現在、朝一便で羽田から那覇に向かっています。気流状態がはなはだ悪く、このメールもバランスを取りながら書いています。朝5時前に家を出ましたが、まだ東京の夜は深い。まるで夜景の中をレインボーブリッジを抜け、空港に急ぎました。夏の今頃は美しい朝焼けを堪能できるのですが、今朝はまだ明けぬ漆黒の闇。当然、頭も目覚めません。明日は福岡で臨床試験研究会を取材します。バイオ医薬や個の医療、そして再生医療の勃興が、臨床試験そのものの在り方まで変えようとしているのです。

 さて、個の医療です。本日は少しそれますが、個の医療実現の旗手であるバイオベンチャーの話です。

 昨夜、東京大学医科学研究所のGCOEのセミナーがありました。大学院生の新しいキャリアパスを開拓しようという野心的な試みで、通常の科学的なセミナーより遥かに面白い。参加者も、大企業、ベンチャー企業、、投資家、研究者、官僚、学生など種々雑多。昨夜は医科研の所長も附属病院の院長も姿を見せておりました。アカデミズムの総本山の一角に、これだけクロスカルチャーの人材が集う梁山泊が出現しているのは壮観です。米国の新興市場NASDAQのバイオインデックスは急上昇をしており、過去5年間で最高値を記録しております。欧米の危機が一段落した今、再び投資資金はバイオに向かっています。我が国でも実は有望なベンチャー企業が昨年末から今年にかけて資金調達に成功し始めました。昨夜も現在、我が国で最も勢いのあるバイオベンチャー企業、カイオムバイオサイエンスとペプチドリームが揃い踏みし、気炎を上げておりました。

 いずれも社長は企業の出身者で、技術突破の力に企業経営の力が加わり、明確なミッションとビジネスモデルが確立されているのが、心を打ちました。日本にもとうとうバイオベンチャー企業の経営者らしい経営者達が現れました。今や我が国のバイオベンチャー企業も第二の興隆期を迎えつつあるのです。

 創業者に対するベンチャー企業の資金供与に対する不明朗な釈明など、第一世代のバイオベンチャーの一部の企業のガバナンスの不備が明白となり、唖然とさせられたのとは好対照です。とにかく2000年から始まった我が国のバイオベンチャーブームは空前絶後のことで、法律の整備も利害相反の整備も、大学の知財の整備も、そしてそもそもバイオベンチャーに参加しようという経営者やアントレプレナーもほとんど未経験者だったのです。しかし、もうブームも10年経ち、いつまでも素人企業では社会的にも認知されないことは明白です。ガバナンスの確立と経営と発明の分離によって、プロの企業に脱皮しなくてはなりません。中でも上場したバイオベンチャー企業はもはや、市場に公開されたパブリックな存在なのです。創業者がまるで個人企業のように支配したいなら、是非ともMBOして市場から撤退して欲しい。兎に角、半分おしめをしているような上場バイオベンチャー企業はガバナンスを整備し、創業当初のミッションに従って社業を興隆させていただきたい。もし、使命を果たすことができないというなら、ビジネスモデルを完全に換えて、ただ生き残るという手もありますが、ベンチャーの本来の姿から言えば、潔く市場から撤退し、会社を整理する道もあります。

 一部の企業を除き、2010年までに上場したベンチャー群の株価は上場時の甘い株価設定も加わり、長期低落を続けています。上場後株を購入した投資家が空売り以外、利益を上げられない状況です。これでは投資家の信頼を得られるはずはないのです。そもそも上場することも難しいバイオベンチャー、しかも上場後も株価が低落する状況では、ベンチャーキャピタルは投資回収のめどがつかず、次世代のバイオベンチャー企業への資金を供給することもままなりません。こうした状況の一因は第一世代のバイオベンチャー企業の体たらくにもあると考えています。勿論、そんな企業に投資したVCも悪いのですが。後進のベンチャー企業を助けるためにも、我が国のバイオイノベーションを実らせるためにも、第一世代のバイオベンチャー企業は責任を果たさなくてはなりません。

 第一世代のバイオベンチャーの経験から、学ぶことは、大学の教授は役員になって経営の責任を負ってはならないということです。これは以前からも再三強調してまいりましたが、絶対的な真実、歴史の教訓であるとますます確信しております。我が国の文科省は自らの発明に基づいて創業したベンチャー企業の役員を大学の教授が兼任できるという世界でも例外的な規定を定めておりますが、これは早期に廃止した方が良い。世界の辺境の小島でもあるまいし、企業を経営するプロは我が国にごろごろしています。企業経営や自己規律という点では、素人の大学の創造的人材を役員につければ、どうなるか?ベンチャー企業がたちまち利害相反と徒弟制度の巣窟に変わってしまいます。公明公正に利益を上げ、社会に貢献する企業とはおよそかけ離れたものに変貌してしまいます。

 現在、iPS細胞に基づいて創業された2社のベンチャー企業を取材中ですが、唯一気に入らないのは、両社とも役員に大学の教授や研究機関の研究員が就任していることです。もし、経営の才能があると思うなら、欧米の常識のように是非とも退職して、企業の役員として専任願いたい。iPS細胞という我が国の宝とこれだけ国税を投入して研究を支援してきた国民の期待を裏切らないため、第一世代のバイオベンチャーの失敗を生かすためにも、発明と経営の分離は是非とも実現させていただきたい。大学や研究機関の教官や研究者は、ベンチャー企業の創業者兼科学諮問委員までが、企業に関与する限界。勿論、創業者ですから堂々と株式は持ち、キャピタルゲインは享受すべきです。その一部を大学や科学研究に寄付するかは、個人の考えによります。加えて、大学や研究機関の利害相反マネージメント組織にしっかりと申告することも、お忘れなく。また、VCや経営者も発明者を役員に就任させて、資金獲得のための人寄せパンダにすることは、かえってリスクであることをそろそろ認識した方が良いと、私は思っております。

 こうした健全な常識が我が国で共有されることが、第二世代のバイオベンチャーの興隆を持続可能にすると、確信しています。株式会社の勃興期に、資本と経営の分離に成功して飛躍的に企業が成長したように、発明と経営の分離こそ、第二世代のバイオベンチャー企業の力強い成長と投資家のバイオベンチャーへの信頼回復の鍵を握っています。

 皆さん、今週もお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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