こんにちは。水曜日を担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 先週末、大阪・豊中市で開催された財団法人蛋白質研究奨励会創設50周年および株式会社ペプチド研究所創立35周年の記念式典に参加してきました。

 蛋白質研究奨励会は、大阪大学蛋白質研究所ができた翌年に、その研究を支援する目的で任意団体として発足し、生理活性ペプチドの合成、研究者への頒布などを開始しました。当初は大学の設備を借りてペプチド合成を行っていましたが、大学紛争を契機に大学を離れて自前の施設を整備しなければならなくなり、そのための借入金を返済するためにペプチドの製造と販売に本格的に事業として取り組む必要性から株式会社を設立したということです。それがペプチド研究所で、2006年には大阪・茨木市の彩都に、GMPという医薬品グレードの合成ペプチドを製造できる施設を建設したところ、ペプチド医薬、ペプチドワクチンが注目されるようになったことを背景に、引き合いが増加し、今やペプチドの製造施設はフル稼働の状態が続いているとのことでした。まさしく大学発ベンチャーの草分けであり、その成功事例の1つといっていいでしょう。

 蛋白質研究奨励会の理事で、ペプチド研究所の初代社長を務められた榊原俊平さんによると、最初に財団を設立された際に、大学教官は公務員を辞職して財団の職員になったということです。また、ペプチドの製造・販売に収益事業として取り組むことを決めた際も、財団法人として事業を行うか、株式会社を設立するかで悩み、「事業に失敗しても財団への影響は限られる」という理由から株式会社を設立して頑張ろうということになったと話されていました。

 幸いにも現在は規制が緩和され、大学教官が公務員の身分のままベンチャーの取締役に名を連ねることが可能になりました。この結果、これまでに数多くの大学発ベンチャーが設立されてきたことは今さら言うまでもありません。ただ、少し思うのは、ベンチャーの取締役との兼務が可能になったからと言って、大学教官が安易に取締役を兼務し、ベンチャーの経営に関わろうとする事例が多いのではないかということです。

 もちろん、大学教官の中には高い経営能力を有する人もいます。しかし、事業がうまくいかない大学発ベンチャーの事例を見ていると、大学教官の経営への関与度合いが強すぎることが問題と見受けられるケースは少なくありません。もちろん、ケースバイケースで、企業によっては研究者が経営者に加わっていることがいい結果をもたらす場合もあるでしょう。従って、本当に事業を成功させるためにその必要があるのかを熟考すべきで、安易に兼務をするのは禁物だと思います。

 話題は変わりますが、東京大学名誉教授で国立医薬品食品衛生研究所の名誉所長でもある乙卯研究所の首藤紘一所長にインタビューをする機会がありました。首藤さんが創製した化合物のタミバロテンは、日本で急性前骨髄球性白血病(APL)に対する抗がん剤として承認されており、大学発のシーズを実用化するという点ではやはり草分け的な方です。タミバロテンはビタミンAの誘導体の1つで、現在、アルツハイマー病の適応症でも臨床試験を行っているという話を、日経バイオテクONLINEの記事に紹介しました。2月初めに、やはりビタミンA誘導体であるである抗がん剤のベキサロテンがマウスにおいてアルツハイマー病の症状を改善させたとする研究結果を米国の研究グループが発表し、新聞紙面をにぎわしていましたが、タミバロテンは既に臨床試験の段階にあるわけで、一歩リードと言っていいかもしれません。いずれにせよ、日本発のシーズの新たなる適応拡大に期待がかかります。

乙卯研の首藤所長、抗がん剤タミバロテンを用いて、アルツハイマー病に対する臨床試験を実施していることを明らかに
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20120226/159773/

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https://bio.nikkeibp.co.jp/article/information/20120201/159312/

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                    日経バイオテク編集長 橋本宗明