昨夜、フィギュアスケート全日本選手権をご覧になった読者も多かったのではないでしょうか?
そして、誰もがほっとしたのだと思います。浅田真央選手は必ずしも万全なスケーティングでは
ありませんでしたが、村上佳菜子が思いっきり転んだために、優勝を手にしました。演技後に、
キッス&クライで自分の転んだ映像を見て、コーチと共に大笑いしていた村上選手の大人物
ぶりに救われた思いですが、浅田選手を姉のように慕う彼女にとっては最終滑走順だけが、
プレッシャーではなかったと感じています。ともあれ、良かった。これで心静かに年を越せます。
しかし、全国民がここまで気遣いできる優しさを持っている日本はつくづく素敵な国です。

 さてバイオです。
 現在、オミックス医療研究会のシンポジウム会場におります。この研究会はユニークな研究
者が集うため、楽しめます。今回のテーマは「先制医療と個別化医療が拓く未来」と銘打って、
哲学、情報学、データベース、医療経済学、そしてバイオテクノロジーなどの研究者、それも
一癖も二癖ある個性的な研究者が、言いたい放題言っていることが真に好ましい。単一の
学問領域の科学者だけが智恵を集めても、深い井戸は掘れますが、社会の人々に幅広く
水を飲ませることは決してできません。

 こうした才能達にお会いすることに加え、理化学研究所神戸の西川先生の今朝の講演の
タイトル「ゲノム文明」にやられたため早起きして、いそいそと会場に向かいました。17世紀から
科学と哲学の流れを説き起こし、いまやゲノム研究が人類の文明に大きな影響を与える21
世紀最大のイベントであると西川先生は指摘、後1年で幹細胞研究から脚を洗ったら、ゲノム
情報が文明に与えるインパクトに関して、論を展開したいとおっしゃっておりました。

 西川先生の指摘で、特に印象が残ったのが、セルフログをベースとしてゲノム情報や医療、
健康情報などの活動を大規模に収集、そうしたゲノム情報や生命情報を全人類もしくは
国民が共有し、ICT技術を駆使してメタアナリシスを行い、疾病や健康に関する重要な知識
やバイオマーカを発掘することが、21世紀で可能となったという点です。しかも、こうした知識
ベース作成には国家ではなく、国民一人一人が善意の資金を持ち寄って実現する運動とし
て展開すべきであるという指摘でした。

 また、「(王侯貴族でもない一般市民の)個人が死亡後も知識ベースにゲノム情報や生命
情報を預託することで歴史に参加することができるようになった。一回きりの個人の情報を、
その気があれば残せる時代が来た。これが21世紀である」との指摘は鮮烈でした。これまで
歴史のなかでほとんどの個人が生きた証は埋もれて失われてきました。近親の記憶や過去帳
の中にわずかに痕跡を留めても、それを社会の貴重な知識にまで蒸留することはできません。
ヒトゲノム解析がこうした個人が生きた証を情報として留めることができるとするならば、
これは人間にとっても、偉大な革命となるかも知れません。自由、平等、博愛という18世紀
後半にフランス革命から生じた概念を超える、人類としての認識が誕生する可能性すらある
でしょう。人類皆同じという幻想から、人類皆異なるが、それでも自由、平等、博愛を担保、
発展させる人間観が生まれるかも知れません。

 ゲノムは、急速にグローバル化が進み、システミックリスクが増大しつつある地球と人類を
救うかも知れません。今年はろくな年ではありませんでしたが、年の瀬になって少し未来が
明るく見えるようになってまいりました。

 今年のランキングメールはこれで最後です。どうぞ皆さん、良き年をお迎え願います。

             日経バイオテクONLINE Webmaster 宮田 満

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