2012年は構造生物学が構造生命科学として生まれ変わる新しい出発の年になることを期待しています。タンパク3000プロジェクトの後継プロジェクトとして2007年に始まったターゲットタンパク研究プログラムが今年3月末に終了します。思い起こせば昨年3月11日に東大安田講堂でターゲットタンパク公開シンポジウム開催中に東日本大震災があり、参加者全員が安田講堂から飛び出て1時間ほど外で待った後シンポ自体が取りやめになったことは何か大事なことを示唆していたのかもしれません。

 実はそれに先立つ昨年2月から高木淳一教授(阪大蛋白研) 濡木理教授(東大理)、岩田想教授(京大医)らと次世代の構造生物学について集中的に議論を続け、広くライフサイエンス分野から必要とされる新しい学問として「構造生命科学」という考え方を提唱し構造生物学、細胞分子生物学、医学・薬学分野の先生方と相談しながら新しい方向性を議論してきました。

 私たちの提案する「構造生命科学」では、先端的ライフサイエンス領域と構造生物学との融合により、最先端の構造解析手法をシームレスに繋げ、原子レベルから細胞・組織レベルまでの階層構造のダイナミクスを解明することで生命反応・相互作用を構造から予測するための普遍的原理を導出し、それらを駆使しながら生命・医科学上重要な課題の解決に取り組むことでライフサイエンスの革新に繋げることを目指します。

 そこでは、分解能や特性の異なる複数の構造解析手法を組み合わせそれらの「相関(correlation)」を用いて多面的に解析することで単一手法では到達不可能なレベルの生命機能解明を目指す「多次元的な」相関構造解析という新しい研究法を提唱しています。

 また、ターゲットタンパク研究プログラムの基盤技術については平成23年度から「創薬等支援技術基盤プラットフォーム」として補助金化され、来年度4月からは新たな体制で始めることが検討されており、そことの連携も重要と考えます。これらの新しい考え方について広く議論するために1月9日に学術会議大講堂で「先端的異分野融合を核とした構造生命科学の飛躍に向けて」という主題の公開シンポジウム( http://square.umin.ac.jp/kozo2011/index.html )を開催いたしますのでご興味のある方は是非ご参加ください。

 一方、震災で3カ月間運転を停止したフォトンファクトリーでは、国内外の多くの方々、放射光施設のご協力により昨年10月から運転を再開することができました。この場を借りてご支援いただきました皆様に御礼申し上げます。

 2012年度は放射光分野でも次への展開に向けて大きな動きがあることと思います。今年は昨年レーザー発振したX線自由電子レーザーSACLAが共用を開始しますが、それに向けてライフサイエンス分野でも利用研究に向けた開発が進められています。

 つくばの高エネ機構ではフォトンファクトリーの後継機として開発を進めているエネルギー回収型線形加速器(ERL)の実証機cERLが2012年度末の運転開始に向けて開発を加速するとともに、東日本震災からの復興の一環として複数の挿入光源ビームラインの開発を行います。その中は特にアンジュレーター光を利用したX線小角散乱実験ステーションの建設を計画しており、上記の相関構造解析の重要な一手法として他の構造解析手法との相補的な利用を目指します。ERL建設に向けては、大学や研究所に横断的な組織横断的な量子ビーム科学センターや加速器科学センターの設置を依頼し、高エネ機構とそれらのセンターのネットワークとして新たな大学共同利用のシステムの検討を始めています。これらの活動を通して、加速器技術を使ったライフサイエンス研究が今後ますます発展していくことを願っております。