1年前、本欄に、「本気度が問われている、頑張れニッポン!」と題する一文を寄稿した。その中でバイオによる成果の医療実用化をサッカーに喩え、ボール(シーズ)をより早くゴールゲット(画期的医薬品・医療機器や医療技術を患者へ提供)するためのバック・ミッド・フォワードとしての学・産・官の各プレーヤが果たすべき役割と、連携プレーの重要さ、そして機に応じて柔軟にそれぞれの場から想像力でボールを前に運ぶべきスペースを見いだし、創造性及び集中力を発揮して、かつ、いかに強いゴールへの意識と執念でゲットを目指すか、本気度について問い、エールを送った。

 そして1年が経った。振り返ってみると比喩に用いたサッカーでは「なでしこジャパン」の奇跡ともいえる快挙があった。奇跡は「偶然」のみで起こされたものではなく、「必然」の積み重ねと、「必然」と「偶然」が最も好ましい形で組合わさった所産であった。まるで科学の新発見のように。

 バイオ医療オールジャパンはどうであったか?目指すゴールゲットはあったのか、なくともゴールにどれほど肉迫したか?残念ながら必ずしも強烈なインパクトのある成果が数々挙がったとはいえない。各プレーヤの強い「目的意識」と「本気度」の高さにおける迫力とチームとしての組織的活動において、世界を凌いだとはいえない。

 もちろん、バイオ医療とサッカーとは同じではない。バイオ医療の背景には「学」・「産」・「官」さらには「医」そして「患」という切り口の他に、研究者である個の多様性、個と組織、組織の多様性、組織と国、国内と国際、そして科学、経済、政治、さらには時間など、さまざまな要素や状況が次元を異にして存在している。絡まり合う多元連立方程式に対して、明快な解を出し、それを共通の目的とか価値として位置づけ、標榜し、一丸となって実施することの困難さがある。

 しかし、論評し、あるいは悩んでいるのみでは、事態の打開や進歩、進化はない。ここは敢えてことを単純明快にして、今一度原則に基づき考え、進むしかない。

 わが国でバイオ医療の振興がなぜ謳われるのか?病に苦しむ患者さん(Patient)のため、未来において病をえる可能性のある国民(People)のためである。また、技術創造立国としての国民益(Profit)に叶い、人類共通の資産の創出という平和的な国際貢献,国際益,すなわち公衆衛生益(Public Health)にも繋げるためである。
このことを繰り返し、理念として標榜し、目的意識を高め、実現のための効果的な方策を講ずるべきである。

 学・産・官ともこの数年来このような志向を強め、研究、産業開発、政策面での活動を強めてきたことは確かであるが、新たな年にはさらなる強化・飛躍と合わせ、従来の単なる延長線上ではない新たな試みや枠組みを考えることも必要である。

 研究面では基本的に予算の拡大が望まれるが、限られた財源の中では「実用化を標榜するものではなく実用化できるもの」を的確に評価・選択して資金を投入すべきである。基礎・基盤研究は種まき作業であり、濃淡も必要だが多様性、可能性、将来性への配慮がより肝要である。現行より広汎な研究費配分が望まれる。

 産業開発面では、ベンチャーのしたたかな知恵と体力の涵養とともに、活かすための政策の強化、大手企業の社会還元、未来投資に期待したい。

 規制面では、指針や枠組み整備がバイオイノベーション推進の水先案内、牽引力、推進力になる必要がある。世界に先駆けることにより国際的優位性を確保する武器にしたいものである。薬事相談、審査等への専門家の積極的関与への期待も大きい。

 先端技術や成果の社会的利用はそのリスクとどう向き合い、社会的ニーズとのバランスを秤り、制御していくかが課題である。決定は、あらゆる情報の開示と利用者の理解と認容の下での判断に委ねるのが鉄則であろう。医療応用の場合は、新製品や新技術に潜むかも知れない未知のリスクと、患者さんの疾病という重大なリスク及び時間の経過に伴うリスクの増大とを秤にかけ、最後は徹底したICと患者さんの自己決定に委ねる。時にはそうしたアプローチでしかフロンティアの突破はない。このようなコンセプトがいかほどの普遍性を持ち、広がるかがわが国発の先駆的医療実施の鍵となる。

 チームには監督なりコーチングスタッフなりが必要である。わが国がゴールを目指し、シーズ、プレーヤと戦術を手段として前に進んでいく際、個々のプレーヤに個別自在な判断を委ねるとしても、全体の戦況の中で、鳥瞰的にあるいは複眼的に事態を把握し、アドバイスを与える組織なり、システムなりが必要である。国の大型プロジェクトでは、課題毎にあるいはアドホックに類したものが存在している例も多いが、それらが他とも連携し、あるいはその成果が国の財産として統合的に蓄積されていっているか、さらには一般に公開され、他に資するに至っているか問われるべきである。

 患者目線を上位概念としつつ、審査目線、行政目線、研究者目線、産業目線、国際目線などを対象ごとにそれぞれメリハリとバランスよく活用する総合戦略とそれが適切に運用され、最も効率的、効果的、合理的に実施され、成果が蓄積され、公開され、次の課題に活かされるための国としての統合システムの構築が望まれる。