やっと近所の枝垂れ桜が開花しました。昨日まで滞在しておりました山形県鶴岡市にはまだ残雪も、それどころか降雪もありましたが、東京は一足早く、春の気配がやってきました。久しぶりに、気分を変えて明るい色のネクタイを締める気にもなりました。

 米国では、個の医療に関して知財で不確実性が増してきました。知財のルール面では、まだまだ判例を積み重ねなくては、個の医療産業の春はやってきそうにありません。

 2012年3月20日、米国連邦最高裁判所が米Prometheus Laboratories社が獲得していた、個の医療に関する極めてブロードな、別の言い方をすればこんな特許が成立するのかという米国特許6355623号と6680302号に関して、特許無効を宣言したのです。米国特許商標局はかつて、子供にねだられて父親の特許弁護士が申請したぶらんこの乗り方という特許を成立させたぐらい、審査は機械的に行われますので、とんでも特許が我が国より遥かに成立する可能性は高いのです。

 今回のPrometheus社の特許も、免疫抑制剤チオプリンの投薬量を血清中の代謝産物の量を測定する方法をカバーしています。これが一度、特許成立したこと自体驚きです。というのはチオプリンはもともとプロドラッグで、体内で代謝されて生じる6-メチルーチオグアニンヌクレオチド(薬効物質)と6-メチルメルカプトプリンリボヌクレオチド(毒性物質)が、薬効と副作用の原因であることは既にに良く、知られていました。同社の特許はこうした代謝産物の濃度を測って、チオプリンの投薬量を3ステップで決定するという手法を大雑把にいってカバーしたものです。2004年にPrometheus社は、米Mayoクリニックの診断ラボであるMayo Collaborative Service社がチオプリンの代謝産物を測定するサービスを開始していたことに対して、特許侵害訴訟を起こしました。連邦の地区裁判所は侵害の事実を認めたのですが、Prometheus社の特許自身が、自然の法則そのものと区別できず、無効であると判断したのです。つまりチオプリンを投薬して、患者さんの血清中のチオプリンの代謝産物を測定して、その結果に基づいて投薬量を匙加減することは、今までの医療行為になんらかの新規性を加えるものではない、という判断でした。

 我が国の特許法でも、特許の定義が自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なものと定められており、同社の特許が成立することはかなり困難だと思います。しかし、Prometheus社も粘り腰です。連邦控訴裁判所で特許は機器や装置に関連する技術として特許性があると判断し、特許が成立したのです。訴訟はもつれにもつれ、Mayo社の上訴によって今週の最高裁判所の判断となりました。結論は特許として無効であるという判決でした。最高裁判所ですから、下級裁判所に差し戻し、特許無効という再判決が近く下される見込みです。

 今回の判決は、個の医療に関して、自然の法則をどこまで逸脱する発明なら成立するのか?これからさらに頭を絞らないと、米国でも特許にならないことが、明白となったと考えています。今回の判決の影響を最も受けるのが、MyriadGenetics社の乳がんの予後を予測するマーカーであるBRCA1と2の遺伝子配列特許です。この特許も一度米国で成立していますが、米国分子病理学会が特許無効を申し立て、一度無効判決を受け、連邦控訴裁判所で逆転、特許が認められた段階です。しかし、これももつれにもつれています。連邦最高裁判所に提訴されており、たぶん下級裁判所(連邦巡回裁判所)に差し戻しされ、2013年末か、2014年初めに結論が出るだろうと予測されています。今回の特許は、ある遺伝子変異ががんの再発の可能性を増加させる発明であります。そのため、判決はPrometheus社の特許よりより広く、深く、個の医療の商業化に営業を与えるはずです。今回の特許無効判決のニュースでMyriad社の株価は5%低下したほどです。

 個の医療の特許に、春が訪れるのはまだちょっと時間がかかりそうです。

 今週もどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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