朝起きたら東京はすっかり雪国に変わっていました。今朝の厚労省の省議室から眺めた日比谷公園の森は雪帽子を被っていました。東京はこの程度の雪で大騒ぎとなっておりますが、日本の他の地域での降雪がひどくならないことを祈っています。特に、2014年ワールドカップ アジア3次予選の第6戦であるウズベキスタン戦が予定されている、 愛知県の豊田スタジアム周辺を心配しています。良い条件で日本代表の快勝を演出していただきたいところです。

 現在、白金のシェラトンホテル(旧都ホテル)で,AsiaTdeという国際カンファレンスの会場におります。核酸医薬とペプチド医薬の世界的なレビューが出来るのがこのカンファレンスの特徴で、毎年、実は楽しみにしております。この会場で教えていただいたのですが、我が国の次世代のペプチド医薬の旗手として期待されていた、オンコセラピーと大塚製薬・扶桑薬品(販売)が臨床開発をしていたOTS102(エルパモチド)のすい臓がんに対する臨床試験が失敗したニュースが届き、この会場でもペプチド医薬開発に関与している担当者からため息が漏れてきたところです。詳細な臨床試験データが開示されていないため、予断は許されませんが、本当に効果がなかったのか?臨床試験のデザインに無理があったのか?よくよく検証しなくてはなりません。
http://www.oncotherapy.co.jp/news/20120229_01.pdf

 今回の結果が、革新的な医薬開発にはある初期の躓きであり、そこからどれだけの教訓を引き出せるかが、問題です。しかし、がんワクチンの評価のスタンダードであるOSで有効性が出ていないという、今回の結果は確かにいったんは落胆せざるを得ません。臨床試験後の後治療が最もOS(全生存期間)に影響する可能性がありますが、すい臓がんではその可能性も低いかもしれません。今後のがんワクチンの臨床試験は効く患者を予め鑑別できるバイオマーカーの必要性が強調されるかもしれません。エルパモチドは腫瘍血管を増殖させる血管内皮細胞増殖因子受容体2(VEGFR2)の部分ペプチドです。エルパモチドで免疫すれば免疫系ががん組織やがんの周辺組織で発現しているVEGFR2を攻撃し、血管を破壊し、がんを兵糧攻めできると期待されていました。昨年11月に抗VEGF抗体「アバスチン」の転移性乳がんに対する適応を米国食品医薬品局が、OSの延長が認められなかったことを理由に、取り下げました。VEGFを標的とした治療はがん種によっては、慎重に、可能なら治療効果のある患者さんの鑑別マーカーを備えることが要求されるようになっています。乳がんのように後治療が充実しているがん種では、統計学的にOSを証明することがどんどん困難になっています。アバスチンの無増悪期間(PFS)の延長は目覚ましく、後治療が充実したがん腫では、OSではなく、PFSを重視すべきだという声も高くなっています。

 しかし、がんワクチンでは投与初期にはむしろ増悪する患者群が存在し、PFSはコントロールより悪くなることが今までの経験で明らかになり、米国食品医薬品局のがんワクチンの評価ガイドラインでは、PFSではなく、OSで評価するように定められました。今回のオンコセラピーの臨床試験は、にこの評価ガイドラインを予測したがごとき最先端の考えでデザインされたものでした。是非とも、今後の解析から次の成功に導く教訓を導きだしていただきたい、と心から願っています。ワクチン投与初期に増悪する患者群とは何か?それを鑑別するマーカーこそ、まずは解明しなくてはなりません。

 AsiaTideの展示会場で、オリゴ核酸の合成用レジンの売り上げが増大していることを知りました。Mipomersenなどのアンチセンス医薬が臨床開発後期に入り、siRNA医薬の臨床開発もステージが進んだためという解説でした。抗体医薬も敗血症治療薬「Centoxin」がフェーズ3で有効性を示せず、一度、世界中の企業が研究開発に悲観的になった事実もあります。しかし、Genentech社がRituxanの開発に成功、その後は一気に抗体医薬の時代がやってきました。オリゴ医薬は2010年から11年に米国市場の縮小を受けたビッグファーマの研究開発費カットで、siRNA研究が犠牲になりましたが、けっして終わった訳ではありません。実際、米国Merck社はまだ200人の研究者を抱え、siRNAに再び挑戦し始めました。

 年内にMipomersenが欧州で認可されれば、まずアンチセンス医薬の本格的な復活が始まることは間違いないと確信しています。このアンチセンス医薬が成功するならば、それはこれを開発した米ISIS Pharmaceuticals社の執念に他なりません。末端をOメチル化した安定なDNA/RNA分子である同社のアンチセンス医薬は、親和性向上と血中う安定性の改善によって、生体内で既にsiRNAの10倍以上薬効を示すようになっています。かつて、試験管内の実験でsiRNAがアンチセンスの50倍から100倍効くと報道していたことを恥じています。それは事実ですが、だから医薬品としてsiRNAが優れているというのは短絡的でした。今後、暫くはアンチセンスの時代がやってくるでしょうが、次はsiRNAとなるのが、歴史の巡り合わせというものだと思います。

 さて、オンコセラピーのショックで、個の医療がおろそかになりました。最後に皆さんに、お知らせを。良い個の医療のシンポジウムが3月2日午後、品川で開催されます。理化学研究所ゲノム医科学研究センターと 米国国立衛生研究所 薬理遺伝学研究ネットワークの主催で、個の医療のさきがけであるファーマコゲノミックスの国際シンポジウムが開かれます。これは必見です。下記のサイトからお早めにお申し込み願います。入場は勿論無料です。
http://www.src.riken.jp/event/120302/

 皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/