とうとう澤穂希選手が、世界最優秀選手としてFIFAのバロンドール賞を受賞しました。男子選手として3年連続でバロンドールを受賞したメッシ選手と並んで、最高峰に到達しました。アジア選手としては空前絶後の快挙です。テニスでは昨年、グランドスラム大会(ローランギャロス)で中国の李娜に先を越されましたが、サッカーでは澤選手がアジア初世界一の栄冠に輝きました。園遊会以来、澤選手の着物姿も誠に板についてきたことも収穫でした。女子の世界最優秀監督賞も日本の佐々木監督が受賞、勢いでフェアプレイ賞まで日本サッカー協会が受賞するなど、大収穫でした。企業スポーツからの依存を脱却、Jリーグを創設して世界を目指した関係者の努力が、Jリーグ創設の翌年に誕生したLリーグ(現、なでしこリーグ)によって一足先に実現しました。昨年、日本の復興はまず女子からと申し上げましたが、それが最高の形で実現しました。澤の米国との延長戦後半12分のキックは、歴史を変えましたね。ところで、年間最優秀ゴール賞(プスカス賞)はブラジルサントスのネイマール選手に贈られました。以下のサイトからご覧になれますが、これは本当に凄い。ドリブル突破と最後の選手を鮮やかに抜き去った、ボールあしらいは、ルーニー選手のバイスクルシュートをウェブ投票で上回ってもルーニーファンとしても認めざるを得ません。世界クラブ選手権では、バルセロナの戦術に翻弄され不発でしたが、今年注目の選手であることは間違ない。
http://www.fifa.com/ballondor/puskasaward/index.html
http://www.fifa.com/ballondor/index.html

 さて、今年の湘南の初日の出では雲に囲まれ、出来損ないの卵焼きのような日の出でした。ここ10年間は雲ひとつ無い初日の出でしたから、なにやら先行き不安を感じさせます。しかし、昨年の初日の出はあれだけ絢爛豪華でありながら、東日本大震災、集中豪富、タイの洪水、ユーロ危機と、まったくろくな年ではなかったことを考えれば、気にすることはないのかも知れません。要は気の持ちよう。今年も皆さん、頑張りましょう。東日本の被災地の復興と福島の復興を粘り強く続けて、新しい日本を創り上げなくてはなりません。

 今年のバイオを示すキーワードは、常識の転覆かもしれません。

 第一の転覆は、先進国依存型の製薬産業の猛烈な勢いによる変質。青天井の自由薬価市場であった米国市場は今や規制市場に代わり、バイオテクノロジーなどお金のかかる技術突破を放埓に投入して新薬を開発をしても、元が取れるという状況は変わりました。今年は医療経済による新薬の評価も、我が国で進む可能性が濃厚です。イノベーション・バブルの時代が終わり、製薬産業の自動車産業からコスト管理、品質管理、そして臨床開発の管理などを学ぶ時代となりそうです。どんなイノベーションでも妥当なコストでなければ、当然のことながら持続可能ではないという認識です。

 こうしたコストを意識した製薬産業の全面的見直しが、新興国市場の成長相乗り戦略にも当然必要となります。今や新薬しかやらないと宣言して次の製薬企業のビジネスモデルである個の医療を追及しするロシュモデルと会社を先進国向けの新薬とバイオ医薬による研究開発型企業と、医療機器、ブランドジェネリック、栄養関連製品を製造販売する新興国向け企業に分割することを宣言、しかも後者をアボット社と名づけて存続させると決断したアボットモデルの戦いが鮮明となりました。武田薬品や第一三共、エーザイなどの日本企業と大部分のビッグファーマは、ジェネリックも新薬もと欲張るグローバルモデルを追及する構えですが、二兎を追うものは一兎も得ずという昔の諺が、なんとなく気になります。本当にマネージ可能なのか?J&Jのようなホールディングカンパニーになり、結局ばビッグファーマの実態は分割に向かうのか?2012年はその変化を感じる年となるかも知れません。

 いずれにせよ、「大きいことはよいことだ」という製造業資本主義の呪縛から、今年こそ皆さん逃れざるを得ません。

 第二の転覆はすべての新薬がオーファンドラッグ化するということです。2011年に米国食品医薬品局が認可したオーファンドラッグは全新薬の30%に到達しました。抗体医薬も良く調べてみるとオーファンドラッグである商品が多く存在しています。抗体医薬の特異性の高さは、単一の遺伝変異や単一の細胞の増殖などを攻撃するオーファンドラッグの開発に最適の武器を提供します。また、組み換えたんぱく質は機能不全に陥った疾患たんぱく質の機能を補充する技術として、ヒトたんぱく質を工業的に生産できる技術突破であると解釈すべきであるとすら思っております。バイオテクノロジーによって病気のメカニズムと患者の多様性がどんどん明確になればなるだけ、病名も治療法も細分化されていきます。病気の原因の分子変異名を縦軸、患者名を横軸とした膨大なマトリックスの1枡ごとに最適の医薬品を開発する努力が始まっているのです。しかも、1遺伝子変異は複数疾患の原因となり、一つの疾患には複数の遺伝子変異など病因が存在することを考えると、この個の医療のマトリックスは多次元空間に展開する複雑性を帯びることになります。いくら地球人口が60億人を超えたと言っても細分化がどんどん進んでオーファンドラッグ化する医薬品を本当に持続可能な形で開発できるのか?第一の常識の転覆によって、高薬価によって収益性を確保している現在のオーファンドラッグのビジネスモデルはいつまでも続かないことは明白です。個の医療化と病因が明白な希少病疾患の特徴を駆使して、前臨床と臨床開発コストをどこまで切り下げ、発売後、適応拡大を迅速にコストエフェクティブに増加させていくか?ここが勝負になると思います。どうしても新たなサイエンスとビジネスモデルが必要です。科学的には疾患の分子レベルでの再定義が重要となります。楽観的な見通しでは、疾患のシミュレーションモデルの構築によって、疾患関連遺伝子変異とライフスタイルの多様性がある程度関連付けた有限個のセットになるのではと期待しています。これが新たな病名となるのです。例えばALK変異疾患とか、環境ストレス性p53遺伝子変異疾患とか呼ぶのかも知れません。従来の病理学的な定義では希少疾患でもこうした疾患の分子レベルの再定義によって、実は患者さんの数は横断的に増える可能性があるのです。

 年末に米国製薬工業協会のサイトを熟読しておりましたら、米国製薬産業の喫緊の課題として患者さんの医薬品に対するアドヒアレンスが主張されていました。我が国でもそうですが、薬剤をちゃんと処方されない、薬剤を患者がちゃんと飲まない、そしてそもそもその薬剤が処方される疾患として診断されなかったり、診断する機会を得ないという悲劇があるのです。 薬をちゃんと患者さんに飲んでいただく。これが2012年でも重要テーマであることに、製薬産業の大問題があります。そこで第三の転覆です。それは製薬産業は単に医薬品を製造販売するだけでは、もはや社会の役に立たないということです。新薬不足を背景としたもはや分業の時代は終わったのかもしれません。製薬産業は患者を治すという最終的なソリューションにどれだけ肉薄できるのか?言葉を換えれば、医薬ではなく情報を中間媒介者である医療機関と患者さんに販売し、納得していただけれるのか?が、問われる時代となったのではないでしょうか?最も価値の高い命に関する情報を、今まで製薬産業はMRを通じて無料提供していた。自分たちで販売コードを決め、紋切り型の情報提供だけしていた。それがアドヒアレンスの問題の根源でもあります。もう一つの根源は、従来の医薬品は投薬前に本当に効果があるのか?実は保証できない欠陥商品であったということです。個の医療の実現によって、効果がある患者さんと副作用が出る患者さんを鑑別することができるようになれば、アドヒアレンスなど問題は雲散するでしょう。加えて病態を示すバイオマーカーがあれば最適です。

 転覆の第四は、国家の医療財政の悪化に伴い今までの医薬や医療市場は今世紀中は少なくとも低成長を強いられます。医薬産業は必然的に予防医療や健康管理など待ち伏せ医療へと展開せざるを得ないのです。この場合、最大で最良の医薬品は情報となることは間違いありません。やがて、Googleやマイクロソフト、インテル、IBM、NTT、Appleなどと製薬産業は戦略的提携を行うか、激烈な競争を行うか、選択しなくてはならないでしょう。

 第五の転覆は、あっと驚くような技術突破は今年も続くということです。これだけは全然転覆ではありませんが。イノベーションバブルは弾けましたが少子高齢化の我が国が成長するためには、日銀が円を大量に印刷して円の妥当な為替水準を維持することと、なんといっても技術突破が必要なのです。本日は医薬関連だけに言及しましたが、グリーンイノベーション関連を最後に指摘いたしますと、早ければ2012年に米国Monsanto社が開発した乾燥耐性のトウモロコシの栽培認可が我が国でも下り、2013年から世界で乾燥耐性トウモロコシの商業栽培が始まります。今まで水資源の制約に苦しんでいた乾燥地帯と大規模な灌漑による塩害で農地を失っていた米国や豪州の農業生産に革命が起こります。また、今年はバイオブタノールの商業化が英国BP社と米DuPont社によって始まります。既存のガソリンスタンド網を活用して再生可能バイオエネルギーが利用できるようになるのです。

 今年も、是非とも皆さんと良い意味でびっくりするような年になることを祈っております。読者ですごい進展をしたぞという方、いつでもご連絡をお待ちいたします。今年もどうぞ宜しく願います。

         日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

ご連絡は、https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/