がん薬物療法においては、抗がん作用の増強と抗がん剤耐性の回避、副作用の軽減を目的として、異なる作用機序の薬を組み合わせた併用投与レジメンが一般的に用いられている。従来は、個別に開発された抗がん剤同士が臨床現場において経験的に併用され、良好な治療成績を得られた組み合わせが標準治療法として用いられてきた。しかしながら、種々の抗がん剤の組み合わせについて系統的に有効性・安全性を評価することが必要であり、さらには、薬物間相互作用や個人差(SNPs、肝・腎機能など)も考慮した個別化医療の実現が求められる。システム理論、機構論に基づいたPKPD解析の手法を駆使することによって合理的な併用投与レジメンの検証・拡張を行うとともに、動態、薬効、副作用に関するバイオマーカーに基づいてがん患者を層別化し、それぞれについて最適な併用薬物療法を提供する個別化医療のための方法論を構築することが必要となる。

 がん細胞の場合、正常細胞と大きく異なる頑健性の高い代謝系が複数走っているため、複数のポイントを同時に抑制することにより相乗的な治療効果の得られることが示唆されている。これは、複数の増殖シグナルのクロストークが癌の増殖・進行に関与しているという事実から妥当な方法論であるといえる。その際、一つの方法論として、増殖シグナルのトリガーとなる標的受容体の異なる複数の薬剤を同時に投与する(併用薬物療法)ことにより、がんを効率よく制圧できる可能性が考えうる。

 一方で、がん治療においては、既に複数の薬剤を組み合わせた投与レジメンが臨床上多用されているが、ほとんどの場合は、経験的に得た臨床での治療成績を基に後付けで確立されたものであり、科学的な裏付けのもとに、理論的に創薬の初期段階からコンビネーションが規定されたものは数少ない。特に、近年開発が目覚ましい分子標的治療薬(低分子薬・抗体医薬)同士のコンビネーションセラピーについては、探索が途に就いたばかりである。効率良い併用療法を迅速に市場に提供するためには新薬開発のための治験の進め方も併用療法を基盤に見直す必要があると考えている。現在では、単剤での効果が確認された後に早くても臨床治験の後期に、併用療法レジメンが検討されている。今後はがん薬物療法において、分子標的薬(低分子抗がん剤、モノクローナル抗体など)の果たす役割はますます重要になると考えられる。その場合、標的分子と薬が結合した後のシグナル伝達パスウエイ間のクロストークの可能性を考慮すると適切な薬剤を併用することにより新規抗がん剤についても、創薬の初期段階から併用投与の有効性・安全性を検証するための臨床試験システム、および投与設計の個別化に役立つ試験システムを進めていく必要がある。

 その方法論として、システムズバイオロジーの手法のみならず、これまで、著者らがNEDOプロジェクトを介して推進実践してきたマイクロドース臨床試験を含む早期探索的臨床試験の手法、PETイメージングなどの効果的なバイオマーカーを用いる新しい臨床試験を活用する新しい臨床試験の枠組みを考えることが必要である。そのためには、基礎分子細胞生物学研究者、癌臨床薬理領域の研究者、そして、数理統計、バイオインフォマティクス研究者、PK/PD解析に携わる研究者の緊密な連携が必要となろう。