現在、都内でクラスターや産学連携関連のシンポジウムを2つ取材、なおかつ、経産省にまで取材に行ったため、アップアップで都内を彷徨しております。

 さて、昨日都市センターで、厚労省科学技術研究費補助金の東日本大震災被災者の健康状態等に関する調査に係る研究班会議を取材しました。個の医療とはすこし遠いのですが、今の日本でこうした研究に皆さんが関心をもっていただくことが必要だと思い、今回は筆を執りました。

 舌を噛むほどの長い研究班名ですが、この研究はきわめて重要です。厚労省が東日本大震災に対応して創設した研究プロジェクトの中でも、注目に値すると考えます。昨年6月にはプロジェクトが立ち上がりました。宮城県と岩手県の被災者の健康調査を行い被災者の健康被害を抑止するために、タイムリーに支援を行うことが目的です。当初は福島県に健康調査も計画していたようですが、放射能被害という特殊事情のため、福島県が全県民の調査を行うことが決まり、厚生労働省の研究班の対象からは外れました。今後、両方の調査の連携が重要です。

 被災地の現場の声を知るための重要な研究です。国立保健医療科学院が中心となり岩手大学と東北大学が参加、現地の避難所や仮設住宅を訪問して、聞き取り調査やアンケート調査を行っています。特定検診の診断項目に従った健康診断に加えて、生活の変化や、睡眠状態やうつ状態などを診断するメンタルテストを行っています。こうした粘り強い調査から、今後の被災地の住民の健康確保に必要な支援が明確になってきました。

 今や仮説病院での診療も始まり、地域医療が徐々にではありますが、復旧しつつある現状を考えると、今後最も重要なのは被災地のメンタルケアであることが、明らかになって参りました。阪神淡路震災でも、仮設住宅での孤独死の問題が浮き彫りとなりましたが、東日本大震災津波では、避難民の規模と避難期間、そして地域のコミュニティの崩壊度が阪神淡路とは比較にならないほど大きく、「早急に対策を打たなければ、大変なことになる」と岩手医科大学の小川総長は指摘しました。

 アテネ不眠尺度やこころの元気さを測るK6という尺度で計測すると、被災者の抑うつ傾向は全国平均の1.5倍から2倍程度増加していました。特に失業や収入が減少した被災者ではその傾向が顕著に増加していました。メンタルなケアだけでなく、物理的な復旧だけでなく、職など産業の復興も急がなくてはなりません。

 しかし、今回の調査から被災者の心の健康を保つ極めて重要な鍵が明らかになりました。東北大学地域保健支援センター長辻教授の調査では、網地島という高齢化が進んだ漁業中心の島の住民の心の健康が、仙台のベットタウンである若林地区や雄勝・牡鹿地区と比べ、健全に保たれていることが明らかになったのです。津波によってほぼ全住民が被災し、失業率が2番目に高く、収入の低下が一番高かった地域でしたが、アテネ不眠尺度では不眠状態が全国平均より低く、こころの元気さも全国平均より良いという意外な結果が示されたのです。被災後暮らし向きが変わったかという主観的評価に関しても、他の2地域よりも苦しくなったという割合が飛びぬけて低かったのです。

 では網地島の被害が少なかったかというと、そうではありません。震災の記憶の調査で思い出すと気持ちが動揺するといった質問は、3地域ともまったく同じでした。辛い経験は同じなのに、何故、網地島の住民は心の健康を保つことができたのか?背景には、85%の住民が年金受給者で一定の収入が確保されていたこと、それに加え、第二次世界大戦などの経験もあるとも辻教授は分析していましたが、一番の違いは周囲への信頼感の差であることを辻教授は証明しました。網地島はコミュニティが存在し、住民同士の絆が太かったのです。周囲への信頼感をスコア化した結果、網地島は若林地区や雄勝・牡鹿地区と比べて、段違いに高かったのです。一方、仙台のベットタウンである若林地区は収入減少も中位で、失業率も最低で、しかも収入増加が3地区で最も多いにも関わらず、アテネ不眠尺度とこころの元気さの両方の尺度で、3地域で最低を記録しました。

 人間は絆を失うと心の元気を失う。この事実は、震災の復興のために、コミュニティ単位の集団移住や仮設住宅においてもコミュニティを活発にするデザインや活動が必要であることを明白にしました。有形の復旧だけでなく、心の絆の結びなおしが新の復興には不可欠なのです。有形な投資は得意な我が国の政府は、心と言う無形のものをどう元気づけるか?あらたな施策展開がもとめられています。

 考えてみれば、こうした絆の大切さは被災地だけの問題ではありません。大都市化による個人の孤立をどう防ぐか、高齢化によって活動量が低下する老人が急増する都市とそれに活力を与えるために、無形な絆こそが重要であることを、痛感させられます。今までは情緒的な言葉かと思っておりましたが、人間という生物にとって”絆”こそ、大切なものであることを、この調査で実感しました。これから、一切のためらいを捨て、絆の大切さを伝えていきたいと思います。

 皆さん、今週もどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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