昨日、皆さん黙祷をなさったと思います。ちょうど、紀尾井町のホテルに居り、テレビに合わせて皆さんと東日本大震災の被災者を悼み黙祷させていただきました。しかし、周辺ではこの黙祷の間も、街宣車が大きな音量で永田町周辺でがなり立て騒然としており、一体この国はどうなっているのか?心配になりました。復興のためには、何よりも心を合わせなくてはなりません。岩手県と宮城県の瓦礫の焼却処理も、私たちの絆が試される問題です。これから政府のキャンペーンが本格化します。個人としては、東京、山形、青森以外の地域も積極的に受け入れるべきだと思います。被災地の処理能力で100年や数10年分の瓦礫が積み重なっており、自力では処理不能だからです。ただし、前提は瓦礫の放射能線量の公正な測定です。適切な情報開示に失敗した政府に対する信頼は地に墜ちています。子供を抱える母親を説得するには、政府や自治体による測定だけでは不十分。市民自ら測定することを保障しないと、地域での合意形成が難しい事態にまで、膿んでいます。初期対応の拙さが生んだ不信感は行政コストを増大させ、復興の足を引っ張ってしまったのです。勝手に「パニックになることを恐れて、情報開示をしなかった」という政府や官僚の言い訳は、自分達の危機管理能力の虚ろさを露呈しただけ。まして、災害緊急対策関連の議事録すら作成していなかったことは言語道断です。この国のリーダー達は歴史に対する責任を負っていることを認識しなくてはなりません。

 さてバイオです。

 久しぶりに東京池袋の立教大学に取材にいって参りました。長島茂雄選手の出身校ですが、米国聖公会によって設立されたミッションスクールを母体としております。あたかも米国のミッションスクールのような綺麗なキャンパスは、規模を除けば美しさで米Stanford大学と張り合える可能性を残す唯一の日本の大学かも知れません。

 学生の頃の試験採点のバイトについで二回目に立教大学を訪問したのには訳があります。本日から第6回の日本ゲノム微生物学会が開催されたためです。次世代シーケンサーによるゲノム解析の高速化、解析コストの暴落は、微生物学を大きく変えようとしています。この学会では、すべてがゲノム解析をベースとした新しい微生物学の進展が報告されます。今回の発表でも、海の底から水田、化学物質の汚染土壌、そしてヒトの腸内細菌まで、分離された微生物や微生物群(メタゲノム解析)が、ゲノム情報に基づき、同定され、プラスミドの不安定さや遺伝子の水平伝達、代謝変動など、いままで研究が困難であった、微生物の姿が分子レベルで記述されるようになって参りました。従来の微生物学の教科書と比べると、使っている言葉が異なる微生物学の発展がここにあるのです。微生物学が量子的飛躍の時代を迎えているといっても良いと思います。展示会場には、米Pacific Biosciences社の第三世代ゲノムシーケンサー(1分子シーケンス)も、トミーデジタルバイオロジーが出展していました(機械展示はありません)。我が国での販売の滑り出しは好調で、従来の短いリードでは解析が難しかった大規模なゲノム構造の変化などを読み取ることができるかも知れません。よりダイナミックな分子レベルでの微生物の姿を掴むことを期待しています。

 微生物学の量子的飛躍の時代で、一番困ったことというか?頭を巡らせる必要があるのが、微生物にとっての種の概念です。今まで、19世紀に微生物学を確立したロベルト・コッホが定義したシングル・コロニー分離による純粋培養で、微生物の種は定義されてきました。しかし、これはひょっとしたら極めて人工的な状況下における微生物の分類ではなかったのか?悩みは深まります。昨今のゲノム革命の結果、微生物群の中での遺伝子の水平伝達の研究が急速に進み、今まで単独の存在として捕らえていた環境中の微生物がプラスミドやファージ、DNAの取り込みなどによって遺伝子やゲノムを交換しているコミュニティであることが明白となってきました。微生物学においても絆の研究が重要となってきたのです。また、大腸菌といわれている微生物の200種以上のゲノム配列も解読された結果、ゲノムの多様性が明らかになってきました。保存されているゲノム(コアゲノム)と保存されていないゲノム配列が見えてきたのです。

 果たしてゲノム配列だけを用いて機械的に微生物の種を決定できるか?ヒトでも個人間にゲノムの差は存在していますが、微生物ではより大規模で動的な変化が、環境との影響で起こっていました。日本ゲノム微生物学会の大会3日目には種とは何かを議論するシンポジウムが開催されます。原核生物の種とは何か?こんな根源的な問題が問われるほど、微生物学がぎしぎし言いながら新しい方向に発展しようとしているのです。

 学会では光合成系を大腸菌に移植する発表もありました。しかし、バイオエネルギー生産に完全に的を絞って工業化を進めている、米国と比べると工業利用の研究発表は極めて薄弱でした。世界に先駆けて必須アミノ酸の工業発酵を成功させた、我が国の発酵工業の復興に微生物学の量子的飛躍を結び付けなくてはなりません。

 まったく、温かくなったり寒くなったり落ち着きませんが、確実に光はもう春です。どうぞ、今週もお元気で。

         日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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