テニスの豪州オープンが開幕しました。伊達と森田選手は一回戦敗退でしたが、錦織と伊藤竜馬選手が我が国の男子としては実に40年振り(弱すぎました)に、2名の選手が二回戦に進出を果たしました。22歳と23歳の伸び盛り、錦織選手の圧倒的な攻撃力と伊藤選手のサーブ力に期待がかかります。是非とも3回戦にそろって進出していただきたい。伊藤選手(117位)はランキング81位のフランスのMahut選手、錦織選手(26位)は格下の94位の米Eden選手ですから、両者とも十分にチャンスはあります。伊藤のサーブが入れば、空前絶後の記録を作るかも知れません。錦織選手は今回の目標をベスト8(四回戦)進出に置いており、今の好調を維持できれば、可能であると確信しています。怪我だけが心配です。

 さて個の医療です。

 次世代ゲノムシーケンスによって、がんの原因別分類が進んできます。まるで全豪オープンのように一回戦、二回戦といった感じです。現在の乳がんでは女性ホルモン受容体(エストロゲン受容体)と黄体ホルモン受容体の発現がある場合は、エストロゲン拮抗剤が有効です。これが一回戦だとすると、二回戦は上皮細胞成長因子受容体2(HER2)たんぱく質の有無を検査します。陽性の場合はHER2と結合する抗体医薬「ハーセプチン」の出番です。問題は、トリプルネガティブの乳がんです。女性ホルモン受容体陰性、黄体ホルモン受容体陰性、HER2陰性のがんです。これは全部の乳がんの20%に相当しますが、現在のところ手術以外に有効な薬剤は存在しません。

 現在、このトリプルネガティブに対する乳がん治療、つまり乳がん治療の三回戦はかなり苦戦を強いられています。その突破口となる研究が、昨年の12月8日、米国で開催されたSan Antonio Breast Cancer Symposiumで、米TGen社のグループによって報告されました。米Life Technologies社製の次世代シーケンサーを駆使して、11人のトリプルネガティブの患者の乳がんのゲノムを全解読して、乳がんに蓄積していた遺伝子変異や遺伝子の増幅を詳細に解析したところ、今までトリプルネガティブのがんでは報告されていなかった、細胞増殖に関する2つのシグナル伝達経路の活性化が判明したのです。一つはRASやB-RAFなどがん遺伝子群が関与するMAPキナーゼ経路の亢進でした。もうひとつはPI3キナーゼ経路(MEK/AKT経路)の活性化が起こっていました。実際、MEK/AKT経路が亢進していた患者に、現在、フェーズ1臨床試験中のMEK・AKTキナーゼの阻害剤を投与したところ、治療効果を示すことがわかったのです。

 次世代シーケンサーによって、難攻不落だったトリプルネガティブの乳がんの攻略法も見えてきました。亢進しているシグナル伝達経路によってトリプルネガティブの乳がんも、MAPキナーゼタイプやIp3キナーゼタイプなど原因別に細かく分類され、治療法を選択する時代がやってこようとしています。まさに、乳癌の治療に技術革新が起ったといえるでしょう。
http://www.tgen.org/news/index.cfm?pageid=57&newsid=2015

 但し、楽観は禁物です。テニスの全豪オープンでもそうですが、決勝戦に近づくにつれ、試合はし烈さを増します。単なる亢進している細胞増殖に関与するシグナル伝達経路の多様性の次は、まだ手もつけられていないがんゲノムの不安定さとアポトーシス抵抗性という手ごわい問題が控えております。希望は見えましたが、がん撲滅のためにまだまだ精進を重ねなくてはならないのです。

 沖縄→青森→沖縄の出張で、すっかり風邪をひいてしまいました。皆さん、どうぞお風邪を召されぬよう、ご自愛願います。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満