2011年は日本のバイオ業界にとって大きな1年でした。バイオテック5社の上場、バイオテックと製薬企業との総額数百億円規模の契約、PMDAの薬事戦略相談の開始、医療イノベーション推進室の設置、また産業革新機構によるバイオテックへの2社目の投資も記憶に新しいところです。つい最近まで「日本のバイオはもう駄目だ」という悲観論が主流を占めていたことを思うと、2011年はまさに「潮目の変化」を予感させる1年でありました。

 ただし課題も山積です。依然厳しいリスクマネー環境。上場バイオテックに対する株式市場の厳しい評価。人材流動性の低さ。バイオテックの新規起業の激減。医療イノベーション推進室が掲げた理想と現実。昨年はバイオ産業が超えるべき壁がより一層明確になった1年でもありました。そのような壁を打破するひとつの可能性として、ここでは特に「新春展望:異業種参入」を指摘したいと思います。

 弊社CDIは経営コンサルティングファームとして、様々な産業領域を広く経験してきましたが、直近1、2年で「異変」が起きています。それは「異業種によるバイオ新規事業」のプロジェクトが増加したことです。どのクライアントもバイオのイメージが弱い/無い企業でありつつも、バイオに対する強い熱意があること、極めて高度でユニークな技術を持っているということ、実は既に数億円(場合によっては数十億円)の投資を行い、研究開発と事業化の努力を年単位で継続してきたことが共通しています。「異業種新規参入」の事業者は後発組ゆえに経験が不足しており、アカデミア、バイオテック、製薬企業などの既存プレイヤーとの連携を強く求めています。既存プレイヤーとしても、異業種新規参入組の熱意、技術力、資本力を活かさない手はありません。2012年はこういった連携が増えていく1年になるのではないでしょうか。

 しかしながら足下の状況としては、異業種新規参入組と既存プレイヤーは必ずしも幸せな「出会い」を経験していません。私はその根本原因は「NDA(Non-DisclosureAgreement)の弊害」にあると考えています。

 バイオの世界ではクローズド・イノベーションは限界に達しつつあり、オープン・イノベーション(OI)の実現が最大のイシューであります。そのOIのきっかけとなる組織と組織の交渉現場では「ノンコンフィデンシャル(ノンコン)」ベースの情報交換が行われています。しかし日本企業は一般にノンコン交渉が極めて不得手です。ノンコン=ご挨拶程度の当たり障りのないやり取りに終始し、本質的な議論は「NDAを結んでから」となってしまいがちなのです。

 しかし、例えばあるグローバルメガファーマのBD担当者は年間7000件もの案件対応をする中で、NDA締結は1割程度と証言しています(参考1)。また、シリコンバレーのVCではNDAを結ぶ方が稀とまで言われています(参考2)。NDAには情報のコンタミネーションや、何よりも交渉のスピードやOIに必須な「異なる個人・組織間での自由なアイデアの交流」が阻害されてしまうという弊害があります。

 このような課題認識のもと、2012年に私が取り組みたいのは「異業種参入促進」です。前述の通り、技術力・資本力の大きな日本の「異業種新規参入企業」は数多く存在しています。こういった企業と製薬企業、バイオテック、アカデミア、行政の間において、誤解を恐れずに言えば「インサイダー情報のオープンなやり取り」を促進するような仕組みが必要なのではないでしょうか。このような取り組みは、利益相反の恐れもあり大変に困難なことではありますが、私個人としては、OIの「潤滑油」として機能すべく、実現に向けて今年も粉骨砕身の努力をしていきたいと考えています。

参考1:経済産業省 平成22 年度産学連携人材育成事業 バイオテクノロジー産業の発展を担う人材育成のあり方に関する調査報告書「具体事例から学ぶ創薬系バイオベンチャー経営の要点」, 2011年3月, p95.
参考2:Feld & Mendelson, “venture deals”;, 2011年8月, p133.