とんでもない才能が世界デビューした模様です。若手バレリーナの登竜門、ローザンヌバレーコンクール(Prix de Lousanne)2012で、クラシックとコンテンポラリーの両部門で、菅原円加さんが最高賞を受賞しました。日本では優勝と報道されておりますが、賞が沢山あり、彼女が受賞した賞が最高ランクの賞でした。世界各国から集まった若き才能の中で、いずれも審査員9人が最高点をつけたことは彼女の資質と現在までの努力が世界の中で頭抜けていることを示しています。最終審査は下記のサイトから全て見られますが。いずれも、きらきら光るダンサーの中で、確かに彼女の技術とメッセージ力は抜群でした。必ずしもプロポーションに恵まれている訳ではない、日本の関東の少女が手足の長いバレエ体型の少年少女に秀でるための努力を思うと、手放しで応援したくなってしまいます。特にコンテンポラリーダンスの動作の切れは素晴らしく、他を足もとにも寄せ付けない力を示しました。下記の動画の終わりの3分の1のところに彼女のコンテンポラリーの演技があります。必見です。17歳にして言葉以上に、身体で観客を魅了する術を身に着けている恐るべき才能です。残念ながら我が国では、プロフェッショナルとしてバレエで生きていく市場とメカニズムが存在しません。彼女の才能は欧州で花開くことになるでしょう。大いに期待したいと思います。
http://www.prixdelausanne.tv/

 ところでバレエにかまけていたら、サッカーU23がシリアにアウェイで1:2で負ける無様な敗戦を喫しました。たるんでいると、ロンドンに行けませんぞ。

 さて、バイオです。

 バイオベンチャーを育むクラスターは果たして本当に日本で形成できるのか?2012年2月1日に大阪で開かれた関西広域バイオメディカルクラスター成果発表会を取材して、頭を抱えてしまいました。関西広域クラスターは、文部科学省の地域イノベーション戦略支援プログラム(いわゆる知的クラスター第2期)によって形成が支援された我が国最大のバイオクラスターです。2011年度で終了、2012年度からは総合特区に引き継がれ、バイオクラスターの推進が進められます。

 「北大阪と神戸のクラスターが形成されつつあるが、成長は遅い。今までは個人的な営為であった産学連携が、コーディネータなどの活躍により産学連携の実質化が進んだ。しかし問題点としては、実用化まで進んだものが少ない。バイオメディカル研究の実用化に時間がかかるという宿命かもしれないが、大きな商業的な成果が出ていない。そして、現在、シンガポールなどアジアに生まれた巨大なクラスターに追い上げられている状況だ」と、井村裕関西広域バイオメディカルクラスター本部長は率直にまとめています。同氏の指名を受け、「これが本当にクラスターなのか?」と私が訪ねた意地悪い質問にも、「きっと誰かが、こういう質問をすると思っていた」と答えています。

 2012年度からは、総合特区の名の下に、京都を加えて、大阪、神戸の3都でバイオクラスター形成が継続される皮算用です。確かに、本心を言えば仲の悪い関西の3都市が連携して、一つのクラスター形成に取り組むことは、日本の歴史始まって以来のことです。これを認めつつも、しかし、こんなに拡大して本当にクラスターと言えるのか?疑問は膨らむばかりです。また、政府の資金供給が無くなっても、本当に絆を深めた関西広域バイオクラスターが維持できるかは、はなはだ疑問です。やはりクラスターは、市の境を越えることができないと、私は思っています。クラスターの主役はいうまでも無く自治体です。ベンチャーキャピタルよりも早く、投入した資金を雇用増や固定資産増による税収増として、利益がでるはるか前に回収できる自治体こそ、我が国でのクラスター形成の主導権をとるべきだと考えています。資金だけでなく、クラスターはその地域の若者の雇用を生み、また地域に新たな知的伝統と郷土愛を育むものだからです。イノベーションのエコシステムによって、地域が自立、世界と競争することこそ、クラスターの目的です。

 その意味では神戸市は及第点です。ペタコンの京まで誘致するほどの、えげつないほどの国家投資誘導によって、ポートアイランドに研究機関・大学・病院の集積を実現しました、200社以上のバイオ・医療関係の企業群も誘致することに成功、中国の世界最大のゲノム解析企業BGIも日本支社を東京ではなく、神戸に昨年開設するなど、世界的にもKOBEはKOBE BEEFに加えてバイオクラスターであることが認識され始めています。ただ、物足りないのは、神戸市のバイオクラスターに集結してきた才能達の横の連絡の希薄さです。大学や研究機関同士の横の連絡もまだまだ不十分です。地域はできたが、そこに集結した資源を融合させるメカニズムの構築が不十分です。San DiegoのUCCONNETのような組織をどうやって自発的に作るか、神戸市は大きな課題を抱えています。関西広域バイオメディカルクラスターには多数の革新的なシーズが存在するのに、商品化に結び付かない最大の理由は、こうした横割り組織の未発達であると考えています。大学教授が一番だと思っているシーズは、世界市場で再評価されて初めて競争力が担保されます。大学で生まれたシーズを正しく評価し、商業化のためのプライオリティをつけ、商業化に必要な資金や人材を投入するには、それぞれの分野のプロを連携した、横割りの組織やネットワークが不可欠なのです。良く各地のクラスターで作られているデータベースだけでは、こうしたダイナミックな商業化のエンジンとしては不十分であります。関西広域バイオメディカルクラスターが、本当にクラスターなのか?という私の疑問は、クラスターの参加者が絆を形成する、目に見えない組織が存在していないのではないか?という疑問から発せられたものなのです。

 大阪のバイオクラスターは大阪府が牽引していることに問題があります。知事ですら、大阪市長に鞍替えしたほど、実質的な大阪クラスターの推進には、府だけでなく、大阪市の関与も不可欠となります。大阪都構想が実現したら、都の主導の下に行政区単位でのバイオクラスター支援が必要です。東京都ですら、バイオクラスターの形成にはあまりに巨大過ぎて、利害調整が難しく、成功には覚束ない状況です。大阪都でも、巨大故にクラスター形成が困難となる矛盾に苦しむことになるでしょう。こうした大都市圏では行政主導というよりは、民間主導のクラスター形成が効率的かもしれません。実力も資金力ある企業が大都市圏には集中しています。自治体も企業が自由にやれる環境整備こそが重要となっています。

 世界と競争するためには、イノベーションを生む知恵の集積に加えて、実は原料の独占(あるいは原料の付加価値化の独占)という手段もあることを忘れてはなりません。元々、食品産業や機械産業などものづくりの集積がある我が国の地域に取っては原料の独占タイプのクラスター形成は重要です。典型的な成功例は香川の希少糖クラスターです。同地域は和三盆など砂糖の伝統的な生産地域であり、今は砂糖そのものは生産していませんが、砂糖を利用した和菓子など食品企業の集積がありました。同地域では、香川大学の希少糖研究の蓄積を、こうした産業集積と融合、希少糖の生産技術に開発に成功しました。加えて、その生理機能評価技術も香川大学医学部が積極的に関与、Dプシコースという希少糖が血糖値の上昇を抑える作用を持つことを突き止めました。砂糖を取り巻く、糖尿病や肥満のリスクをこの希少糖で代替することによって、低下させることができると期待されているのです。こうした研究成果に目をつけた、兵庫県伊丹市の松谷化学がクラスターに参画、食欲中枢とリンクしないため肥満問題の一因として社会から圧力が高まっている異性化糖を代替するDプシコース含有、異性化糖、つまり摂取しても太らない健康的な異性化糖の開発にもつながりました。うまくいけば、世界の異性化糖市場を塗り替える大商品に成長します。香川新糖と、まるで政党のようなニックネームで商標登録していることにも注目です。この名前に、我が国の政府の資金におんぶにだっこのクラスターにはない郷土愛を感じるではないですか。

 現在、注目しているのは青森県弘前市で展開中のプロテオグリカン(PG)をコアとした津軽ヘルス&ビューティー産業クラスターです。鮭の鼻から抽出したPGを化粧品や食品として添加、年内に60製品が発売される計画です。13年末には80製品を発売する予定です。青森県内の企業に加えて、岩手県、岐阜県、東京都など幅広い企業が商品化に参画しています。今年1月に開催されたシンポジウムではドクターシーラボなどの化粧品企業、@コスメや小学館美的などのメディア、電通総研やユニバーサルデザインなどのコンサルタント企業など多士済々が集まり、PG関連商品のマーケティング戦略で盛り上がっておりました。

 商売が先行していることが他のクラスターをは異なりますが、シーズから積み重ねて行くだけでは、確かにクラスターの成長速度は遅くなります。弘前市や青森県が敢えて、PGという地域にユニークな原料を餌に広範な企業に商品化を誘導する作戦に出たことは一つの知恵であると考えています。まして、青森県では関西や関東のように、地元の企業にイノベーションを引き起こすクラスターの重要性を大上段から説得することは困難です。クラスターを支援する企業をともかく集めるという点では、100社近い企業の参加を得た、弘前市のバイオクラスターはまず最初の関門を突破したと思います。実際に、懇親会などで新製品を展示している企業にお会いしましたが、皆とにかく元気で、地域を盛り上げようという絆に満ちていました。勿論、問題はあります。弘前市に鮭は遡上しないためです。青森県は一人当たりの鮭の消費量は全国一ですが、鮭の鼻から抽出するPGを確保するために、独自の原料獲得ルートをまず維持しなくてはなりません。今後の需要増を考えると、何よりも他の原料の可能性を追求する必要があるでしょう。そして最大の課題は、弘前大学が蓄積してきたPGの科学的な研究蓄積と、今後のクラスター活動の融合です。商品化を先行させただけでは、クラスターは持続的に成長はいたしません。なんとか、PGの生理作用の研究を進め、本当にPGが美や健康に貢献する根拠を示さなくてはなりません。また、美や健康に貢献する度合を測定する技術開発と、知財の確保は不可欠であると思います。弘前には関西広域クラスターには希薄な郷土愛と参加者の絆の深さが存在します。次の挑戦はこうしたインフラを大学の知識や機能と融合させ、真に日本の美と健康に貢献する技術や商品を開発することだと、私は期待しています。そうなれば、電通やメディアに過剰に期待する必要もなくなります。私の友人の経営する化粧品企業は売り上げの7割も広告宣伝に費やし、利益確保にキュウキュウとしております。メディアや広告代理店が儲かることより、真に競争力のある商品を創造することが、クラスターの責務であると考えます。都会に利益を吸い取られてはなりません。

 今週も、皆さんどうぞお元気で。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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