こんにちは。第2、第4金曜日を担当する日経バイオテク副編集長の河野修己です。

 読者の皆さんは文藝春秋2月号に掲載された「民主党に皇室典範改正は任せられない」という寄稿を読まれたでしょうか。著者は元首相の安倍晋三氏です。

 皆さんもご存知のように、男性皇族が激減したことが原因で皇室典範改正を求める声が出ています。

 現在、皇太子様とその弟宮である秋篠宮様より若い男性皇族は秋篠宮様の子息である悠仁様しかいません。皇太子様の代での新たな男性皇族は望めない状況であり、このまま状況を放置すれば皇統が途絶えてしまうのではないかという懸念が指摘されてきました。

 その解決策として一部の政治家や宮内庁幹部などが検討するべきとしているのが、女系天皇の容認です。現在の皇室典範では、女性皇族が皇族以外と結婚すると皇籍を離れなければなりません。

 これに対して女系天皇容認とは、女性皇族が結婚後に宮家を創設することを可能とし、そこに誕生した皇族に皇位継承権を認めることです。

 ここで女系天皇と女性天皇の違いを説明しておく必要があります。女性天皇とは文字通り女性皇族が天皇の地位につくことです。これに対して女系天皇とは、女性皇族の系統に連なる人物(子供など)を天皇とすることです。女性天皇は皇室の歴史では過去に何度かありましたがいずれも1代限りで、その地位が受け継がれることはありませんでした。それを認めると、女系天皇になってしまうからです。

 現在、皇室には8人の内親王、女王がいるため、女系天皇を容認すれば、皇統の危機は一気に解消できるでしょう。しかし、安倍氏は、女系天皇容認に強く反対しています。

 寄稿において安倍氏はこう主張しています。「私たちの先祖が紡いできた歴史が、1つの壮大なタペストリーのような織物だとすれば、中心となる縦糸こそが、まさに皇室だろう」「もし、我々が拙速にも、貴重な『縦糸』を取り除いたら、どうなるであろうか。壮大な美しいタペストリーはその軸を失い、一瞬にしてバラバラになってしまうであろう」

 女系天皇に反対する安倍氏が提案する解決策は、敗戦時に臣籍降下(皇族から離脱した)した旧宮家の皇籍復帰や、旧宮家の男子を養子として皇族にするというものです。安倍氏は、「旧宮家と天皇家の共通の祖先は600年もさかのぼらなければならないという反対意見があるが、そういう隔たりは過去にも実例があり珍しくない」として問題視していません。

 こうした主張を読んでわかるのは、男性皇族の世代のつながりは美しい1本の糸であり、そこに女系が入ると糸は切れてしまうというイメージを安倍氏のような保守派が持っているという点であり、重視しているのは伝統様式にのっとった形で、遺伝子の継承はほとんど眼中にないのではないかという点です。

 遺伝子の継承を重視すれば、遺伝的には皇室から遠く離れた旧宮家の血を入れるよりも、女系天皇の方が理にかなっています。そのため私は、女系天皇容認派の中に、「皇位継承とは遺伝子の継承でもある」と考えている人物がいると見ています。当初私はこの考えを自分の1人よがりかと思っていたのですが、そうでもないようでした。

 先日、遺伝子関連のある学会の幹部にこの話を振ってみたところ、さる宮内庁筋から、「Y染色体(男性にしかない染色体)上にある遺伝子は、生物個体の特徴にどのような影響を持っているのか」という問い合わせがあったというのです。

 もし皇室典範改正の議論が本格的に始まるとするならば、遺伝子継承の論点が持ち出されるだろうことを予言しておきます。