昨夜、リーガエスパニョーラの再放送で、私の贔屓のバルセロナがオサスナに敗戦を喫した試合を見ました。これでトップを快走するレアルマドリードに10点以上の勝ち点差となり、ほぼ今季の優勝は絶望的です。あいもかわらずキーパーとディフェンスの不安定さが問題です。メッシや天才達も敵のキーパーの攻守に輝きを失いました。オサスナとは歴史的に拮抗した勝負を繰り広げてきましたが、ピレーネ山脈に隣接するパンプローナのピッチは、寒くて硬い。アウェイゲームでただでさえ分の悪いのに、温暖なカタルニャーのチームには厳しい結果が待っておりました。あーあです。チャンピョンリーグに賭けるしか、もうありません。
 
 さて、個の医療です。本日送信したProteomics Mailで、神戸のシスメックスが2012年1月31日から開始した、細胞周期関連たんぱく質プロファイリングによる早期乳癌の再発リスクの研究支援サービスについて掲載しました。是非ともご覧願います。乳がんの個の医療を前進させる技術です。明日以降、下記のサイトをアクセスし、記事検索でWMとインプットして検索願います。全文無料でご覧になれます。
https://bio.nikkeibp.co.jp/
◎Proteomics Mailの登録は下記から
http://passport.nikkeibp.co.jp/bizmail/btjtpms/index.html

 昨日も本日も英国大使館でPersonalized Medicineのシンポジウムが開催されており、日英の先端研究者達が議論を重ねています。現在までの結論は、個の医療に貢献するSNPsなどの変異マーカーは少なくともがんの領域では存在しているが、その恩恵を享受できる患者は多く見積もっても、現在発見されている疾患関連SNPsでは3割程度、残り7割のがんは多数の遺伝変異が少ない頻度でがん細胞にあまねく存在しているため、患者さんの鑑別にはまだ役に立たない、といったところです。まるで、インターネットの情報構造と同じように、がんに存在する遺伝変異の蓄積も、多くの患者が共通に所有する変異の数は少なく、ロングテールと呼ぶべき、患者数は少ないが幅広い突然変異が存在することが分かってきました。こうした情報をいかに医療に翻訳するか、これからが頭の絞りどころです。下記のサイトから15日午後の個別化医療のシンポジウムの動画をご覧になれます。どうぞアクセス願います。
http://ukinjapan.fco.gov.uk/ja/news/?view=News&id=727915282

 今回のシンポジウムで明白となった個の医療の次の戦略は、まずもっと疾患関連遺伝変異を見つけることです。その手段として、GWAS(ゲノムワイド連鎖不平衡解析)の規模を拡大して疾患SNPsの検出数を増加する。GWASの成果で得られる比較的多くの患者が共有する遺伝変異は疾患を引き起こすリスク低いが、疾患に関連するパスウェイを炙り出すには好適です。そして、家系調査と次世代シーケンスによる全ゲノム解読を組み合わせ、集団での頻度は低いが、疾患リスクの高い遺伝子の発掘も必要です。今後はGWASと家系ゲノムの真ん中にぽっかり空いている、集団の頻度はほどほどあるが、疾患のリスクもほどほどである中程度頻度中程度リスクの遺伝子変異群をどう捕まえるかも大きな課題となります。そのためには全ゲノム解析を数100から数万人規模で行う必要があるかも知れません。昨日のシンポジウムでは日英の科学者達が「シーケンスコストはもう問題ではないが、データ解析とデータ蓄積のコストが今後の個の医療実現の大きな壁」と口を揃えていたことが印象的でした。

 個の医療の次の戦略は従って、バイオインフォマティックスとクリニカル・インフォマティックスの融合により、個人個人の疾患の状態を、ダイナミックなシグナル伝達や疾患パスウェイ変動として捉えることです。フェノタイプ(診断情報)も含め、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームなどマルチなオミックスを統合して、病気をシミュレーションするシステム開発が必要になります。今年11月から企業や研究所に解放されるペタコン京の出番であると考えています。既に我が国の理化学研究所などの研究者は東大医科研のスパコンでデータ処理しています。隠されている不都合な真実は、マルチオミックスによって生み出される大量な情報を現在のインターネット回線では、転送することが困難である点です。今後、情報インフラや既にこのメールでも議論していますが、病院の診療体制も含めて、個の医療実現のためには、基盤整備を急がなくてはなりません。

 2年後に東北大学医学部に建物が新設され稼動する予定の東北メディカル・メガバンクのコア施設が、我が国のサンガーセンターとなる可能性があります。東北の復興と共に、我が国の個の医療の実現の鍵を握っているものです。ただ難しい問題もあります。昨日の英国大使館のシンポジウムで研究者が指摘していましたが、現在の次世代シーケンサーはCCDカメラの検出限界に到達しており、これ以上平行反応を高密度化し、効率を上げることは難しくなっています。問題は、その次が見えない。ナノポア・シーケンスはまだ実用化にはまだ遠いというのです。米Life Technologies社が投入したIonTrent社の半導体技術を活用したイオン電極の超並列化による第2世代のシーケンス技術がどこまで行くか?今、超高速ゲノムシーケンス技術は節目を迎えています。東北大学のコア施設に一体どんなゲノムシーケンサーを入れるのか?大いに知恵を絞らなくてはなりません。そしてシーケンサーの費用の少なくとも3倍程度、インフォマティックスにも投資し、人材を育てなくてはならないと思います。実に悩ましい状況です。

 こう書いてくると、今までのGWASは役に立たないという短絡的な評価も下されるかも知れませんが、まず疾患関連のシグナル伝達機構やネットワーク解明の手がかりとなったことを評価しなくてはなりません。そして、英国大使館のシンポで学びましたが、浸透度(遺伝変異を持った場合の発症のリスク)の低いが、集団に頻度高く存在するSNPsを10数種組み合わせると、実は集団としての疾患発症を抑制できる可能性もあるのです。集団を対象にスクリーニングし、疾患リスクの高い集団を見つけ出し、その集団に予防を行うことで社会としては医療費のコスト削減につながる可能性があるのです。英国側の研究者は公衆衛生学的なSNPsの応用に熱心であり、国民に対するNPsを使ったマススクリーニングも研究していました。日本では全くこうした研究がないか、私は知らない状況です。これは我が国の健康保険制度の大欠陥である、予防を制度的に排除している点と、公衆衛生的な手段によって住民や国民の健康を向上していくことが、我が国の政府と自治体の責任であるという認識の無さによるものだと思い至り、冷や汗が出ました。我が国にはとんでもない欠陥があります。この無責任体制に、医師会と族議員の反対も加わり、医療経済の研究とその基盤形成の重要性を意図的に無視してきたと、思います。憲法にも明記されていますが、国民は健康な生活を送る権利を持っています。これを実現するための、公衆衛生を個の医療の重要課題として、皆さんと一緒に明確に認識する時代になったのです。

 今週もお元気で。

 皆さん、どうぞお風邪を召されぬよう、ご自愛願います。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満