皆さん、お元気ですか。
 
 現在、青森県弘前に向かうため北上しています。今年は例年にない大雪で雪国は疲弊しています。ここまで積もると除雪の費用など、自治体や住民の負担は半端ではありません。今回は弘前で興ろうとしているプロテオグリカンを中核とした新産業の芽ぶきと、糖鎖をバイオマーカーとしている研究者の取材です。弘前大学は日本でも有数のプロテオグリカンの研究集積が存在しています。こうした国際的にもユニークな伝統は生かさなくてはなりません。

 さて、RNAiです。

 AsiaTide2012で3月2日にデンマークSantaris Pharma社の米国支社長兼上席開発本部長のArthur A Levin氏はまったく上機嫌でした。同氏はスイスHoffmann La-Roche社の毒性研究者から製薬産業に加わり、米Isis Pharmaceuticals社に転出、そこで主席開発本部長まで務め、2009年9月にSantaris社に参画しました。まさにオリゴ核酸医薬の開発の世界的なエンジンでした。

 「Isis社と特許紛争でもめているので大きな声では言えないが、商品化の先頭を走っているLNA(Locked Nucleic Acid)誘導体を利用したmiRNA-122の阻害剤、miravirsen(SPC3649)のC型肝炎患者に対して行われていた臨床試験フェーズ2の結果がきわめて良かった」とLevin氏。初めてLNA医薬が、そして創薬標的としてmiRNAをとらえた新薬がヒトでPOCを獲得できたため、思わず笑いもこぼれます。この成果は米国で昨年11月に開催された米国肝臓病学会(AASLD)で発表されました。miravirsenを7mg/kgを週一回で5回皮下注射した患者9人のうち、4人でC方肝炎ウイルス・タイプ1の血中濃度が検出感度以下となりました。2人は100分の1以下、2人は10分の1以下にウイルス量が減少し、プラセボと同等の効果しかなかった患者は1人だったためです。患者の肝臓細胞で脂質代謝を制御しているmiRNA-122はC型肝炎ウイルスが増殖するために、肝臓細胞でウイルスのゲノムRNA蓄積するために不可欠なmiRNAです。これを阻害する医薬品は、C型肝炎ウイルスがRNAゲノムを持つために、変異速度が高く薬剤耐性ウイルスをウイルスのたんぱく質やゲノムを標的にした医薬品では生じるという宿命を断つことができる可能性があるのです。昨年、日米欧でプロテアーゼ阻害剤が商品化されC型肝炎の治療薬開発は山を越したと誤解する向きもありますが、必ず生じる薬剤耐性ウイルスの問題に目を瞑ることはできないのです。宿主側の因子を標的としたC型肝炎治療薬の開発はまだまだ必要だと思います。
http://www.aasld.org/Pages/Default.aspx
http://www.santaris.com/news/2011/11/05/santaris-pharma-phase-2a-data-miravirsen-shows-dose-dependent-prolonged-viral-reduct

 LNAを巡るISIS社の特許紛争が本格化したのは、miravirsenの臨床成績の発表を控える昨年の9月23日にISIS社が米国で特許侵害を提訴したためです。ISIS社が2.5世代のアンチセンス医薬を開発していることが、昨年明らかになりましたが、その正体はまさにLNAそっくりの架橋した核酸誘導体でした。LNAなどの核酸誘導体は体内で極めて安定で、配列特異的に親和力も高く、理想的な核酸オリゴ医薬となる可能性を秘めています。また、この安定性故にDDS無く細胞に取り込まれる特性もあり、オリゴ核酸医薬のアキレス腱であった細胞への取り込み効率を改善する技術突破を期待できるのです。LNAはデンマークの研究者とほぼ同時に大阪大学薬学部の今西名誉教授が合成に成功しており、我が国でこの技術が開花しなかったことは本当に悔やまれます。

 あのISIS社ですらたどり着いた理想の核酸医薬はLNAだったのです。悔し紛れに2.5世代と同社がこの誘導体を呼ぶ心情はよく理解できます。同社は特許紛争を仕掛けると同時に、より理想的な第3世代の核酸医薬の開発に猛進しているはずです、今年3月7日に、抗がん剤としてフェーズ1臨床試験に入った、ISIS-STAT3Rxは同社の2.5世代オリゴ核酸医薬です。LNA開発でSantaris社に遅れをとった同社の起死回生の一打を期待されています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120308/159982/
 
 AsiaTide2012では西海岸のsiRNA研究室を閉鎖した米Merck社がまだ、200人もの研究者を抱えてsiRNAの研究を進めていることを知りました。また、Levin氏によれば昨年完全撤退を伝えられたRoche社も小グループだが自社でsiRNAの研究チームを維持しているというのです。ポスト抗体医薬とポストワクチンの目玉であるオリゴ核酸医薬の火は決して消えていないのです。今は燻っておりますが、LNAやアンチセンスDNAの商品化が始まれば、必ず燎原之火のように復活すると信じています。

 今月もどうぞお元気で。

      日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満