こんにちは。水曜日のメールマガジンを担当する日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 今週月曜の夜、慶応大学薬学部で開かれた勉強会で、学生さんや製薬企業の関係の方々を前に講演させていただく機会がありました。非常に楽しく議論する機会を提供いただき、関係者の方には大変感謝しています。

 講演の中では、日本の製薬産業が今後どういう方向に向かっていくのかを議論させていただきました。そのテーマの1つが、グローバルの事業展開です。これまでに、大手・準大手製薬企業の多くが海外展開で成功を収めてきましたが、そのほぼ全てが「低分子の新薬で米国を中心とする先進国の市場に出ていく」というものでした。つまり、低分子の新薬創出力においては、日本企業が高い国際競争力を有していることは既に実証されたといっていいでしょう。しかし、新薬はいずれ特許切れを迎え、ジェネリックに市場を奪われる宿命にあります。このため、先行して米国進出に成功した企業の多くが2010年問題に直面しました。

 その点、ジェネリック自体やワクチンは、特許切れで市場を奪われるようなことはありません。しかもこれらの製品は、先進国のみならず、新興国においても大きな市場が期待できます。ところが、ジェネリックやワクチンの(新興国マーケットを含めた)グローバルビジネスで成功した企業は、残念ながらまだ日本にはありません。

 そういった意味では、武田薬品工業が12月初めにグローバルのワクチン事業に乗り出す方針を打ち出したのは大きなインパクトがありました。スイスNycomed社を買収したからこそ宣言できたのだと思いますが、特に新興国市場への進出となるとコストなども競争上の大きな要因になると考えられます。果たして、ジェネリックやワクチンなどのグローバルビジネスで、日本企業に勝算はあるのでしょうか。武田薬品の動向は、日本の製薬産業の今後を占う1つの試金石になるものとしても注目していきたいと思います。

武田薬品工業株式会社、グローバルでのワクチン事業の強化について
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/pressrelease/20111206/158275/

 いずれにせよ、今後、日本企業が考えなければならないのは、新興国を含めたグローバル(当面はアジアに限定してもいいかもしれませんが)で売れる製品は何で、そこにどうやって参入していくかということです。ジェネリックやワクチンを例に挙げましたが、そういうコスト競争の激しいところに後追いで出ていくのではなく、むしろ「新薬創出力」みたいなところに磨きをかけて、新興国でも例えば「富裕層」をターゲットに絞ったビジネスを狙う方がいいのかもしれません。日本の人口減少や、欧米先進国における医療費抑制といった文脈の中で、新興国市場への進出が日本企業にとって喫緊の課題であるのは確かでしょう。勉強会ではそのようなことを議論しました。

 また、これ以外にも、「日本企業はバイオ医薬品の製造で競争力を発揮できるのか」「コンパニオン診断薬を必要とする医薬品が増加することで、製薬企業と診断薬企業の力関係に影響は生じないか」「研究・開発・製造・販売に至る医薬品のバリューチェーンの中で、最も付加価値を握るのはどこか」「10年後、20年後の製薬企業、バイオ企業のコアコンピタンスと何か」といったテーマで、参加者された方々と議論することができました。特に結論めいたものに至ったわけではありませんが、非常に面白い議論ができたので、機会を見つけてこのメールなどで皆様と情報共有していきたいと思います。

 話は変わりますが、12月上旬に、日経バイオテクONLINEや日経バイオテクONLINEメールに対するご意見を聞くアンケート調査を、このメールマガジンの読者の方を対象に実施させていただきました。ご協力いただいた方には御礼申し上げます。

 アンケートでは改良点などを含めていろいろなご意見を伺うことができました。例えばこのメールマガジンの中で、我々の書く文章を前半に置くのがいいのか後半にするのがいいのかという問題のように、読者の方の意見が真っ二つに分かれたものもありましたが、皆様からいただいたご意見は、極力、次回の改修などに反映させていきたいと考えています。

 皆様からの意見で多かったものに、「記事を無料で読めるようにしてほしい」というものがありましたが、我々のビジネスモデルに関わるところであり、無料にするのは困難です。ただ、我々としては以前もメールマガジンに書きましたが、他では読めないニュースや解説を掲載し、個性的であることを重視した媒体運営をしています。そして、こうした個性的なメディアを運営できるのは、読者の方に購読料を負担いただいているからです。

 それでも少しでも多くの方にお読みいただけるように、「日経バイオテクONLINE」購読のみの料金体系も設けました(下のリンクをご覧ください)。何とぞ「他では読めない記事」の価値をお認めいただき、ご購読を検討いただければ幸いです。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/online.html

 さて、年末に向けて、まだまだニュースは配信しますが、日経バイオテクONLINEメールの年内の配信は26日月曜までとさせていただきます。従って、水曜日のメールマガジンに私の記事を掲載するのは、年内はこれで最後になります。皆様よいお年をお迎えください。

 なお、メール配信は12月27日から1月3日までお休みさせていただきますが、日経バイオテクONLINEでは、識者の方に寄稿いただく「2012年新春展望」など、幾つかのイベントを用意しています。お正月もぜひ、日経バイオテクONLINEをご覧ください。

https://bio.nikkeibp.co.jp/

 また、12月13日にバイオ産業のトレンドを開設した書籍「日経バイオ年鑑2012」を発行しました。今年は、従来の市場動向や研究開発のトレンドの開設に加えて、「バイオ分野における東日本大震災の影響」に関するリポートなども掲載しました。日経バイオテク本誌で好評いただいている連載「パイプライン研究」に関して、全37領域のパイプラインの状況を直近情報に基づいて更新し、一括掲載している点も、皆様から好評いただいています。この機会にぜひ、日経バイオ年鑑をお求めいただければ幸いです。

http://nbt.nikkeibp.co.jp/bio/book/04.html

 本日はこの辺で失礼します。ご意見、ご批判は以下のフォームよりお願いします。

 https://bio.nikkeibp.co.jp/inquiry/

                    日経バイオテク編集長 橋本宗明