断薬を開発するコスト回収が保障されたとは、考えておりません。やはり、医薬品の販売から研究開発投資を回収できるビジネスモデルが成立している製薬企業から、コンパニオン診断薬の開発費用を診断薬企業が補填してもらわなければ、事業として成り立つ可能性は低いと考えます。

 残る課題は、患者数の大きな疾患や発症原因遺伝子変異によって適応拡大が進んだ場合に、コンパニオン診断薬の診療点数がどう定められるか?です。医療経済的な評価が、厚労省に価値を認めさせるには不可欠となっています。また、薬事承認された診断薬の記名が無い診療項目の設定も、将来の診断法のコスト削減努力を誘引するためには重要だと思います。

 業界の関係者は「2000点の壁を打破した実例が生れたことが大きい、今後コンパニオン診断薬はこの診療点数を参照値として、厚労省と交渉可能となった」と喜んでおります。ただし、理不尽な2000点の壁が、恣意的な裁量行政で、つまりお目こぼしで突破されたことにだけ、喜んでいてはなりません。宴の後の侘しさを避けるためにも、コンパニオン診断薬を正当に評価する診療報酬制度改革と、診療報酬設定ルールの透明化を油断せず推進しなくてはなりません。花見酒の酔い醒ましが必要なのです。

  皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満