東日本大震災・津波の被害から復興するためにバイオは貢献できるのか?そういった疑問を抱きながら取材した結果を、復興の槌音というシリーズで本日から皆さんにお届けいたします。まだまだ、取材不足ですので、皆さんからの情報提供も期待します。第一弾は福島県立医科大学で始まった、創薬産業創出事業をレポートしました。がんの個の医療の技術突破がここで起こるのではないか?という予感がしております。是非とも、下記よりアクセス願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120314/160066/
 
 今年ほど梅の開花と桜の開花が首都圏以南で近づいた年を知りません。現在、神戸のホテルで海を見ながらこのメールを書いていますが、春と言うのに再び冷え込んでいます。昨日も関ヶ原の降雪のため、新幹線の運行が遅れていました。光の春は来ているのに、もう一息の間にある本当の春に届かないもどかしさがあります。サッカーのU23日本代表のオリンピック最終予選の最終戦も、もどかしい。是非とも、ほぼフルメンバーが揃ったので、スカッとバーレーンに勝利を決めて欲しい。なでしこが金メダルに着実に歩を進めていることを見習っていただきたいと、願っております。

 さて個の医療です。

 我が国の個の医療をリードしていた東京大学医科学研究所の中村祐輔教授は既に米Chicago大学を往復しておりますが、4月にはChicago大学の拠点に移り、今度は国際的に個の医療を開発する体制を敷きます。政治を動かし、どうしても動かなかった日本の縦割り行政を動かすという夢は実現しませんでしたが、こうした試みは患者さんに最新医療を届ける努力として継続されなくてはなりません。国立がんセンターの嘉山理事長も再任されず、交代を余儀なくされました。政治に期待を賭けた、あるいは政治家から期待を受けた2人の剛腕医師の退場は、この国の政治に医学や科学の声を届けることが如何に困難かを示しています。

 但し、官僚側からもう医者と付き合うのはこりごりという本音も漏れており、医師、なかでも外科医にありがちなパターナルな人間関係の中で培養されてきたリーダーシップの限界も見えて参りました。どうしたら政治と医学の世界で相互理解可能な言語をしゃべる人材を育成するか?日本の大問題であるかも知れません。一つの領域だけの専門では、システムの病に罹った日本の医療を再興することはできないことが明白となりました。

 どうやって領域を超えた専門家の協業体制を組み、なおかつそこに明快なビジョンを注ぎ込み、一般大衆の心を動かせるか?これを実現するためには、民の本音を理解できる真の政治家の出現を待望しなくてはなりません。中国の次の国家主席である習近平副国家主席は清華大学化学工程部卒業しています。ここのところ歴代が理科系のの出身であることはヒントを与えるかも知れません。英国のサッチャー元首相も化学者でした。先端技術が国際競争力を決める21世紀では法学部や政治学部では国を運営する素養が不足するのではないでしょうか?少なくとも政治や官僚、金融の世界の文系優位は日本の病の起源の一つと考えています。但し、鳩山、菅という理科系出身の元首相に対する国民の落胆は深く、理科系だけで十分条件を満たすという訳ではないこともまた歴史的真理です。

 中村教授が辞任した後でも、内閣官房の医療イノベーション推進室は個の医療を重点テーマとして取り組んでいます。再生医療の推進が薬事法改正に結実しようとする機運が形成された今、個の医療は重点課題としてクローズアップされてきたともいえるのです。3月12日にはコンパニオン診断薬関連企業のヒアリングも行われました。米国では2011年8月に二つの抗がん剤で実現した新薬と診断薬の同時承認をどうやって我が国で実現するか?気が狂うような複雑な制度(医薬と診断薬、薬価と診療報酬)の調整が始まろうとしています。しかし、日本の現行法では抜本改革なしには同時承認は事実上不可能。コンパニオン診断薬の審査期間の短縮と強調した診断薬と新薬の審査(情報交換)といったところで、まとまりそうです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120314/160066/

 米国食品医薬品局と欧州医薬庁はコンパニオン診断薬開発のガイダンスを昨年相次いで発表しました。両者ともコンパニオン診断薬の推進を唄っておりますが、一つ重大な違いが存在します。それはラボメイド診断薬、もしくはホームブリューウド診断薬、つまり薬事審査なしに、そろぞれの臨床検査ラボが自作した診断薬の使用を認めるか?否か?の違いです。欧州医薬庁はラボメイド診断薬を自主的な業界の品質管理システムを前提に、個の医療で使用することを認めています。元々、身襲性の低い診断薬の認可は欧州は軽く、その伝統が個の医療にも生かされた格好です。米国のガイダンスでは、薬事承認を奨励していますが、米国では薬事承認以外に診断薬の商品化ルートがあり、個の医療の二大エンジンであるOncotype DXもBRCA1,2の遺伝子検査とも、米国では薬事承認を得ていませんが、堂々と販売されています。

 個の医療のオピニオンリーダーである三重大学医学部長の登教授は「日本でも、欧州型のラボメイド診断薬を認めるべきだ。技術革新が速い診断薬では検査の診療報酬を定めて、その検査に使う診断キットは規定しない方が良い。そのための条件は、ラボメイド診断薬の標準化と全国での品質管理を自主的に業界が行う仕組みを機能させることだ」と指摘しています。日本でも薬事承認を得た検査キットとそうではないラボメイドの診断薬が混在して認められています。コンパニオン診断薬は新薬がドロップしたら、運命を共にせざるを得ません。また、一生涯に一回だけで良い遺伝子検査もあります。そのため、どんなに楽観的な見通しでも市場はそんなに大きくならず、薬事承認を義務付けられれば、臨床開発コストも膨らみます。我が国のコンパニオン診断薬の受難を和らげ、開発を加速するためにも、登教授の意見は重要だと考えています。

 まだ、寒いし、東北、北海道では雪かも知れませんが、皆さん、今週もどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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