「この国に 恙のありて 年賀書く」。恙(つつが)も大小様々、一つでもバイオテクノロジーの力で克服できればとの想いでRECHS(レックス)の抱負です。RECHSは健康科学リソースセンターの英語呼称“Resource Center for Health Science”の略です。事業の根幹は個々人ごとの健康記録であるPHR(Personal Health Record)と一体化させたバイオリソースの歴年的長期保管とその利用です。

 健康増進法が制定されて10年近くが経過しています。メタボという言葉が一般化し、対策についての話題も久しいものとなっています。日本の大手製薬企業が開発ターゲットを生活習慣病薬から抗腫瘍薬にシフトするという報道(*1)からも、健康増進の成果は出始めていると言えるでしょう。しかし、特定健康診査の受診率(約41%)から見ても、まだまだ健康問題が自分事として認識されているとは思えません。自分が関わっていない統計数値を基にした生活習慣改善アドバイスは説得力が弱く、実際に疾患予備群の人々が食事と医薬の重要性を無視して、健康食品に依存する例も少なくありません。個人の体質や生活習慣に焦点を合わせたPHRが構築されていないことも原因の一つでしょう。さらに、人由来のサンプルやデータを海外に依存して健康科学の研究開発が進められおり、我国は食料だけではなくこの面でも輸入大国です。お人よしにも、日本人の貴重なサンプルが海外に流失して、、、。

 この恙を放置しておいてよいのでしょうか。いま仮に、個人ごとに食習慣やストレス調査情報と検査医療情報の記録からなる「日本版PHR」と、同一個人の小分注された血液などのバイオリソースを一体化させて、健常状態から歴年的に長期間保管されたものがあると仮定すると、「過去に遡っての前向きコホート研究」が可能となります。これこそがBack To The Futureプロジェクトです。実は、RECHSのこのプロジェクトは京都大学(*2)と地方の中核病院である松波総合病院(*3)の連携で人間ドック受診者を対象に昨年末から始まっています。人の移動が少なく、健診から治療に至るまでを一貫してケアできる地域密着型医療が基本発想です。多くのサンプル(N)数を追求するのではなく、同一個人の、健常時からの“バイオリソース付きPHR”を歴年的に長期にわたって集積してデータベース化することを優先させています。逆説的に、これが欠落しているために、これまでのバイオマーカー検索/検証ではできる限り多くのN数の健常と疾患の両群を比較解析するという次善の策に頼っていると言えます。ごく最近、従来の(過去に遡らない)前向きコホート研究で健常な2422人を12年間追跡調査し、発症した201人の結果から、血清成分のプロファイリングと言うフェノタイプ解析によって糖尿病のリスク評価が可能であることが示されました(*4)。つまり、過去に遡れるRECHSプロジェクトによって、プロファイリングを含む新規バイオマーカーによる(特定疾患の)早期一次予防のための検査法の開発と検証がより有効であることが明示されました。

 人が関わるリソースには「食」も重要であることから、人間健康科学に関する講演会に合わせて、食における物事の選択の意味などで情報発信しています(*5)。これは福沢諭吉の名言を取り込んだ、食の「学問のすゝめ」を標榜するエスカオロジー(*6)です。

 “バイオリソース付きPHR”の費用対効果については、スウェーデンのようにデータベースを国家的財産(*7)にするという国策レベルでの討議がなされて初めて正当に評価されるのではないでしょうか。何しろ、日本は超長寿国モデルとして世界が注目しているのですから。本年を、地域医療密着型のバイオリソース付き日本版PHRデータベース構築の元年にしたいと思っています。

 本年もよろしくお願い申し上げます。

参考情報
(*1) 日本経済新聞:2011年9月20日
(*2) 京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系 齋藤邦明教授:Biotechnology Japan
ニュース 2010-08-18 02:50:21
(*3) 社会医療法人 蘇西厚生会 松波総合病院(松波英寿 理事長)
(*4) T. J. Wang et al. Nature Medicine 17(4) 448-453 (2011)
(*5) http://www.rechs.org/
(*6) http://www.escaology.com/
(*7) 岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科 紀ノ定保臣教授との対談