皆さん、あっと言う間に、弥生が過ぎ、卯月になってしまいました。エイプリルフールの受難も潜り抜け、皆さんが春を堪能していることを寿いでおります。今朝ほど、御濠の周りを半周して東京駅に向かいました。半蔵門の桜は二分咲き、国立劇場の桜(濃い桜色)は早満開でした。同劇場のHPによれば、駿河桜、駿河小町、仙台屋、神代曙、小松乙女など珍しい桜が咲き誇っています。今までは気付かなかったのですが、冷たい冬でソメイヨシノとの開花時期が分かれ、今年はとても目立ちます。バラ科の桜の品種は多様性が大きく、桜はソメイヨシノだけに非ず。地域に独特の品種も大切に保存されています。今年は是非とも、皆さんの地元の桜の品種に関心を持っていただきたいと願っています。都道府県が競って、組織培養技術によってウィルスフリーの県独自の品種を復活・普及させる試みも盛んになっています。薄墨桜などはその良い例です。これから八重桜が散る1カ月が、日本が最も美しい。昨年は桜を愛でる気も震災で失せましたが、今年は2年分の桜を堪能いただきたい。桜に元気をいただきましょう。
http://www.ntj.jac.go.jp/topics/kokuritsu/2329/news20120301.html

 なでしこジャパンの強さは本物ですね。澤なしで、あれだけ米国相手に猛攻を仕掛けられるとは大したものです。ロンドンまで上り調子で、澤の復活も願っています。こればかりは、桜のように散る訳には参りません。今頃、私は京都で咲き染めた桜を探しつつ、iPS細胞の知財の取材を多分進めているはずです。

 iPS細胞の知財も 咲き染めにし 御車の春

 iPS細胞研究が好きな理由は2つあります。一つは秦の始皇帝ですら権力の絶頂の時に得られなかった、不老不死、あるいは若返りという哺乳動物の禁じ手を夢想することを許すロマンチズムです。勿論、不死の人間がいかに社会にとって迷惑な存在であるか、ということを認識した上で、いつかこの世におさらばしなくてはならない先輩としては、心が弱くなった時にこのファンタジーはとても上等なサイエンスであると思います。

 もう一つはiPS細胞研究が旧帝大のネットワークから誕生したのではなく、グラスルーツの日本の科学から誕生したことです。国家に支援、ある意味では規制された官製の科学ではなく、傍流の手術が下手な(山中先生は決して認めませんが)どうしようもない医師が、自分の人生の意味を問うギャンブルに端を発している科学なのです。個人の自由な思いや妄想が、純粋科学の進展を実現した。明治以来の富国強兵や戦後復興というまなじりを決した国家的悲壮感のない(山中先生はこの研究がだめだったら、整形外科医に戻ろうと考えていたようですが、その方が日本の国民の迷惑だったかも知れないと私は真剣に思っております)の開花です。我が国も豊かとなった証左であります。

 膨大な国家の研究資金も投入されておりますが、我が国の科学技術政策の一貫性のなさはご存じの通り。京都大学iPS細胞研究所はスタッフと研究水準を維持するために、民間からの募金にも力を入れています。自ら研究費を調達する努力も、私が好ましいというグラスルーツサイエンスです。天は自ら助ける者を助く。本当に自由な科学研究はこれでなくてはなりません。同研究所は、山中教授がランナーであったこともあり、最近、マラソン完走を賭け、寄付を募るキャンペーンを繰り広げています。昨日もなにわ淀川ハーフマラソンに、同研究所の青井教授が出走、見事完走して寄付金を獲得しています。多分、これからも様々なチャレンジをiPS細胞研究所は繰り広げ、資金調達するでしょう。是非とも、このメールでも宣伝させてください。今回は今朝知ったのでお役に立てなかったことを後悔しています。iPS細胞研究には思入れがあります。
http://justgiving.jp/c/8026

 富国強兵の圧力を排した科学の進展をこのiPS細胞で実現したいと思っております。初期化、先祖がえり(怒られそう)、我々の生存欲求、最近ではアンチエージングという詐称もありますが、に応える科学です。出来うるならば、人工的に老化に抗うのではなく、老化による機能低下を前頭葉の活動で冗談に変え、後代の苦労を慮り、引くべき時を知り、成仏する、その究極の目標に最先端のバイオ研究から得られた叡智を活用したい。最低限、社会に迷惑を掛けないよう、個人の尊厳を保つ生活機能を維持することは医学や科学に依存しても良いでしょうが、老化という自然に無理に抗うことは少なくとも私のスタイルではありません。iPS細胞という初期化の研究の技術突破が、私たちの散り際にも深い洞察を与えるとしたら、人類はまた一歩先に進むことになります。

 さて、そうは言っても人生の最後の時には愁嘆場を迎えそうですが、こうした人間心理の弱みにつけこんだ、民間療法が我が国のがん医療に蔓延しつつあります。「患者さんが望んでいるから」という理由で、厚労省のナショナルセンターや国立病院機構の病院群、大学病院で、未認可のがん抗原で活性化したという樹状細胞療法などを、自由診療として提供するケースが出ています。民間病院ならいざしらず先端医療の開発と普及を目指した大学病院や厚労省所管の病院やナショナルセンターが、こんなことで収入を確保して良い訳はありません。国立国際医療研究センターがテラからWT1抗原と細胞培養のノウハウの提供を受けて先月樹状細胞ワクチン療法を開始すると発表しましたが、最初のパンフには料金160万円と明示されており、テラはHPで患者説明会を4月上旬に国際医療センターで行うと表示(現在は削除)していました。実は今回の発表では臨床研究であると、国際医療センター側は強調しておりましが、これは直前に情報提供を受けた厚労省の指導の結果でした。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120322/160194/

 しかし、同センターの桐野前理事長は先週、厚労省の委員会でお会いした時に「あれは一部の医師が推進したもの。今後は有償で臨床研究を行い、先進医療に申請したい」と明言しました。しかし、まだ薬効も副作用も定かでない臨床研究を行う場合は、患者に費用負担を求めるべきでなく、医療機関が全医療費を負担すべきであることは常識です。いくらナショナルセンターや国立病院機構、大学が独立行政法人化して、自らも収益増大の圧力に曝されたといっても、やってはいけない倫理的な壁があるべきです。まして、抗原は違いますが、抗原で活性化した樹状細胞ワクチン療法「Provenge」は、2010年4月に米国食品医薬品局で薬事承認された立派な生物製剤です。我が国でも当然のことながら薬事審査の対象です。まして複数の医療施設に行としてWT1などの抗原を提供しているテラは薬事法に抵触する疑いがあります。実際、中外製薬は大阪大学と、WT1抗原をがんワクチンとして臨床試験中で、薬事承認を目指しています。また、ベンチャー企業、リンフォテックは同社の活性化リンパ球療法を薬事承認するために、臨床試験を準備中です。

 民間の医療機関で民間療法として御目こぼしするなら、現在のいい加減な医師法下で医師の責任で進めることも法的に可能かも知れませんが、本当に臨床研究の倫理的な基盤であるヘルシンキ宣言にのっとって進められているのか、ここでは医師の良心と医療行為の公開性が問われます。症例を蓄積し、本当に有効性を科学的に証明する一助になっているのか?それとも単なる金儲けなのか?ここが肝心。真正のグラスルーツサイエンスとの分かれ目です。患者の方も自分の気晴らしのためなのか?それとも正当な治療行為として期待しているのか?この違いを理解して受療する必要があるのです。しかし、収入確保して国立病院機構や大学病院、ナショナルセンターがこんなことを行うことが、正常だとはとても思えません。もしそれぞれの機関がこの技術を評価するならば、GCP準拠した臨床研究計画と統計解析可能症例数の確保、そして厳正な倫理審査委員会の審査と、明確な患者への説明と同意確認を行い、医療費は全額病院負担、勿論、臨床研究に伴う無過失の医療保険への加入も必要となるのです。是非ともまっとうな臨床研究を進めていただきたい。そのために費用が必要だというなら、国と堂々と議論して確保すべきであると思います。

 一度、全国先端医療研究を担っている公的な病院群と研究センターでこうした未承認の医療行為と臨床研究が行われているか、調査すべきではないでしょうか?残念ながら現代でも医学は科学と呪術の融合であります。厚労省は一度実体を把握して、その境界を整理する必要があります。勿論、文科省も大学付属病院に関して調査を進めなくてはなりません。医師法か、薬事法か、まだ仕分けが明確ではなく、実態だけが先行している細胞治療に関しては特に注意すべきであると思います。

 もう一つ深刻なのは我が国の健康保険医療に、高度医療評価制度があるために薬事承認なしに、保険医療に組み込まれる抜け道があることです。この制度は、イノベーションを取り込む制度という良い意味もあるのですが、先進医療の認定を受け、機関と期間限定ですが、患者の自己負担で混合診療が受けられる制度も悪用される可能性を秘めています。そろそろこの制度の見直しをも含めた、臨床試験や臨床研究の総合的な制度改革を検討すべき時代がやってきたと思います。国立国際医療研究センターの今回のトラブルを機関内で未然に防止できなかった倫理委員会のあり方にも、当然、メスを入れなくてはなりません。

 皆さんどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満
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