どの企業でも新年には社員に向けて念頭初心を話されていることと思う。今回の寄稿にあたり自分がこの数年何を世相のキーワードとしてきたかを確認するために、自身の資料を振り返ってみた。2008年から2011年のキーワード変遷は、順に「2008年:サステイナビリティー」⇒「2009年:サバイバビリティー」⇒「2010年:新たな価値観の模索」⇒「2011年:新たな価値観の創出・提供」であった。結局、“何とか生き残らねば…”、“大きな変化の期待”と言った私の強い願望の裏返しであった。しかし、現実は何も変わっていない。

 より冷静にこの数年の日本の世界における位置づけを振り返ると、留まる所を知らないグローバルにおける日本の存在感の低下をヒシヒシと感じる。巷では様々な理由が議論されているが、政府も含めて日本国民全体の“自信喪失”とそれが常態化してきているため、“あきらめ”を通り越して“麻痺状態”に近付いているのではないだろうか?そこに震災やそれに伴う原発事故、タイの洪水などで復興の機運もなかなか盛り上がってこない。結果的に、この数年は閉塞感を打ち破る大きな変化が起こっていない。

 そんな中で昨年11月にブータンのワンチュク国王夫妻が来日された。ブータンと言えば、国民総幸福量と言う新たな指標を定めて、その向上により国家が統治されているユニークな国である。短い滞在期間であったが、日本人が忘れかけている打算の無い慈悲・暖かさを感じた方も多かったのではないか。しかし、私が何よりも感じたのは強い自信に裏打ちされた“ぶれない軸”である。他の国と違う事に対する自信と誇り、もしかすると違うこと自体を当然と思われているのかも知れない。ご夫妻が醸し出される今の日本が失っている異次元空間を多くの人が羨望とともに好意的に受け止めたのではないだろうか。

 話を戻そう、なぜこれ程“自信喪失”が深刻化しているのか?批判を恐れずに申し上げると、みなと違う事を否定する“村八分文化”から脱却できていない事に起因するのではないのか?一歩踏み出す度に上げ足を取られ、それを気にするが故にどんどん委縮する事の繰り返しである。我々バイオベンチャーは、技術、開発品そしてビジネスモデルもこれまでに無い物をその可能性を信じで事業化し、社会に貢献することが大きな使命であると考えている。しかし、新しい事をすることがむしろ足かせになり、社会貢献までのハードルは年々高く大きくなってきている。そして、そうした“志”を強くサポートする為の資金、人材、社会的なセーフティーネットは残念ながら全く整っておらず何も変わっていない。バイオベンチャーの経営と言う、幾重の苦難を乗り越えると言う貴重な経験をしてきた人材の活用も、大きな変化を現実のものとするための原動力としては、喫緊の課題である。

 そんな中、昨年は弊社も含めてバイオベンチャー5社が上場を果たした。市況の厳しさはもちろん、加えてバイオベンチャーに対する風当たりの強さは各社それぞれ実感されていると思う。結果として、上場と言う手段はその労に対するメリットは小さくなっているのは事実である。資金調達の手段としての魅力が乏しいのが最大の理由である。そうした状況で、我が国においても異業種大手企業によるヘルスケアへの新規参入が事例として注目されている。EXITの手段として更に一歩進んだFair ValueによるM&Aは大きな変化における起爆剤として期待したい。

 超高齢化社会、小さな国土、乏しい天然資源、低い食糧自給率などを考えると、“変化しないでいる状況”をこれ以上放置している場合では無い。その中で今後も人類にとって不可欠な健康に携わる我々が、この辺りでそろそろ“開き直っても良い”のではないだろうか!ナイナイ尽くしで開き直るのに勇気は要るが、どんどん閉塞されている空気を自分たちが変えない限り何事も始まらない。我々は諸外国の人材に負けないだけの潜在能力をもっているにも係わらず、それを引き出せていない。2012年はそう言う意味で、開き直りから“自信”と言う意識を再生し、実績を積み上げる逆転の発想による転換点になればと思っている。

 そう言えば抗体の話しをしていない。次世代抗体も新たな技術の出現あるいは実用化の進展で今後が大変楽しみである。協和発酵キリンさんのポテリジェントや中外製薬さんのリサイクル抗体など、日本発の基盤技術が真価を問われるのは正にこれからであろう。元々免疫では世界をリードしてきた日本の面目躍如として、抗体の実用化でグローバルにおける存在感を高めていければと思う。その為には他の技術、工学機器、IT等の組み合わせによる新たな治療法や診断法の開発に注目したい。この数年、産官学連携、医工薬連携、資本提携等の枠組みがスタートしているが、明確なマイルストンの設定により確実に事業に結び付けていく事が肝要である。 “迷走した挙句に自然消滅の愚”は絶対に繰り返してはならない。

 さて、登り龍になって欲しい2012年がいよいよスタートする。昨年失ったものはとてつもなく大きかったが、日本中がそれを真摯に受け止めて対応しようとしてきた1年であった。2012年は、一転“アホか!?”と思われるレベルの“開き直り”から、“良い意味での想定外なイベント”が沢山起こる事を願ってやまない。